TOPICS 2021.08.24 │ 12:00

SK∞ エスケーエイトの友情回を振り返る
監督・内海紘子×絵コンテ&シーン演出・林明美対談①

スケートボードにかける少年たちの熱い想いを描く青春ストーリー『SK∞ エスケーエイト(以下、SK∞)』。その新作アニメプロジェクト始動決定にあわせて、スペシャル対談を敢行! 『BANANA FISH』でも内海監督とタッグを組んだベテランアニメーター・林明美を招いて、制作の舞台裏に迫る。

取材・文/宮 昌太朗

キャラクターたちの破天荒なアクションに悪戦苦闘しました

――ちょうど『SK∞』の新作アニメプロジェクトの始動が決まったというニュースが飛び込んできました。おめでとうございます!
内海 ありがとうございます! ……と言いつつ、まだ何も決まっていないのですが(笑)。

――まずは内海監督が林さんをスタッフとしてお誘いした経緯をうかがいます。当初は、林さんにお願いするつもりはなかったと聞きましたが。
内海 前作の『BANANA FISH』であれだけお世話になったので、これ以上ご迷惑をかけるわけにはいかなかったのと、林さんは大人向けな作品がお好きだと思っていて、ましてやスケートボードの作品なんて絶対興味ないだろうと、お誘いする発想すらなかったんです。でも、ボンズのプロデューサーの鈴木(麻里)さんから「ダメもとでいいから、声かけてほしい!」と言われて。じゃあダメもとで……とお声がけしてみたら「いいよ~」って。本当にびっくりしました(笑)。

――林さんは『SK∞』の企画が動いていることを、当時、知っていたんですか?
 じつは『BANANA FISH』の制作が始まる前に一度、内海さんがボンズのプロデューサー(鈴木)さんと「何かやりたいね」と話しているということは聞いていたんです。で、『BANANA FISH』も後半に入った頃、スケートボードの作品だって聞いたんですよね。またそんなニッチな題材で……と思ったんですけど(笑)、内海さんがスケボーで会社に来ているのも知っていましたし、興味がある題材で作るほうが絶対にいいよねって、と話したことはおぼえています。

――なるほど。
 ただ、千葉(道徳)さんが描かれたキャラクターの初期ラフなどを見たとき、作画ではあまり力になれないかなと思ったんです。千葉さんのキャラクターに似せられる自信がなくて。原画で参加するならまだいいですけど、作画監督でキャラクターを似せるのは無理だなと。でも、コンテとか演出であれば、やれることがあると思いました。しかもちょうど時期的に、やっていた仕事が終わりそうだったので、タイミングも良かったです。

――企画を見たうえで、どこが魅力的だなと感じたのでしょうか?
 内海さんとはすでに一度、一緒にお仕事をしていますし、久しぶりに演出がやれるかもというのもありました。お話をいただいたときはスケートボードという題材は、自分のなかではそれほど大きく捉えていなかったんですね。でも、いざフタを開けてみたら、スケートの描写が本当に大変で。スケボー自体にこんなにたくさんの決まりごとがあるとは思っていなかったので、まずはそこを勉強するのにすごく時間がかかりました。乗り方(スタンス)もその人によって違ってくるし、トリック(技)もたくさんあって。ランガたちは劇中、すごく破天荒な乗り方をしていますけど、ベースにはやっぱり基礎があったうえでのアクションなので、まずその基礎を覚えるのが大変でした。

林さんにしか描けないランガのきょとん顔

――実際に林さんは、スケートボードに乗ってみたのでしょうか?
 乗りたかったんですけど……内海さんに止められたんです(笑)。「今乗って、転んで腕折ったらどうするんですか!」と。
内海 初めてお会いしたとき、林さんは重度の捻挫をされていたんですよ。
 そうそう(笑)。プライベートでの食事のときに、お店の段差で足を踏み外したんですけど、全治2カ月くらいかかって。初めての顔合わせだったのに、片足を引きずりながらだったんですよね。
内海 あと私自身すでに転んで怪我していたこともあって、とにかく作画スタッフにはスケート禁止令を出していたんです。せっかく林さんに入ってもらえたのに怪我してできなくなってしまったら元も子もないじゃないですか!
 たしかに(笑)。

――そこからすぐにコンテに入ったのでしょうか?
 いえ、その前に第1話の原画ですね。第1話が先行して動いていたのですが、「まず原画をやりませんか?」と。
内海 暦とランガの出会いのシーンですね。大事なシーンだったので、林さんにお願いすることにしました。
 どういうわけか、コケたあとのランガのきょとんとした顔の場面写真が、いろいろな媒体で使われるんですよ(笑)。ブレザーを着ているランガは1話だけだからかもしれませんが。
内海 レアですよね。このあたりの表情は設定にもなくて、このカットでしか生まれない表情なんです。とくに第1話だとまだキャラの振り幅がわからず難しいんです。林さんが生み出してくれたランガの幅でしたね。
 ベースとなる設定は、イケメン顔なランガばかりでしたしね。ただ、コンテがすごく表情豊かだったので、そのニュアンスを拾うよう心がけました。とりあえず自分の解釈で描くので、あとはおまかせします!っていう。

