TOPICS 2022.11.17 │ 12:00

監督・渡辺歩が語り尽くす『サマータイムレンダ』の制作舞台裏②

11月15日より各サービスで配信がスタートした『サマータイムレンダ』。渡辺歩監督とともに、二度と戻らない「あの夏」を振り返るインタビュー後編は主題歌や劇伴へのこだわりと覚悟を感じたと語るキャストの熱演について。

取材・文/高野麻衣

※インタビュー内容は雑誌「Febri AUTUMN 2022」の再掲載です

運命を切り開く、熱い後半

――第12話以降、物語が緊迫していくとともに主題歌も変化します。これもやはり狙ってのことだったんですね。
渡辺 そうです。『サマータイムレンダ』の魅力のひとつが、後半のニュアンスの変化だと思うので。亜咲花さんのオープニング『夏夢ノイジー』では、作品全体のスピード感と自分の運命を切り開くというな部分を、りりあ。さんのエンディングでは潮が抱く「存在の不安」や、慎平に寄せる想いを描いてもらいました。

――隅から隅まで、監督の想いが行き届いている。作品が面白いわけですね。
渡辺 いえいえ、スタッフみんながガチで原作ファンなんです(笑)。劇伴を決めるときも、ゲームの視点でマンガが描かれているのだから、やはりゲームミュージックのような音楽にしようと暗黙の了解で進みました。

――つまり、田中先生の脳内で流れていたであろう音楽、ということですね。
渡辺 そうです。具体的にキャラクターにつけていくというよりは、世界観ありきでずっと流しっぱなしでもいいような感じの、アンビエンス(環境音)な状態の音楽。MONACAチームの皆さんも原作を読みこんでいたので「こういうことですよね」とすぐに共感してくれました。憧れのMONACAチームの言葉に、同席していた田中先生は大喜びでしたね(笑)。

――キャストの熱演にも唸り続けました。「影」などの一人二役も多い難役ぞろいだと思いますが、皆さんキャラが憑依しているようでしたね。
渡辺 すべてのキャストが恐ろしいぐらいの努力と覚悟で、難しい収録を乗り切ってくれたと思います。未知なる和歌山弁を身体に入れつつ芝居をするのは、想像を絶する難しさがあるはず。技術的なことは言うまでもなく、彼らは本当によく研究をしているんです。僕、花江夏樹さんには圧倒されました。僕がこういうことを言うのも変ですけど、画面なしでも楽しめるレベルの演技だと思います。

――映像も真剣に見ていますが、じつは作業中に繰り返し「聴いて」しまいます。
渡辺 わかる! 僕もそうだもん(笑)。うまい人たちだというのはもちろんわかっていたんですけど、その役を演じるために何が必要なのかを皆さんわかっているんです。たとえば、日笠陽子さん、恐ろしい人ですね。ひづると竜之介を演じ分ける際に、竜之介役の三瓶由布子さんがどう演じてくるかというのを想定していますから。センテンスの切り方から息遣いまで、まさに憑依するみたいに再現してくる。花江さんも同様で、ハイネ役の久野美咲さんがどうしゃべるかっていうのを想定している。

――まさしく「研究」ですね!
渡辺 彼らの覚悟に、正直、アニメの画が負けているんじゃないかと思うような瞬間もありました。澪役の沙帆さんの「影」の演じ分けもそうですよね。頭が下がります。そして、なんといっても永瀬アンナさん。彼女はまだ経験の少ない方で未知数でしたが、粗削りな部分も含めて、色のついていない役者さんも面白いと思ったんです。若さならではのエネルギッシュな部分が、潮としっかり重なって見えた。音響監督の小泉紀介さんと「いい宝物を見つけられてよかったね」と語り合いました。本人にはあまり言っていませんけどね(笑)。

――最終回を迎え、サブスクやパッケージで見返す方に向けて、注目してほしい点はありますか?
渡辺   まずは演技の変化みたいなものを、ぜひ味わってもらいたいです。とくに永瀬さん、白砂さんなんかはものすごく成長していて、それがキャラクターの成長と重なっていると思うんです。あと、第7話から第1話までを逆に見るとか、そんな裏技も楽しんでほしいですね。たとえば、シデに注目して、小西克幸さんっていう役者の演技も含めて味わってみる。そうすると「『慎平くん』って呼びかけるところ、じつは第1話からやっていたのか!」とか、細かな伏線に気づくと思うんです。それって結末の記憶があるからこそのワクワク感だと思うので。演じ分けのエグさも、フォーカスが合った状態で味わえるはずですので「すげえ!」って唸ってくれたらうれしいです。

――夏がやって来るたび見てしまう、そんな作品になる予感もします。
渡辺 うれしいです。夏をモチーフにした名作はありますが、そうして長く愛してもらえることは、作品に対する最大の賛辞です。あの島で起こった夏の一日は、繰り返しているようで同じではありませんからね。年を重ねると「また夏が来たな」って感じてしまうんですけど、「同じ夏は二度とやって来ない」という想いを、最終話に向けてしっかり託したつもりです。彼らの夏は、たぶんずっと忘れ得ぬ夏。命を燃やした経験は、なによりも人生の宝物になるんですよね。

――監督は今後、どんな作品を描いてみたいですか?
渡辺 『サマータイムレンダ』で「影」なんてものを扱っちゃったことで、悪者を描いてみたいという興味が湧いてきました。善人が一切出てこない物語とかね。悪党だけが出てきて、悪いことをし尽くすみたいな話も、僕、嫌いじゃないんです(笑)。そういう、自分の中から湧き出るものを表現してみたいという、沸々とした想いを感じています。あとはね、世の中から忘れられた存在に光を当てるような物語。見えないことになっている人たちって、きっとたくさんいる気がするんです。だから、そういった人にあえて光を当てるような、そんな物語もやってみたいです。endmark

渡辺 歩
わたなべあゆむ 東京都出身。演出家、アニメーター。アニメーターとして『ドラえもん』に長く携わったのち、演出も手がけるようになる。主な監督作に『宇宙兄弟』『MAJOR 2nd』『海獣の子供』『漁港の肉子ちゃん』など。
作品情報

TVアニメ『サマータイムレンダ』
好評配信中

  • ©田中靖規/集英社・サマータイムレンダ製作委員会