セリフで「イヤ」とか「ダメ」みたいな言葉は使わないように
――斉藤監督にとって初めての監督作になったわけですが、大切にしていたところはどんなことでしょう?
斉藤 あまり身構えずに見られるものを作りたい、というのはありました。なので、脚本の望公太(のぞみこうた)さんには、セリフで「イヤ」とか「ダメ」みたいな言葉は使わないでください、というお願いをして。
雨宮 ああ、否定の言葉を使わないで、と。
斉藤 たとえば、一緒に写真を撮ることになるシーンも、最初は美波が「ええっ、イヤですよ」という反応だったんです。でも、いちいち引っかかるのもイヤだなと思って。今の子は写真を撮るのもきっと平気だろうし、どうせ撮ることになるのに、わざわざ「イヤ」というセリフを入れて、引っかかりを作らなくてもいいんじゃないかなって。
――今回、キャラクターデザインも斉藤さんが担当していますね。
斉藤 耳にピアスが開いている女の子の主人公はいいよな、というのがまずあったんです。で、主人公は美波にしようというのが決まって、次に黒髪の女の子が描きたいなっていうところから遥が決まって……。彩花に関してはインスタ女子みたいなキャラクターを作りたかったんですよ。というのも、インスタグラムを見ていると、ゴルフ女子がけっこう増えてきているんですよね。
雨宮 YouTubeをやっているゴルフ女子もいますよね。
斉藤 そうなんですよ。なので、そういう女の子をひとり入れたいな、と。
――作画はどういう体制だったのでしょうか?
斉藤 基本的には僕とアニメーター数人で分担する形になりました。半分くらいは、自分でレイアウトを切ったんじゃないかな。普段はいろいろなチェックがあって、OKが出てから「はい、やってください」という感じなんですけど、今回は自分が監督なので「全部、俺が決めちゃっていいんだ。じゃあ、ここ、俺がやります!」みたいな感じで、どんどん進んでいくんですよ。
ゴルフでラウンドを回ったときに、最後のお風呂は大切
――雨宮さんから見て、監督がこだわっているなと感じたところは?
雨宮 女の子が3人いて、小柄な子と大柄なふたりという組み合わせを見たときに「魅力的だな」というのは感じていました。あとは、ゴルフをやっている人じゃないとわからない、フェティッシュみたいなものがあるんじゃないかなと思うんですよ。それこそしゃがんでいる絵とか背中のカットとか……。
斉藤 そうですね。YouTubeでゴルフをやっている女の子を見て「あっ、この背中の動きがいいな」みたいな(笑)。
雨宮 そういうところを描きたいんだろうなっていうのはありましたね。あと、僕はゴルフをやらないのでよくわからないところがあるんですけど、手袋をしているのはすごくいいな、というのは思いました。あの絵面が、やっぱりすごくいいなって。斉藤さんの絵はもともとかわいいんですけど、ちょっとセクシーな部分も感じるんですよね。コンテの段階でも、本来なら美波がボールを入れて終わり、でいいはずなんですよ。でも、最後にお風呂パートが入っている、という。
斉藤 あはは!
雨宮 脚本を読んだとき、まあ、きっと視聴者サービスなんだろうと思って、とりあえず削るわけにもいかないから、オーダー通りに入れておいたんですけど。完成したものを見たら「これはイカれてるな」と(笑)。
斉藤 いやいや、ゴルフでラウンドを回る際の一日の流れとして、最後のお風呂っていうのは大切なんですよ。朝からラウンドを回って汗かいて、最後にゴルフ場の緑を見ながらお風呂に入る。そこまでを含めてエンターテインメント、みたいなところもあるんです。
雨宮 あはは。ただ、この最後のシーンがあるからこそ、引っかかりができたっていうのはありますよね。
斉藤 あと、最後にボールがカップインしたときの「カコーン」という音と、お風呂場の「カコーン」という音を重ねたかった、というのもあります(笑)。
一話完結で楽しめる話をゴルフをモチーフにして作りたい
――斉藤監督としては、作り終えてみて手応えはいかがですか?
斉藤 よくわからないですね。面白いな、かわいいなとは思うんですけど。
雨宮 いやいや、そこはめっちゃ大事ですよ。
斉藤 あと、やりたいことがまだいっぱいあるなとは思いましたね。もっとこうしたい、ああしたいっていうのは、逆に作る前よりも増えたかな。それこそ、ゴルフ場で鹿を見つける話とか(笑)。
――ゴルフとまったく関係がない(笑)。
斉藤 そういうくだらない話も含めて、一話完結で「ああ、今日も面白かった」って楽しめるものを、ゴルフをモチーフにして作れるといいなと思います。
雨宮 斉藤さんには、こうやって生み出したキャラクターを大切にしてほしい、というのはありますね。『空色ユーティリティ』がオンエアされたら、きっとこのキャラクターを好きになってくれる人がたくさん出てくるんですよ。そういう人を大事にしてほしい。このキャラクターたちと、あと彼女たちを好きになってくれた人が、より楽しめたり、幸せになれたら、すごくいいなと思うんです。斉藤さんは「キャラクターを大切にする」ということがわかっている人なので、あまり心配していないんですけど、せっかくなら……。
斉藤 シリーズ展開したりとか。
雨宮 そうそう。この3人だけじゃなくてもいいし、別の媒体でもかまわないんですけど、続けていってもらえるといいかなって思います。
- 斉藤健吾
- さいとうけんご 1988年生まれ。大阪府出身。Yostar Pictures所属。専門学校を卒業後、アニメーターとして数多くの作品に参加。これまでに参加した主な作品に『アズールレーン びそくぜんしんっ!』『SSSS.DYNAZENON』など。初監督作『空色ユーティリティ』を準備中。
- 雨宮 哲
- あめみやあきら 1982年生まれ。東京都出身。演出家・アニメーター。GAINAXを経て、現在はTRIGGERに所属。アニメーターとして数多くの作品に参加し、最近では演出家としても活躍。監督作に『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』。