Febri TALK 2026.04.23 │ 12:00

矢野茜 アニメーター/キャラクターデザイナー

②無意識のうちに踏襲していた「美学」
『ef - a tale of memories.』

アニメーター・矢野茜が選ぶアニメ3選。連載第2回は、高校生時代にリアルタイムで視聴し、映像や音楽、演出の美しさに魅了されたという『ef – a tale of memories.(以下、ef)』。のちにアニメーターとしてキャリアをスタートさせる彼女にとって、自身のクリエイティブの中核ともいえる大きな出会いだった。

取材・文/岡本大介 撮影/松本祐亮

シャフトの映像美と音楽に魅了されて

――2作目は、高校時代にリアルタイムで見ていた『ef』ですね。
矢野 私がシャフトさんの作品に初めて出会ったのがこの『ef』でした。それまで見ていたアニメとは演出が全然違っていて、映像の粒子感とか撮影処理が本当に綺麗で。音楽と映像の合わさり方にもすごく感動しました。

――とくに印象に残っている演出はありますか?
矢野 オープニング映像がすごく好きでした。ストーリーの進行に合わせて映像が変化していくんですけど、最終回はそれまでずっと囚われていたヒロインが解放される演出になっていて「オープニングって変わるんだ!」と衝撃を受けたのと同時に、すごく感動したのを覚えています。

――『ef』は物語としては少し複雑な部分もありますが、当時はどのように見ていましたか?
矢野 完全に雰囲気だけで見ていました。なので、考察するというよりは、映像と音楽の融合や、揺さぶられる感情に身を任せながら、考えるより「感じる」という見方だったんです。なかでも音楽はとくにお気に入りで、その後もサウンドトラックをずっと聞いていたくらいです。

ギャルゲー原作への興味と「少しヤバい」ヒロイン

――『ef』はもともとPCゲーム(美少女ゲーム)が原作ですが、そのあたりも惹かれたポイントだったのでしょうか?
矢野 そうですね。私は美少女ゲーム原作のアニメがすごく好きなんです。自分でゲームをプレイすることはほぼないんですけど、綺麗なデザインやイラストを見るのは好きで、当時の美少女ゲームは私の好みにぴったりでした。あとこの時期は「可愛いものを描きたいけれど、ちょっとエッチなものも見てみたい」という気持ちも芽生えてきて、『H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-』とか『ヨスガノソラ』のような作品にのめり込んでいた時期でもありました。

――女の子ばかりを描いていた矢野さんですが、この頃は男の子との絡みを描きたいと思ったりはしなかったのですか?
矢野 いえ、男の子を描きたいと思ったことはなくて、あくまで女の子単体の、ちょっとエッチな姿が描きたかった感じです。そういう多感な時期に『ef』のような作品に出会ったことは、今の自分の「こういうものを描きたい」という気持ちに大きく関わっていると思います。

――『ef』に登場するヒロインの中では、誰が好きでしたか?
矢野 宮村みやこです。一見快活で元気なんですけど、「あれ? この子ちょっとおかしくない?」みたいな、どこかにヤバい部分があるキャラクターに惹かれるんです。そういう危うさがあると、思わずぞくっとして好きになっちゃいますね。

無意識に引き継いでいたデザインのDNA

――キャラクターデザインやビジュアル面で影響を受けたところはありますか?
矢野 『ef』と同じシルエットの制服が好きでよく描いていました。パフスリーブの感じとか、ショート丈でウエストの細さが強調されているシルエットとか。最近のアニメではあまり見ないですけど、『ef』の影響を受けていたみたいです。

――それだけ強烈に、矢野さんの美的感覚の基礎として刷り込まれていたんですね。
矢野 そうですね。今まで気づいていませんでしたけど、無意識に踏襲していましたね。あとシャフトさんといえば、あえて顔を見せない「目切り」のカットとか、極端な引きのカメラアングルとか、演出も特徴的ですよね。そういう実験的でおしゃれな見せ方もすごく好きで、自分が画を作るときの好みにつながっていると思います。

――ちなみに、アニメ業界に入ってから『ef』のスタッフの方と会う機会はあったのでしょうか?
矢野 ありました。私が初めて原画をやらせてもらったのが『ニセコイ』というシャフトさんの作品で、キャラクターデザインが『ef』と同じ杉山延寛さんだったんです。当時、シャフトさんの社内に席を置かせていただいていた時期があって、杉山さんとお会いすることができて。テンションが上がりすぎて「めっちゃ好きです! 握手してください!」って、DVDに封入されていたポストカードにサインをいただきました。

――それはすごい偶然というか、運命的ですね。
矢野 すごいですよね。業界に入りたてでいきなりご一緒できるなんて思っていませんでした。サインだけでは飽き足らず、当時は毎日のように杉山さんに置き手紙をしていました(笑)。アニメ業界という存在を意識し始め、緻密な構成や映像美に感銘を受けた『ef』は、私にとって本当に大切な作品です。endmark

KATARIBE Profile

矢野茜

矢野茜

アニメーター/キャラクターデザイナー

やのあかね 1992年生まれ。千葉県出身。東京アニメーター学院を卒業後、アニメーターとして活動を開始。2016年『ネトゲの嫁は女の子じゃないと思った?』で初のキャラクターデザイン・総作画監督を務める。主なキャラクターデザイン担当作に『りゅうおうのおしごと!』『弱キャラ友崎くん』など。現在、キャラクターデザインを手がけた『名探偵プリキュア!』が好評放送中。

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