TOPICS 2024.05.27 │ 12:00

山本裕介監督が振り返る
『SYNDUALITY Noir』完結までの道のり①

今年3月で2クール目の放送を終え、完結を迎えたTVアニメ『SYNDUALITY Noir』。個性的なキャラクターとシリアスなSFドラマ、ド派手なメカアクションなど、多彩な魅力が詰め込まれた本作で監督を務めた山本裕介に制作秘話を尋ねるインタビュー。第1回は、企画の立ち上げから世界観が固まるまでの経緯について。

取材・文/岡本大介

キャラクターやシナリオはイチから作っていった

――本作はバンダイナムコグループが手がけるメディアミックス作品です。山本監督の参加時点でどのくらいの設定が決まっていましたか?
山本 ゲームの開発はかなり進んでいて、すでにプレイ画面やイベントシーンをつないだティザームービーが存在していました。ドリフターやコフィン、メイガス、新月の涙、ブルーシスト、エンダーズなど、根幹となる要素も決まっていて、それを踏まえつつ、アニメでは20年後の世界を舞台にしてほしいとのことでした。

――キャラクターやシナリオについては、とくに決まっていたわけではないんですね。
山本 そうですね。そこは完全にアニメオリジナルで、イチから作っていきました。ゲームはわりとシリアスなテンションでストーリーが進行するので、アニメでは逆にカラッと明るいものにしてほしいとオーダーを受けました。

出発点は第1話のシナリオ

――具体的にアニメの制作はどこからスタートしていったのでしょうか?
山本 まずは世界観の構築ですね。ベースの設定があるとはいえ、ゲームの舞台から20年経って、地下から地上に出た人類がどんな生活をしているかを考える必要があったんです。地上には「ブルーシスト」という猛毒を含んだ雨が降り注いでいますから、半分地下に埋まったドーム型の集落で暮らしているんじゃないか。コフィンやAO結晶を運ぶための乗り物「ランドキャリア」があったほうが便利だろう……など、デザイナー陣と話し合いながら世界観を作っていきました。

――ドーム型の都市が地上に点在しているというのは、アニメオリジナルの世界観なんですね。
山本 そうですね。そのうえで主人公たちをスピーディに移動させたかったので、ドーム型の都市同士はしっかり整備された道路でつながっているという設定にしました。人々の生活様式やデザイン的な見せ方などは『DEATH STRANDING』というゲームを参考にしたところもあります。まずはとにかく、作品世界のビジュアルを作っていく作業から手をつけました。

――キャラクターやストーリーはどのように作っていったのですか?
山本 ストーリー原案の鴨志田一さんが書かれた第1話の脚本に、カナタやノワール、トキオといったメインキャラクター像、それに「ロックタウン」という街の名前だったり「シルヴァーストーム」といった作品のキーになる要素がほぼすべて揃っていたんです。普段なら僕はシナリオにわりと細かく手を入れてもらうほうなんですが、今回の第1話に関しては大きな修正点はありませんでした。ディテールについては演出で煮詰めていく必要がありましたが、テキストベースではとにかく完成度が高かったので、第1話の初稿を元にメモを作ってnecoさんにキャラクター原案を発注しましたし、他のデザイナー陣とも共有しつつ、第2話以降のシナリオを進めていくことができたんです。

2クール目の展開はほぼ白紙だった

――通常はプロットを作ってからシナリオ作業に入ると思うのですが、それがなかったということですね。
山本 ざっくりと展開を記したメモはいただいてたようなんですけど、僕はその記憶がなくて……とにかく第1話の初稿が出発点だったという印象です。それからシリーズ構成のあおしまたかしさんが合流して、その後はみんなでシリーズ全体の構成を練っていきました。鴨志田さんが考えた構成メモを元にあおしまさんが肉付けをしていく流れだったと思います。ひとまず1クール目のラストに「シルヴァーストーム」を倒す。そこまでは決まっていましたが、2クール以降の展開はがっちりとは決め込まずに進めていきました。

――では、トキオと黒仮面の正体や、シエルの結末なども白紙だったんですね。
山本 1クール目のシナリオ作業の終盤まではそうでしたね。ノワールのバックボーンに関しても、ぎりぎりまでミステルの「ミ」の字もなかったし(笑)、トキオも「暗い過去のあるキャラ」という程度で。ただ、シエルだけはスパイとしてカナタに接近し、2クールの中盤で退場することが決まっていたと記憶しています。あおしまさんの初期の構成案を読み直したら「トキオがカナタのために命を散らす」と書いてあって驚きましたが、僕としてはトキオを死なせる気は毛頭なかったので、完全に忘れていたようですね(笑)。第10話あたりで妙にトキオが死にそうなフラグじみた展開が多かったのは、あおしまさんの初期プランの名残りだったのかもしれません。……といった風に、2クール作品の場合は展開に自由度を持たせた作りのほうが好みなんです。作り手である僕たちもドキドキしながら作れますし。1クール目の終盤で登場したミステルとヴァイスハイトが2クール目の展開をあそこまでドラマチックに引っ張ってくれたのは、僕たちスタッフにとってもうれしい誤算なんですよ。

――キャラクター描写で意識したポイントはありますか?
山本 若者だけでなく老若男女をバランスよく配置するようにしました。そのほうがドリフターという架空のジョブや、ロックタウンというコミュニティにリアリティが出せると考えたんです。一例を挙げると、鴨志田さんの原案ではテオは青年だったんですけど、子供に変更させてもらいました。ランゲとドルチェについても、最初は一話限りの出番だったんですけど、ああいう敵役がいたほうが物語に膨らみが出ると思って、最終話まで登場させることにしました。その他のドリフターとメイガスのコンビ、たとえばトキオとムートン、マイケルとボブなどの掛け合いは各ライターさんたちの腕の見せどころでしたね。皆さんが面白がっていじってくれたことで、シリアスな話の中にもコミカルなやりとりが生まれて、演出していて楽しかったです。本作はロボットアクションものであるのは間違いないのですが、あくまで主軸はキャラクターの関係性が生み出すドラマだと捉えていました。人とメイガスの「すれ違い」というのが、当初から目指していた『SYNDUALITY Noir』の大きなテーマのひとつなんです。endmark

山本裕介
やまもとゆうすけ 1966年生まれ。島根県出身。アニメーション演出家、アニメーション監督。大学卒業後、サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)に入社し、制作進行を経て演出家となる。主な監督作に『N・H・Kにようこそ!』『アクエリオンEVOL』『ヤマノススメ』シリーズ、『ナイツ&マジック』『推しが武道館いってくれたら死ぬ』など。
作品情報


『SYNDUALITY Noir』
Blu-ray BOX Ⅰ(特装限定版)
[品番] BCXA-1903
[価格] ¥35,200(税込)
2024年5月29日発売!

  • ©SYNDUALITY Noir Committee