TOPICS 2021.08.25 │ 12:00

『トロピカル〜ジュ!プリキュア』特集(全3回)
シリーズ構成・横谷昌宏インタビュー

「海」と「コスメ」をモチーフに、カラッと明るいテイストが何より印象的な『プリキュア』シリーズ最新作『トロピカル~ジュ!プリキュア』。シリーズ初参加となるシリーズ構成の横谷昌宏に、このポジティブなテンションがいったいどこからやってきたのか、話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

部活を知らない子供たちが見ても、やってみたいと思える話に

――先ほど少し話題に出ましたが『トロピカル~ジュ!プリキュア』は、学校生活や部活を中心にしたエピソードが多いシリーズになっていますよね。
横谷 ただ、部活をメインに据えた話と、プリキュアが敵と戦うエピソードを絡めるのがなかなか難しくて……。「依頼人が訪ねてきて、その子のために主人公たちが動く」みたいな形がいちばんお話を作りやすいんですが、それだとトロピカる部は狂言回しになりかねない。そこは避けたいと思っていたんです。ときどき依頼を受けるのはいいけど、やっぱり自分たちでやりたいことを見つける話にしたいな、と。あと「部活もの」ではありますが、じつは軸足は学校生活にあって、部活を含めた学校生活を、5人の女の子たちが楽しむのが大事なんだろうとも思ったんです。『プリキュア』シリーズは未就学児童がメインターゲットなわけですけど、部活がどんなものか知らない子供たちが見ても「学校に行って部活をやってみたい」と思える、そういう感じなればいいかな、と。……まあ、トロピカる部は、あまり部活をやっていない気もするんですけど(笑)。

――そもそも、まなつの口癖である「トロピカる」は、どこからきたんでしょうか?
横谷 口癖を考えていたときに、土田監督が「トロピカっちゃおう」とか、そういうのでいいんじゃないですか、みたいなことをおっしゃったんですよ。最初にそれを聞いたときは、みんな一瞬「えっ、それでいいんですか?」みたいな反応だったんですけど、でもそのうち「意外といいじゃないですか」みたいになって(笑)。「ダメだったら他のを考えましょう」と言っているうちに、だんだんとなじんできちゃったんですよね。

自分がいちばん書きたかったことでもあったローラのセリフ

――横谷さんが脚本を書いた第17話(「人魚の奇跡! 変身!キュアラメール!」)は、ローラが初めてプリキュアに変身するエピソードで、序盤の山場のひとつになっていましたね。
横谷 あの話は第16話との前後編の形をとったので、時間がたっぷり使えましたし、加えてそれまでのエピソードが積んであったからこそ描けたものではあるんですけど……。自分としてはたっぷり感情移入して――シナリオを書きながら、本当に泣いていました(笑)。最近の『プリキュア』シリーズは、強い女の子が自分のことを自分で決める話が多いと思うんですけど、あの第17話もまさしくそういう話で。魔女からの「人間の足をあげよう」という誘いをきっぱり断ったローラが、自分の願いを自分でかなえていく。それはある意味、アンデルセンの『人魚姫』に対するアンチテーゼのようにもなっていて。

――たしかに言われてみればそうですね。
横谷 僕自身、昔から『人魚姫』の話が大好きなんですけど、何かを得るためには何かを失わなければならないというテーマにはずっと不満があって。別にそうじゃなくてもいいじゃん、両方手に入れればいいじゃん、と思っていたんです。もちろん、現実にはなかなかそううまくはいかないし、みのりが劇中で言うように「何かを得るためには何かを失わなければいけない」という考えを、みんな普通に持っていると思うんです。でも、本当はそうじゃなくってもいいんだよ、と。「私の願いは、私がかなえる」ときっぱり言い切り、実際に何も失わずにその願いをかなえるというシーンは、自分がいちばん書きたかったことでもありました。

――一方、敵陣営のキャラクターも魅力的ですね。「あとまわしの魔女」というのはどこからきたアイデアなんでしょうか?
横谷 これも土田監督のアイデアですね。主人公が「今、いちばんやりたいこと、大事なことをやる」キャラクターなので、敵はその正反対がいいね、と。あとは人魚がモチーフなので、それに対応して「魔女」が決まって。だから「あとまわしの魔女」っていうキーワードが先に出てきた記憶があります。ちなみに、あんなに身体が大きいっていうのは、あとから知りました。

――そうだったんですか!(笑)
横谷 あと、あとまわしの魔女は仮面を被っているんだと思っていたんですけど、仮面じゃないらしくて。監督によると、カブトガニのようなイメージらしいです。

――あとまわしの魔女の周囲を固めるキャラクターも、みんな個性が強いですよね。
横谷 こういうテイストのシリーズなので、他の『プリキュア』シリーズにある「敵退場回」みたいなのはあまりやりたくないんです。途中で敵のひとりが退場したり交代すると、やっぱり物語が重くなるじゃないですか。むしろ「こいつらは本当に敵チームなのか?」という雰囲気で進めつつ、今後のエピソードで見せ場を作ってあげたいと思っているところです。

あとまわしの魔女との対決、先輩の卒業……ラストに向けて盛り上げたい

――シリーズ的には折り返しポイントにちょうどきていると思うのですが、横谷さんから見て『プリキュア』らしさというのは、どのあたりにあると思いますか?
横谷 この質問、ずっと考えていたんですけど(笑)、いまだによくわからないんですよ。最初の4話をひとりで書いたあと、村山(功)さんに書いていただいたシナリオ(第7話)を読んだときに「これが『プリキュア』だ!」って思ったんです。

――あはは。
横谷 もう4本も書いちゃったけど、僕のは『プリキュア』じゃないですよね?と(笑)。わりと重めの話をウンウン言いながら書いたあとで、あの軽やかで楽しい話がサラッと上がってきたので「これが『プリキュア』なんだ」と衝撃を受けて(笑)。だからいまだに『プリキュア』がどういうものか、わからなかったりするんですけど……。ただ、シナリオがどうあれ、プリキュアが出てくれば、それはもう間違いなく『プリキュア』になるわけで。そういう意味で、もう20年近いシリーズだからこそ、テイストが多少違うものが出てきてもオッケーですよね、みたいなところはあります。これまでシリーズの経験がない僕が呼ばれたのも、きっとそういうことだろうと思うし。今までのシリーズを踏襲した脚本を求められているわけではないんだろうなって自分を納得させています(笑)。

――では、最後に今後の見どころを聞かせてください。
横谷 これは長期シリーズならではの強みだと思うんですけど、やっぱり書いているうちにキャラクターがなじんでくるんですよ。最初の頃は迷いながら書いていたのが、終盤に近づくに従って、だんだんと勝手に動き出す感覚がある。僕自身、楽しい話が好きなのもあって、あまり重いほうにはいかないと思うんですけど、ここから先はさんごやあすか、みのりたちのエピソードを挟みつつ、やっぱり最後はあとまわしの魔女との対決。いったい、魔女は何をあとまわしにしていたのかが明らかになるかな、と。あと、あすかは中学3年生なので、最後は卒業。部活ものといえば、やっぱり先輩との別れも描くことになるだろうし、ラストに向けて盛り上がる話になるといいな、と思っています。endmark

横谷昌宏
よこたにまさひろ。大阪府出身。脚本家。これまでにシリーズ構成を手がけた主な作品に『ケロロ軍曹』『Free!』『Re:ゼロから始める異世界生活』『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』『女子高生の無駄づかい』など、多数。
作品情報

『トロピカル〜ジュ!プリキュア』
ABCテレビ・テレビ朝日系列にて毎週日曜08時30分より放送中。

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