TOPICS 2022.10.24 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第6回(前編)

第6回 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のアムロ・レイ

無尽蔵に増えていくシリーズ続編には否定的な意見を持っていた古谷徹だが、劇場用新作となる『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、逆襲のシャア)』をどのように感じたのだろうか。劇中でのアムロは内向的で戦いに否定的だったかつての少年ではなく、軍人として地位を確立した大人の男へと成長していた。『逆襲のシャア』でのアムロ・レイの演じかたについて、古谷徹に聞く。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

完全復活を遂げたアムロを演じられる喜び

劇場作品である『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』は1988年に公開された。『機動戦士Ζガンダム』の放送開始が1985年なので、そのあいだは3年ほどしかない。言わば、数年後にはさらに続編が制作されてしまったわけだが、これまでのインタビューでもわかる通り、『ガンダム』の安易なシリーズ化に対して古谷徹は否定的だった。

古谷 『逆襲のシャア』は劇場版でも、リメイクとか総集編ではないオリジナルの新作ということで、これまでの『ガンダム』とは違うという認識はありました。ただ、最初にタイトルを聞いたときに「あれ、『逆襲のシャア』ってシャアが主人公になったの?」とは思いましたね。え、なんでアムロじゃないの?と(笑)。その後、設定やストーリーを聞いて、今回のアムロは29歳であるとか、軍人として部下もいる責任のある立場だと。さらに『機動戦士Ζガンダム』とは違ってシャアと戦うという。不甲斐なさを引きずっていたアムロが、いよいよ立ち上がるんだなという印象がありました。今回はちゃんと宇宙に行って戦うというところもアムロの復活を表していて、個人的にはとてもうれしかったです。続編としては『機動戦士Ζガンダム』『機動戦士ガンダムΖΖ』という2作品があったわけですが、劇場のオリジナル作品にはやっぱりアムロとシャアが出ないとガンダムファンには応えられないんだなっていう感覚もあって、自分のプライドも満足させられましたね(笑)。

――やはり、アムロとシャアの決着をファンも見たかったということもあると思います。
古谷 富野監督としてもやりたかったのでしょうし、このふたりの決着がつかないと先に進めないというのもあったかもしれない。とにかく脚本を読んで感じたのは、『ガンダム』を知らない人が見てもひとつの作品として楽しめる内容だなと。人物関係や設定もそれほど難しくなく、わかりやすいエンターテインメイントとして確立されている作品だなと感じました。

――最初に脚本を読んだ印象としては、あの終わり方はいかがでしたか?
古谷 グレーゾーンというか、曖昧にしているところにはちょっと不安を感じましたけどね。また続編が出るんじゃないかって(笑)。でも、あれはどう見たって生きていられる状況じゃないし、そこを明確にしないで視聴者の判断に委ねるというのは良かったと思います。命を懸けて戦って燃え尽きたというか、『あしたのジョー』の最終回にも通ずるような曖昧さがあって。でも、僕はこの作品でアムロはシャアに完全に勝ったと思っているんだけど、富野監督は互角にしたかったのかもしれない。アクシズの落下に関して、シャアは自分の作戦は完璧だと思っていただろうし、実際にあの作戦はほぼ成功していたわけでしょう? だから大きな作戦ではアムロは負けているわけで、個人の戦闘で勝ったとしても、トータルでは互角といえるのかもしれないと感じる部分はありますね。

――『逆襲のシャア』に対して否定的な感覚はあまりなかったのでしょうか?
古谷 このときは、まったくなかったです。29歳のアムロはカッコ良かったし、νガンダムの設定を知ったときには過去のガンダムでいちばんカッコイイんじゃないかと思ったくらい気に入りましたね。攻防一体の武器であるフィン・ファンネルが圧倒的に強いし、シンプルなデザインなのもすごく好きなんですよ。それに僕の大好きなチェーンも登場する(笑)。

――チェーン・アギは、どこが古谷さんの好みに直撃なんでしょうか?
古谷 『ガンダム』に登場した歴代ヒロインの中でもチェーンが好きなんだよね(笑)。アムロが惹かれるのも共感できるし……ルックスは当然として性格的な部分が大きいのかもしれない。アムロのことを尊敬してくれているし、ベルトーチカと違って一歩引いているところがある。常にアムロがいちばん良い状態で戦場に出ていけるように気配りをしてくれるのを感じられて、そういうところが好きなんだろうと思います。ちょっと古風な日本女性というのかな、そういう距離感が好きなんでしょうね。たとえば、チェーンがアムロの士官室の前で寝てしまうシーンもあれは数分じゃなくてそれなりに長い時間が経過していると思うんだけど、それでもちゃんと待っていてくれる。そういうところが好きなんです。

――控えめな女性が登場することは富野監督の作品では珍しいですね。
古谷 性格的には最初のフラウ・ボゥが近いのかもしれませんが、彼女は幼なじみだったからちょっと違うかな。チェーンとは上司部下の関係で、いわば職場恋愛でもあるわけで、完全に大人の恋人同士ですよね。どういう出会いで、アムロはどうやってチェーンを口説いたのか、演じてみたいですね。この時代のアムロにとって好みなんだろうというのは、僕にとっても自然に受け入れられることだったから、そういう細かいことも知りたくなってしまいますね (笑)。