・9話「時の辻神」
虚淵 ここからが、2回目を見るとより楽しめる話ですね。凜雪鴉、捲殘雲、異飄渺の3人の中身が入れ替わっている。脚本の冒頭に「視聴者に悟らせないことを前提に、演出の際に念頭に置いていただきますようお願いします」と注意書きを入れて、操演師さんや声優さんにはあらかじめ伝えておいたので、うまく演じていただけたと思います。内容的には殤不患と浪巫謠のあいだでちょっと行き違いが生じたり、スリリングな展開にもなっていました。クライマックスで白蓮が登場するのも、ショッキングなタイミングにできたかなと思っています。話が後半戦にもなって、新キャラクターは出るわ、世界は広がるわで、派手な展開だったなあと。
・10話「聖剣の秘密」
虚淵 白蓮は大事なキャラクターなので、脚本を書く際に緊張しました。それもあって、思い入れのあるエピソードです。殤不患と白蓮のやりとりの内容を考えると、もしかしたら3期のいちばんキモになるエピソードかもしれません。そこでのセリフにも出てきますが、やはり僕は「時間のループ」というものに対してネガティブなんです。過去の改ざんは、どんな形であれ、決していいものではない。ほかの作品に対してまでNGだと言いたいわけではないですが、あくまで僕個人の価値観としては、後悔は後悔で抱えて生きていかければいけないんじゃないかという気持ちがあります。それを踏み越えたら、もはや人ではなくなってしまうんじゃないか。人が人として悩む以上は、運命は変えてはいけないだろう、と。
それは殤不患と睦天命の描き方にも出ているかもしれません。殤不患と睦天命はもともと仕事のパートナーという意識があるから、お互いに惹かれるところがあっても、一線を引いていた。そして殤不患は禍世螟蝗との戦いのあと、睦天命をこれ以上傷つけたくないから一旦距離を置いた。でも、距離を置いてしまったことに対する後ろめたさもあって、仕事が終わるまでは責任を取れないと感じている。直に会ったときに、自分の弱さをさらけ出さずにいられる自信もない。わりとひとりでがんじがらめになっている。一方、睦天命のほうは悲劇を受け入れているというか、後悔はないんです。ただ、殤不患がそこまで割り切れる人間じゃないことも理解しているので、あえて追わないし、問いたださない。差はありますが、ふたりとも大人で、過去を変えたいとは思わないんです。浪巫謠はその点、ふたりに対して情を持ってしまったので、今のふたりの状態に気を揉んでしまう。彼だけが、後悔を抱えきれないところがあります。あとは細かいところだと、凜雪鴉が揉む刑亥の脚は、シリコンか何か、軟式の素材で作った人形の脚です。実写(人間の脚)じゃないですよ(笑)。アクションだけではなく、そういう部分でも試行錯誤して映像をパワーアップしてくれています。
・11話「遠い歌声」
虚淵 この話数では、禍世螟蝗のスタンスが語られるところが重要ですね。善と悪、両方に意味はないのだ。善と悪を決めるポジションに立つのが、本当の支配者なのだ……と。まさにこの考え方が、彼の正体です。悪人よりもさらにタチの悪いラスボスのポジションですね。あとは浪巫謠の出生の秘密でしょうか。浪巫謠はどうもひどい目に遭うポジションのようです。そして、その話を通じて、魔族の価値観も露骨に見えてくる。憎しみを愛として受け止めるヤツらなんですよ、魔族は。その魔族である阿爾貝盧法は、自分が想像する純粋な悪役です。禍世螟蝗みたいな悪を超えた悪ではなく、悪の道を極めた、生来から歪んでいる邪悪なキャラクター。刑亥も歪みを抱えているんですけど、アイツはドジを踏んだり、ツメが甘かったりで、愛されキャラなところがあるので。阿爾貝盧法はもっと露骨に、価値観そのものが人間と噛み合っていない、エイリアンみたいな悪です。
・12話「烈士再起」
虚淵 種明かしの回ですね。脚本を書いていても、声優さんたちの収録を見ていても爽快でした。それぞれのキャラクターの見せ場が作れて、なかでも、ここに至ってようやく萬軍破がカッコいいキャラとして立ち上がれた。殤不患の説教を受けて、脚本だと萬軍破は言い返さないで終わるんですけど、大塚明夫さんがアドリブで「然り」と入れてくださいまして。あまりにカッコよくて、採用しました(笑)。萬軍破はもともと大塚さんがきっかけで生まれたキャラでもあるんです。3期の話を考え始めようとしていたころに、たまたま大塚さんとお会いする機会があって「何かまた一緒にお仕事したいですね」とお話ししたんです。そういえば、小山力也さんであったり、安元洋貴さんであったり、太い声の男性キャストが声を当ててくださっていたキャラはみんないなくなってしまったし、そういうキャラを書いて、大塚さんに出ていただけたらいいな……と。あくまで「出ていただけたら」であって、大塚さんありきの当て書きをしたわけではないんですけど、結果的にはお願いできて、アドリブも含めて、キャラを完成させてもらえた感じがしましたね。
・13話「照君臨」
虚淵 13話はアクションに尽きます! 本当にもう、ずっと戦い続けてもらって、集団戦から決闘から、芸の限りを尽くしてもらって素晴らしかったです。萬軍破が魔剣目録を使いこなすところでは、脚本の段階ではなかったアイデアをいっぱい盛り込んでいただけました。3期は静かな陰謀のシーンが多かったので、その鬱憤を晴らすかのように派手なバトルに徹してくれたのは、本当によかったです。
- 虚淵玄
- うろぶちげん。株式会社ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『GODZILLA 怪獣惑星』『OBSOLETE』など、数々の映像作品の原案や脚本を手がける。