TOPICS 2021.04.01 │ 12:00

SK∞ エスケーエイト 監督・内海紘子インタビュー②

内海監督に『SK∞ エスケーエイト(以下、SK∞)』の舞台裏を聞くインタビューの後編。「アニメらしいアニメが好き」と話す内海監督が、この『SK∞』で試みたこととは? キャスティングの選考過程や演出陣とのやり取り、そして最終回に向けたメッセージまで。じっくりと語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

愛抱夢の声は子安さんしか浮かばなかった

――愛抱夢といえば、子安武人さんが演じたことで、あのリアリティのないキャラクターに説得力が生まれた気がします(笑)。
内海 そうですね。キャスティングを決めるときに希望を聞かれたんですけど、もう子安さんしか思い浮かばなくて(笑)。変態キャラっていうのはもちろんあるんですが、作品上最強キャラという立ち位置の存在感、威圧感という意味でも子安さんでしたね。

――そのほかのキャラクターで、キャスティングの際にポイントになったところはどこでしょうか?
内海 キャラクターデザイン同様、キャスティングもなるべく個性がバラけるように、と考えていました。暦とランガであれば、暦はザラついた声なのに対して、ランガはサラっとした声。桜屋敷と南城だったら、桜屋敷は冷たいとがった印象で、髪が長く美人顔なのですが、声は低く男性らしい声がいいなと。南城はおおらかというか懐が広くて、温かみを感じる声。そういうバランスは意識していましたね。

――シャドウの声を、三宅健太さんが演じていますよね。同じボンズ作品ということで、『僕のヒーローアカデミア』のオールマイトを連想したりしたのですが(笑)。
内海 あっちは正義のヒーローだけど、こっちはアンチヒーローっていう(笑)。カッコいいキャラクターだけでなく、ああいう三枚目っぽいキャラクターがほしかったんです。デコボコ感があったほうがきっと見ていて楽しいと思って。カッコいい子ばかりだと、キャラクターが際立って見えないというか……。いろいろなキャラクターがいることで、それぞれの個性をより際立たせたいと思ってデザインを考えていました。

デフォルメ表現は手間がかかるけど、やりたい

――今の話題とも関連するかと思うのですが、亀田祥倫さんが担当しているアイキャッチもかわいいですよね。本編でも顔がマンガっぽくなったり、キャラクターのデフォルメ表現が出てきますが、あれはデザインのときから想定していたのでしょうか?
内海 昔はよくアニメで、コミカルなシーンになると頭身が変わったり、身体を縮ませたり伸ばしたりしていたじゃないですか。最近は少なくなりましたけど、あのやわらかくてポップな表現が大好きで、自分がアニメを作るときはああいう表現を意識的にやりたいと思っていたんです。「アニメらしいアニメを作りたい」という話にもかかってくるんですけど、キャラクターがやわらかく楽しく動くのは、アニメーションらしい魅力だと思うんです。ただ、最近、そういう表現が減ってきた理由もわかっていて。実際にやろうとすると面倒なんですよ(笑)。単純に手間がかかる。普通に芝居や表情をつけたうえで、シーンの持つ意味合いを踏まえてデフォルメにするという作業が発生するわけです。だから、意図的にやろうと思わないとできないし、ある程度、コンテの段階でお願いしないと、やってもらえないことがほとんどなんです。

――やっぱり大変なんですね。
内海 作品の方向性にもよりますが、『SK∞』はそういう表現がより作品の魅力をアップさせてくれると思ったので、試行錯誤しつつ、詰め込めるだけ詰め込んでいます(笑)。

五十嵐さんや林さんに助けられています

――演出に関連して言うと、絵コンテで『STAR DRIVER 輝きのタクト』や『文豪ストレイドッグス』の五十嵐卓哉さん、あと『BANANA FISH』で一緒にお仕事した林明美さんといったベテラン陣が参加していますね。
内海 五十嵐さんのコンテはバシッ!と構図が決め込まれているので、コンテを見るともう画面が見えるのが素晴らしくて。『SK∞』のコンテでもいつも勉強させていただいていました。あと、私はアクションを描くのが苦手で避けてきたところがあるんですが、『SK∞ 』はガチガチのアクションものなので、ド正面から戦わなくてはならず……見せ方に迷うこともあったんです。そのときに五十嵐さんのコンテを拝見してカッコいいアクションの描き方をいろいろと教えていただきました。