――そこからいよいよ第7話のコンテを林さんにお願いすることになったと思うのですが、ひとまず監督から経緯を説明してもらえますか?
内海 鈴木プロデューサーと、林さんにお願いするならどのエピソードがいいかを話し合って、スケートビーフがガッツリある話数より、心情がメインの話数のほうが林さんの持ち味を生かして作ってもらえるんじゃないか、ということになったんです。そうなると、第7話と――。
 でも、最初は第6話の担当だったんですよ。
内海 そうだ、そうでした(笑)。
 第6話ってシリーズで唯一のお遊び回じゃないですか。

――そうですね。みんなで海と温泉に遊びに行くっていう。
 バトルがない日常がメインのエピソードだったら大丈夫かな……と思って脚本を読んでいたのですが、打ち合わせの数日前に、「林さん、第7話になりました!」と。
内海 それには事情がありまして……。今回、五十嵐(卓哉)さんにもコンテをお願いしていて、第3話と第5話をご担当されていたんですね。でもその2本を描き終えて、かなり疲労されていたんです。そこで最終話のコンテに入る前の箸休めに、癒しになるようなエピソードを五十嵐さんにやってもらったほうがいいかなって。

暦の心情の変化がスケートの乗り方に表れた

――それで五十嵐さんが第6話のコンテを担当することになって、林さんの担当回が第7話にスライドしたわけですね。
 五十嵐さんの気持ちも今ならすごく理解できます(笑)。ただ、内海さんから「第7話はそんなにスケートシーンが多くないですから」と言われたんですけど、実際はそこそこあるんですよ。
内海 フフフ(笑)。
 初めての『SK∞』でのコンテなので、スケボーのルールを調べたり、実際の動画を毎日繰り返し見たりしながら描いていたのですが、やっぱり大変でした……。

――暦とランガがケンカすることになる、ドラマ的にも重いエピソードでした。
 そうですね。とはいえ、そこは意外と心配していませんでした。いただいた脚本を読んで、最初にイメージが浮かんだのは、転んだ暦に雨が降り出すシーンですね。橋げたの下で、雨粒が暦の顔の上に落ちる場面。シナリオでは、明確に「顔」とは書いていなかったのかな。
内海 手のひらと書かれていましたね。
 大河内(一楼)さんの脚本に「雨が降ってくる」という記述があったんですけど、暦に雨が降ってくるとしたらこのシチュエーションかなっていうのが、パッと思い浮かんで。なので、そこからの後半のふたりのやりとりはそれほど苦労はしなかったと記憶しています。

――むしろアクションが大変だった。
 そうですね。第7話の冒頭、家から出た暦が待ち合わせ場所までスケートで滑っていくんですけど、後半、暦の心情が変わっていくにしたがって、乗り方も変わっていかないといけないですし。あとスケートシーンに関しては、とにかく内海さんのチェックが厳しい(笑)。
内海 スケーターなので、すみません(笑)。とはいえ、冒頭の日常のふたりのスケートシーンはほとんど手を入れていないです。このあたりの楽しい雰囲気は、本当に林さんのコンテのままで。動画を見ながら悪戦苦闘している林さんを、遠くからそっと見守っていました(笑)。
 打ち合わせのときに「この場面のトリックはこれで」と、トリックの参考動画も指定してもらうんです。でも、その参考動画のアングルがそのまま使えるわけではなかったりするので、コンテ作業のときに頭のなかで再構築しなくちゃいけない。加えて、アニメ的な見せ方となると、ハードルが一気に上がるんです。そこはもう、耳から脳みそが出そうなくらい考えましたね(笑)。
内海 でも逆に、スケートをやったことがなくて、これだけ描ける林さんはすごいなって思いました。あとやっぱり第7話は心情描写がメインなので、そこがうまくいかないと監督チェックが大変なことになってしまうんです。そういう大切なところを林さんにおまかせできて、本当に助かりました。endmark

内海紘子
うつみひろこ 演出家、アニメーター、アニメーション監督。アニメーター、演出家として『けいおん!!』『日常』などに参加した後、テレビアニメ『Free!』で初監督。吉田秋生原作の監督2作目『BANANA FISH』も大きな話題を呼んだ。
林明美
はやしあけみ 愛知県出身。アニメーター、演出家。『少女革命ウテナ』『フルーツバスケット』『BANANA FISH』など、数多くの人気作にアニメーター、演出として参加する。ガイナックス、カラーに所属したあと、現在はフリーで活動中。
作品情報

『SK∞ エスケーエイト』
Blu-ray/DVD Vol.1~6好評発売中

  • ©ボンズ・内海紘子/Project SK∞