TOPICS 2022.10.24 │ 12:00

アムロ・レイの演じかた
~古谷徹の演技・人物論~ 第6回(前編)

第6回 『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』のアムロ・レイ

無尽蔵に増えていくシリーズ続編には否定的な意見を持っていた古谷徹だが、劇場用新作となる『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア(以下、逆襲のシャア)』をどのように感じたのだろうか。劇中でのアムロは内向的で戦いに否定的だったかつての少年ではなく、軍人として地位を確立した大人の男へと成長していた。『逆襲のシャア』でのアムロ・レイの演じかたについて、古谷徹に聞く。

取材・文/富田英樹 撮影/高橋定敬 ヘアメイク/氏川千尋 スタイリスト/安部賢輝 協力/青二プロダクション、バンダイナムコフィルムワークス

29歳のアムロは、自分にもっとも近い存在

ここからは印象的なシーンを実際に見ながら、ご自身が使用したアフレコ台本を参照しつつ、当時の出来事や演技についての詳細を聞いていく。アムロの登場シーンのすべてを聞きたかったが、時間の関係でそれがかなわなかったのが残念である。だが、新たな発見もあったので、ぜひ映画を見てから読んでいただきたい。

――アフレコは台本の頭から順に収録していくのでしょうか? その場合、最初のセリフはいきなり戦闘シーンからでしたが、一発目のセリフを発声するときはどんな気持ちでしたか?
古谷 基本的には最初から通して収録しますが、どうしてもやり直したい部分が出たときは、後日、そこだけ部分収録ということはありますね。この映画の最初のセリフは「このフィフスを、地球に落ちるのを阻止できなかったとは」ですが、戦闘シーンであっても感情表現を少し抑えめにしている。戦闘そのものに興奮するようなことは29歳のアムロにはもうなくて、冷静に戦況を判断しているんでしょうね。これは『機動戦士Ζガンダム』での23歳のアムロよりも顕著に出ているし、余裕ともとれる。シャアの赤いサザビーが突撃してきても、それに対してビビるようなことはないですね。

――なるほど。
古谷 ただ、シャアに対する思いは『機動戦士Ζガンダム』で共闘していたことが大きく影響していると思う。お互いの実態を知っているということが、戦場でのプレッシャーに備えられることにもなるのでしょう。29歳のアムロの意識は、当時の自分の実年齢(35歳)に近いこともあって、15歳のアムロほど声を作ることはありませんでした。普段の声に近い、自然体で演じられるということは大きいかもしれない。当時のアフレコ台本にも「29歳」というメモがあるように、年齢に応じた落ち着いた芝居をしようという意識があったことがわかります。

――この冒頭の戦闘シーンでは、アムロとシャアのそれぞれの主張や立場がセリフの応酬のなかで明確にされています。とくに「エゴだよ、それは」というセリフは、当時子供だった我々にとって「エゴ」という言葉を知らしめた名セリフとして記憶に残りました。
古谷 普通、ロボットアニメで「エゴ」なんて言わないよね(笑)。でも、この戦闘シーンで、シャアは人類を抹殺する理由と地球寒冷化の目的を明確に語っているし、アムロはそれに対して「個人が決めていい決断ではない」と反論している。アフレコ台本によると、このシーンでは「個人に人類を粛正する権利はない」という、削除されたアムロの主張、スタンスがわかるセリフがあった。だからこそ、それに反するシャアに対して「エゴだよ、それは」なんだよね。でも、このセリフをカットして「エゴだよ、それは」に集約してしまうのが富野監督のすごいところですよね。シャアの「地球がもたんときが来ているのだ」というセリフにしても、台本上では「地球がもたんときが来ているのを知っていて、何を言う」となっているのを短くカットしている。そのあとに「そのモビルスーツでは相手にならん」とか「あんなものに乗ったアムロに勝っても意味がない」というセリフもカットされているけれど、要するにこれは冒頭の戦闘シーンでのシャアは手を抜いていたということですよね。だからこそサイコ・フレームの技術を漏洩して、アムロに強いガンダムを与えたかった。嫌なヤツだよね~シャアって(笑)。endmark

古谷徹
ふるやとおる 7月31日、神奈川県生まれ。幼少期から子役として芸能活動に参加し、中学生時代に『巨人の星』の主人公、星飛雄馬の声を演じたことから声優への道を歩み始める。1979年放送開始された『機動戦士ガンダム』の主人公アムロ・レイをはじめ、『ワンピース』『聖闘士星矢』『美少女戦士セーラームーン』『ドラゴンボール』『名探偵コナン』など大ヒット作品に出演。ヒーローキャラクターを演じる代名詞的な声優として現在も活動中。