山田の気分そのままで原作を味わった
――本作に関わる以前に、スナックに行ったことはありましたか?
阿座上 ありました。僕は群馬県の出身なんですけど、草津に行ったことがなかったので、あるとき思い立って友達と一緒に行くことにしたんです。そうしたらご飯屋さんがどこもいっぱいで、ようやく入れたお店がたまたまスナックだったんです。入ったときは僕ら以外はお客さんがいなかったこともあってか、ママさんがすごく優しく対応してくれて。あとから来たお客さんも、僕らよりずっと年上の方ばかりだったんですけど「せっかくだからお客さんと盛り上がれるような選曲をしよう!」とカラオケで昔の曲を歌ったら、めっちゃ盛り上がってくれたんですよ。去り際には握手をして肩を抱き合ったくらいで「スナックって、こんなに楽しいものなんだ」と感じたのをおぼえています。
――素敵な経験ですね。それは『バス江』のアフレコに生かされたりは……。
阿座上 まったくしていないです!(笑)
――あはは。では、あらためて原作の感想をお聞きしたいです。
阿座上 オーディションのお話をいただいてから、初めて読みました。最初はタイトルだけの印象で、スナックを舞台にした日常系のお話なのかな?と予想していたんです。でも、単行本を手に取ってみたら、カバーの絵から様子が違って(笑)。
――「日常系」にはなかなか出てこない雰囲気のキャラクターたちですよね。
阿座上 ページを開くと今度は「何が始まるの?」みたいな感じだったんですけど、第1話を読み終えると「あれ? 俺は今、何を読んでいたんだろう?」という嵐が通り過ぎたような感覚でした。山田は原作第1話の冒頭から出てくるんですよね。僕はオーディションで山田を演じるために読み始めたので、山田に自分を投影しながら、彼の全部のセリフを音読していたんですよ。つまり、気持ち的には自分が山田になってスナックに入ったわけで……。
――そ、それは大変ですね……。
阿座上 もう、ホントに訳のわからないことが次々と起こり始めて(笑)。まさに山田と同じような気持ちで「スナックバス江」を体験したので、原作の感想といえば、そのときの何ともいえない感覚がまず思い浮かびます。スナックの扉を開けたら、いきなり人が死んでいる……衝撃でした。
ツッコミ役としての役割をまっとうしよう、と考えた
――山田という役には、どんな印象を持ちましたか?
阿座上 突飛なキャラクターばかりのこの作品の中で、唯一真面目なキャラクターですよね。だから演じるときは、その場、その場で新鮮に驚いて、ちゃんとツッコむことを心がけています。山田がしっかりツッコまないと、ボケだらけになってしまうんですね。そういう意味では、作品を成立させる装置的な役割を担っていることも意識しています。普段は「キャラクターがお話の流れを作るためだけの存在になってはいけない……」と考えて演じているのですが、この作品ではかえって雑音になってしまうかな、と。彼がこの作品で担っている役割をまっとうするため、自我を出さずに言葉を発していこうと心がけています。
――そのあたり、ゲストも含めて本当に唯一の常識人ですよね。小雨ですらちょっとおかしいところがありますし。
阿座上 そうですね。小雨と山田は常識的なふたりなんですけど、山田がいちばんちゃんとしているんじゃないかなと思います。今思うと、僕がこれまで演じてきたキャラクターはボケ役が多いんですよね。僕自身も、どちらかというとボケ寄りの性格だなという自覚がある。だから「ツッコミって難しい」と思いながら、毎回演じています。
――まわりの方のお芝居を見ていて、とくに印象に残ったものはありますか?
阿座上 皆さん、面白すぎるんですけど、中でもやっぱり森田は面白いですね。岩崎諒太さんのお芝居には、あんなイメージはなかったので驚きました。そんな「童貞声」も出せるんだって(笑)。岩崎さんの森田は、本当に「俺は悪くない、間違ってない」と心から思っている。声だけ聞いていると、イケメンの顔が浮かんでくるくらい(笑)。でも、画面を見ると、間違いなく森田の声に聞こえてくるから、さすがだなと思います。