ベルトーチカは自分の年齢と近い初めての役
- 『機動戦士Ζガンダム』において、アムロ・レイは鬱屈したキャラクターとして登場する。長い幽閉生活で萎えた精神は戦いを拒絶するが、その閉じた心に入り込んで重い扉を開けたのがベルトーチカ・イルマである。高飛車で傲慢な印象の一方で、アムロに対しては一途な顔も見せるベルトーチカ。そんな複雑なキャラクターを演じた川村万梨阿さんはどのようにその役作りをしたのだろうか。
古谷 ベルトーチカの役はオーディションだったんですか?
川村 いえ、指名だったと思います。ちょっとエキセントリックなキャラクターだったので、自分でもどうしたらいいのか戸惑う部分が多くありました。セリフもきつい言い方が多くて、これはどう演じたら視聴者の皆様にうまく伝わるだろうかと、かなり悩みましたね。
古谷 難しい役だよね、ベルトーチカって。
川村 そうなんです。私自身、当時は新人でしたし、出演3作品目で『ガンダム』……という緊張もありました。それにベルトーチカは物語の最初から登場するわけではなかったので、すでに出来上がっている雰囲気の収録現場に入っていくという別の緊張もありました。飛田さん(※カミーユ・ビダン役の飛田展男さん)とか麻弥ちゃん(※エマ・シーン役の岡本麻弥さん)はキャストの一員としてなじんでいましたけど、私はもう「異物」という感じで(笑)。
古谷 いや、異物ってことはないでしょ(笑)。
川村 でも、そういうヒリヒリした感覚はありました。とくに最初の『機動戦士ガンダム』に出演されていた先輩方からは、その演じられたキャラクターと同様に「また戦争が始まるのか」とか「大団円で終わったものをやり直すのか」という雰囲気を感じたんです。
古谷 その感覚はたしかにあったね。でも、異物という言葉とはちょっと違うけれど、キャラクターの世代交代は当然だと思っていたから、むしろ作品に対する違和感のほうが大きかったんじゃないかと思う。自分たちは最初の『機動戦士ガンダム』でやりきったと思っていたし、富野監督もそういうスタンスでいたから。それなのに主人公を変えて焼き直しのようなことをするのか、という疑問を感じたのは事実です。すでに語っているんだけど、僕自身『機動戦士Ζガンダム』でのアムロは好きになれないキャラクター像なんだよね。カッコ悪いし。そんなアムロに関わってくるのがベルトーチカという押しの強い女性キャラクターだったこともあって、これは僕の個人的な好みの問題なんだけど、そういう厚かましさを持つ女性が苦手だった(笑)。男の尻を叩いてけしかけるようなベルトーチカに対して、アムロはなんでこんな女の子と付き合うのかなという疑問があったんですよね。それでTVシリーズは不完全燃焼で終わってしまった。
川村 そういうオーラはビシビシ伝わってきておりました(笑)。
古谷 それを感じさせちゃまずいんだけどね(笑)。
©創通・サンライズ
川村 でも、当然のことだと思うんです。古谷さんは私が子供の頃からヒーローを演じていらっしゃった方ですから、私生活も演技もヒーローだったんです。だから私としてもロックスターとか伝説の人に会ったような感覚があって、ベルトーチカも思い込みが激しい人ですから「やっぱりこの人が主役じゃなきゃイヤ!!」という気持ちがあったんだと思うんです。彼女はジャーナリストという設定でしたから、大学は出ているとして22~23歳くらいと想定していたのですが、それは自分の年齢と近い初めての役でもあったんですね。大人ではあるけれど、まだスターに憧れたり、恋に恋してしまう人なんだろうと。小悪魔的な感じで、アムロをなんとか後押しできるようなキャラクターにしていけたらいいなと思っていました。ただ、演じながらも「ベルトーチカさん、それでは伝わらないのでは……」と思うこともありましたし(笑)、それでも思いを伝えてしまえる小悪魔的オーラが果たして私にあるのかな、という思いでしたね。