以前からスケートボードのアニメを作りたかった
――内海監督にとっては初めてのオリジナル作品となる『SK∞』ですが、もともとどんなところから企画が始まったのでしょうか?
内海 最初にお話をいただいたのは、前作の『BANANA FISH』の制作が始まってまだ間もない頃ですね。同プロデューサーの瓜生(恭子)さんから「次は内海さんの作りたいもの作りましょう」と声をかけていただいたんですけど、「これから作るぞ」というときにもう次の作品の話をされたので、驚いた記憶があります(笑)。
――かなり前から動いていたわけですね。『BANANA FISH』の制作が終わって、そこから本格的に企画が立ち上がったかと思うのですが、まずはどこが取っかかりになったのでしょうか?
内海 私自身、一度はオリジナルアニメをやってみたいという気持ちがあったんです。瓜生さんから「何をやりたいですか?」と聞かれたとき、スケートボードを題材にした作品を作りたいとお伝えしました。
――以前からスケートボードに興味があった。
内海 はい、もともと趣味でやっていて。とはいえ、別段うまいわけでもないんですけど(笑)。話をさかのぼると、スケートの前にスノボにハマっていたんです。ただ、スノボって滑るのがけっこう大変なんですよね。ゲレンデに行くまでに何時間もかかるし、良い雪となると関西じゃもっと遠出になる。いざ行けたとしても一日じゃ慣れるまでで終わってしまう。やっぱり何日かまとめて休みをとって……となると、こういう仕事をしながら趣味にするにはハードルがかなり高くて。ボードから一式揃えたのに一度も行けなかったんです……。
――それはちょっと悔しいですね。
内海 そんなときに、友達からスケートボードをすすめられたんです。スケートなら、ちょっと空いた時間でも手軽にできる。まさに「いつでも、どこでも」。劇中、暦がランガにスケートの魅力を語っているシーンは、まさに私自身がスケートに対して感じた魅力を語っているシーンでもあるんです。
――監督自身の個人的な体験が、作品のもとになっているわけですね。
内海 自分自身が好きなのはもちろん、魅力的に感じているものでなければ、作品を作るうえでもその魅力が見ている方々に伝わらないと思っていて。必然的に作品のもとになることが多いですね。あと、スケートって昔からあるものなのに、今までアニメで大々的に扱われていなかったのも狙い目だな、と。サブアイテム的に使用している作品はありますが……ジェット付きスケートボードとか(笑)。スケートボードって描くのは大変なんですが、モチーフとしてはディテールはシンプルなほうで、しかも誰もが知っているもの、というのは、とてもアニメ向きな題材だなと感じていたんです。
スケートボードの可能性を無限に感じられるレース
――それに関連していうと、スケートボードを題材にしつつ、「S」という架空のレースで主人公たちが競う形になっていますね。
内海 ガチの競技スケートは最初からやるつもりもなかったので、スケートボードを使った新しいレースバトルをこの作品で作りたいと思っていました。もともとレースものをやってみたかったのもあるんですが、レースものってストーリーに関係なく無条件にワクワクさせられる強みがあるので、それを利用しない手はないなと。実際、スケートボードのダウンヒルレースがあって参考にさせていただいているのですが、それとも違う、スケートボードの可能性を無限に感じられるようなレースバトルにしました。ギリギリできそうでできない?!くらいのリアリティーラインをいつも狙っています。
――なるほど。
内海 あと、レースものというと車やバイクに乗っているイメージですけど、そうなると車体やヘルメットでキャラクターを見せづらくなる。その点、スケートならキャラクターの躍動感を全面に見せることができるので、キャラクターの魅力と相まって、きっと魅力的な映像になると確信していました。
友情を描くなら、主人公はふたりがいい
――キャラクターの魅力ということでいえば、今回、内海監督ご自身がキャラクター原案を担当していますね。
内海 オリジナルアニメを作るにあたって、描きたいもののひとつが「友情」だったんです。となると、主人公はひとりよりもふたりがいい。そのふたりのドラマを描くにあたって、シナリオ打ちでそれぞれタイプが違うキャラクターがいいだろうとなった際に、ひとりはいかにも主人公らしい、努力家ではあるんだけど、そこまで才能がないタイプ。もうひとりは、いわゆる天才タイプ。少年マンガの王道ですね。
――ある意味、鉄板の組み合わせで(笑)。
内海 あとは、そんなふたりの前に立ちはだかる壁的な存在、今の愛抱夢ですけど、そういうキャラクターが必要かな、と。なので、その3人がまず最初に決まって、残りのキャラクターはストーリーを練りながら作っていった感じでしたね。
アニメらしいアニメを作りたい
――今回、内海監督自身がキャラクターのビジュアルも提案しているのでしょうか?