――五十嵐さんらしい、ケレン味の効いた画面作りも作品に合っていますよね。
内海 そうなんです。第5話で愛抱夢がラブハッグを決めるシーンもすごいカッコよくて。じつはラブハッグが出てくるのはこれが2回目だったんですけど、1回目では技名を言っていないんです。でも、第5話の五十嵐さんのコンテだと、技を出すときに「ラブハッグ!」と技名を言っていて(笑)。

――あはは。なるほど。
内海 アドリブでセリフを足してくださったんですが、脳直で「面白い!」と思わされました(笑)。普通に考えると技名を言ったら相手にバレちゃうけど、いかにもアニメらしい演出というか、それによってキャラも技も際立つ素晴らしい演出だなと思いました。

――一方の林明美さんは、エンディングに加えて、第7話のコンテを担当していますね。これはやっぱり、監督からの打診だったのでしょうか?
内海 いえ、私からはとてもじゃないけど『BANANA FISH』でご迷惑をおかけしたあとなので、「またお願いします」とは言えなかったんです。でも、そこをアニメーションプロデューサーの鈴木(麻里)さんが空気を読まずに「誘ってください!」と(笑)。それでダメもとでお声がけさせていただいたものの、『SK∞』は正直林さんの好みと合わないだろうなと思っていたんです。『同級生』や『BANANA FISH』のように、もっとしっとりした大人なアニメのほうがお好きだろうと。

――ああ、なるほど。
内海 そしたら「面白い」と言ってくださって……。林さんにはふたりの心情描写が外せない第7話と第10話を担当していただいたのですが、そのなかでもとくに大事だったケンカと仲直りのシーンのシーン演出をやっていただけたのは本当にありがたかったです……。ふたりの空気感、絶妙な表情や芝居をつけてくださいました。本当に『SK∞』はスゴイ人たちで作られています!

スタッフが楽しんで作ってくれていて、手ごたえを感じた

――今回、監督としては3作目、初めてのオリジナル作品ですが、内海監督にとって『SK∞ 』はどんな作品になりましたか?
内海 初めてのオリジナルで、加えて初めてのレースものということもあって、最初はやっぱり手探りだったんですけど、でも始めてすぐに楽しくなってきちゃって(笑)。これまでの2本は原案と原作がある作品で――それでもかなり自由にやらせていただいたとは思うんですけど、とはいえ、大事なシーンはすでに原作で決まっているし、そこを変えるわけにはいかない。それが作品とファンを大事にすることだと思っていたんです。

――原作からのファンを大切にする、ということですね。
内海 でも、アニメオリジナルの作品は、何から何まで自由に組み立てることができる。道しるべが無限にあるんです。それが本当に楽しかったですね。ただ、私が楽しいだけでは仕事としてアウトで(笑)。私が楽しいと感じていることが、画面を通してどこまで伝わるのか、そこに関してはやっぱり不安もありました。実際、放送が始まるまではどうなるか戦々恐々だったんですけど、でも毎日、現場に入るとスタッフの皆さんが楽しそうに作ってくださる。それが伝わってくるんですよね。

――参加しているスタッフの熱気みたいなものを感じることができた。
内海 作っている人たちが楽しむことができるのであれば、きっと作品も救われるんだろうなと思うんです。しかも、それはこちらが「楽しんで作ってくれ」と言ってできるものじゃない。だから、スタッフが楽しんで作っているのがわかったときに、最初の手ごたえというか、勇気をもらいました。私もそのみんなの気持ちを信じて進んでいこうと。

――では、最後に。これからいよいよクライマックスを迎える『SK∞』ですが、楽しみに最終回を待っている方に向けて、メッセージをお願いします。
内海 個人的にネタバレが嫌いなので、いつも全然情報出せなくてすみません! でも! 原作がないアニメオリジナルだからこそ何があるかわからない、ワク☆ドキ☆感をオンタイムで皆さん一緒に楽しみましょー! とにかく愛抱夢とビーフするランガが心配ですね。私もです。暦とランガの行く末もぜひ見届けてくださいね! ラブアゲイン♡endmark

内海紘子
うつみひろこ。演出家、アニメーター、アニメーション監督。アニメーター、演出家として『けいおん!!』『日常』などに参加した後、TVアニメ『Free!』で初監督。吉田秋生原作の監督2作目『BANANA FISH』も大きな話題を呼んだ。
作品情報

『SK∞ エスケーエイト』

  • ©ボンズ・内海紘子/Project SK∞