内面の面白さを突き詰めたフガンとムガン
――『タイバニ2』第1クールには、立ちはだかる大きな敵としてフガン&ムガンが登場します。フガン役の宮野真守さん、ムガン役の小野賢章さんによる演技も含めて、エキセントリックなキャラクターになりましたね。
加瀬 キャラクターの設定から読み取った私のイメージだと、最初はふたりとももっと真面目だったんです。でも、西田さんと話をしていくなかで、彼らの内面にある面白いところをどんどん引き出す方向にしましょうと。それで見た目は真面目な雰囲気だけど、声がつくとまるで中学生、というキャラクターになりました(笑)。
――わかりやすく悪役感が出ていました。
加瀬 そうですね。ある意味でふたりは純粋なので。
――宮野さん小野さんの演技は、アドリブも多かったのでしょうか?
加瀬 アドリブっぽいものもけっこうありましたね。男子校的なノリというか。まだ映像が完成していない状態で声の収録をすることもあったので、あまりにアドリブが過ぎると、音響監督の木村(絵理子)さんがこちらを振り返って「大丈夫ですか?」と確認してくださるんです。そのたびに「あ、大丈夫です。合わせます」と返答していました(笑)。
――そんなフガン&ムガンとヒーローたちが、クライマックスで直接対決します。ここのバトルシーンは構成も入り組んでいて、かつ長尺だったので、演出も大変だったように思いました。
加瀬 それまでの戦闘シーンは、その話数における主役のNEXT能力を目立たせるように描いています。クライマックスはバトルとしても集大成になる部分なので、それぞれのNEXT能力をより深く考えながら作っていきました。私は戦闘シーンが好きなので、制作しているのは楽しかったですね。
――どのように決着をつけようと考えていたのでしょうか?
加瀬 あらかじめ説明しておくと、ヒーローたちを犯罪者にしない、というのがこの作品の根幹にあります。ルナティックのように、ヒーローを「処刑人」にはしたくなかったんです。ラーラの放水がムガンに致命的なダメージを与えたように見えるシーンも、じつはフガンにぶつかった水が、彼のNEXT能力(編注:ダメージを無効化し、その受けた威力を強化して放つ)のせいでムガンに直撃してしまった、という流れです。
――あくまでヒーローたちは、敵を捕えるために能力を使っている存在であると。
加瀬 そうです。なので、ラーラが致命傷を与えようとしたわけではないということです。
『タイバニ2』にとっていちばん適した演出を考え抜いた
――なるほど。ちなみにカット割が早く、疾走感のある戦闘シーンには、これまで加瀬さんが携わってきたロボットアニメや、バトルアクションアニメの影響が大きいのかなと感じました。
加瀬 過去に携わった作品を振り返ったり、そこから意識して引用したりすることはありませんが、そこで培った技術や経験は自分の引き出しには確実に入っていると思います。だから、スピーディーなカット割を入れたり、こういう風に見せたほうが面白いよね、という自分の判断基準になっているのは間違いないですね。たとえば、この作品ではアップカットを使うことを意識しました。普段はあまり使わないのですが、『タイバニ2』ではキャラクターやヒーローの表情を見せていくのが重要だと思うので、できるだけ入れています。
――加瀬さんがアップカットをあまり使わないのには何か理由があるのでしょうか?
加瀬 富野(由悠季)さんが、バストカットでアクションさせるのを嫌がる方だったんです。「作画が大変になるだろう」と。たしかにロングショットだったらなんとかできることも多い。それは『戦闘メカ ザブングル』の現場で刷り込まれた方針なので(笑)。他にも、何体も画面上にいるときはアップカットにせず、代わりに誰が話しているかわかるように分割画面を多用せよと。そうすると、実際のカット数が削減されるんです。ただ、作画さんの作業はそんなに変わらないですが(笑)。
――結局、カット内でのカロリーが増えるということですね。
加瀬 そうなんです。そういった経験も踏まえたうえで、作品ごとに見せたいやり方だったり、見せたくないやり方だったりがあるわけです。昔関わった作品だと、「流パン(編注:背景やキャラ線をあえてブレた状態で撮影し、勢いを表現する手法)」をNGにしていた監督もいましたし、それこそ分割画面を好まない方もいます。なので、作品が求めている方向性を事前に確認して、スタッフと共有しながら、そのカットに何がいちばん適した演出なのかを判断していくことが重要だと思います。
――作品のテイストや求められているものに合わせて演出を選んでいくと。
加瀬 アニメーターとしてはアップカットを使わずに構成できればと思いますが、ファンとしたら、やっぱりキャラクターはアップで見たいですよね。ですから、『タイバニ2』ではアップカットも効果的に使っています。
――10月7日からは『タイバニ2』の第2クールの配信がスタートします。
加瀬 第1クールではフガン&ムガンを中心にしたのですが、その背後にあるより大きな敵を映していくことになると思います。
――第1期にも登場した「ウロボロス」にスポットが当たるものになると?
加瀬 そうですね……シュテルンビルトは現実世界と同じように悪が普通に蔓延(はびこ)っている世界なのですが、普段は息を潜めています。第1期でも、バーナビーの育ての親だったマーベリックがウロボロスの人間であったように、すぐそばに敵がいるかもしれない。そういうシュテルンビルト全体における悪の存在がどういうもので、市民にどのような影響を与えるのかがよりクリアになればと思っています。
――ちなみに、第1クールでは登場しなかった「あのキャラクター」も登場するのでしょうか?
加瀬 そうですね。「おまたせしました!」という感じです(笑)。なぜここまで登場しなかったも含めて明らかになると思うので、ぜひご覧いただければと思います。
- 加瀬充子
- かせあつこ 福島県出身。アニメーション監督、演出家。1970年代からアニメーターとして活動を開始し、数々のロボットアニメ、バトルアクションアニメに参加。監督作に『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(第7話まで)、『最終兵器彼女』、『ヤング ブラック・ジャック』などがある。