内海 はい、オリジナルをやるとなったときに、やっぱり自分でデザインを描いてみたかったんです。あと「監督の脳内にイメージがあるなら、描いてもらうのが一番いい」と瓜生さんからおっしゃっていただけたのもあって。で、いざ描いてみると……私はやっぱり、はっきりした作品が好きなんですよ。
――もう少し具体的に教えてください。
内海 私自身、いかにもアニメらしいアニメが好きなんです。たとえば、ランガの髪の色。現実には存在しない色で、実写とかだと浮いてしまうけど、アニメだったら自然に受け入れられる。そういうアニメだからできるデザイン、表現を最大限に活かした作り方にしたいと考えていたんです。だから、デザインに関してもオシャレさとかより、ダサくてもいいから個性的でわかりやすく。それこそ、他作品と並んだときに、パッと見たシルエットで『SK∞』のキャラクターだとわかるものを目指そうと思っていました。
――たしかに、メインキャラクターは誰も見た目からして個性的ですね。
内海 なるべくいろいろなキャラクターにして個性を出したかったんです。とくに並んだときに体格差が出るのが個人的にも好きなので、南城のように骨格の大きい人もいれば、逆にMIYAのように小柄な子もいるように。そういう凸凹感があったほうが見ていて楽しいと思ったので、デザインもそのあたりを意識して作りました。
アニメーター殺しの愛抱夢のデザイン
――ある意味、アニメならではのケレン味ということだと思うのですが、それで言うとやはり愛抱夢ですね。イメージはマタドールなわけですけど、このアイデアはいったいどこからきたのでしょうか?
内海 愛抱夢のデザインは……難しかったですね。シナリオを進めていくなかで愛抱夢の方向性が固まっていったんですけど、まあ、ヘンな人じゃないですか(笑)。なので、普通の人は絶対着ないようなものを着るだろうな、と。その時点で普通の考えを捨てるという作業が一難……(笑)。あと、アニメーションプロデューサーの鈴木(麻里)さんから「仮面キャラがほしい」というオーダーがあったので、もし、このなかで仮面をつけるとしたら愛抱夢しかいない、となって(笑)。愛をテーマにしているところで情熱的なスペインのマタドールをモチーフにして、デザインを決めていきました。
――なるほど。作品的なテーマから、あのデザインが出てきているわけですね。
内海 ただ、愛抱夢だけがあんな格好していても浮いてしまうので、ほかのキャラクターもあわせて個性をとがらせたり……と、バランスをとるのにも苦労したキャラクターです(笑)。あと、イメージがまとまったのはよかったんですけど、愛抱夢はとにかくパーツが多いキャラクターで、パーツ抜けや色間違いのミスが起きやすい。アニメーションのキャラクター設定としては極力パーツを減らすのがベターなんですが、キャラクターデザインの千葉(道徳)さんからフィニッシュしたデザインがあがってきたら、なかなかにパーツが多くて(笑)。「これだけでもパーツ減らしません?!」って提案したんですけど、千葉さんの意思は固く……。アニメーター殺しだなぁと思いました(笑)。