1stライブのことは直前まで考えないようにしていました
――まず、前作アルバム『Empathy』(2020年3月リリース)発表後の手応えや印象を聞かせてください。
上田 『Empathy』では『RefRain』(デビュー・ミニアルバム、2016年12月リリース)とはまったく違う音作りに挑戦して、受け入れてもらえるんだろうかと思っていたんですが、生っぽい歌声や明るいニュアンスが自分の想像よりもずっと受け入れてもらえた感覚がありました。不安ながらもスタッフの方たちと「きっといいものだ」と思いながら作ったので、とてもうれしかったです。『Nebula』では、歌声の生々しさとか、前作から引き継いでいる部分もありますけど、明るいか暗いかでいえばちょっと暗めで、今度はどんなふうに受け止めてもらえるか、またハードルのある作品になったなという印象です。
――『Empathy』を作り終わった時点で、次の作品はまだ見えていない状態だったんですか?
上田 考えてはいたんですけど、具体的に構想が固まってきたのは、その間に挟まっていた『リテラチュア』(2ndシングル、2020年10月リリース)の歌録りの頃だったかな。だから、去年の夏にはもう『Nebula』のことばかりを考えていました。
――もともとその「去年の夏」に1stライブを開催予定だったんですよね。それが今年の3月に延びたわけですけど、やはりこの期間は長かったですか?
上田 長かったですね……なるべく考えないようにしていました。1~2カ月前になってようやく「考えなきゃいけないな」と思い始めたくらいで。ずっと隅に置いていましたね。
――考えないようにしていたというのは、やはりプレッシャーがあったから?
上田 そうですね。レコーディング時の歌い方や表現をライブで再現することは難しいだろうなと思って。そういう状態でちゃんと人の心を動かすことができるんだろうか、CDで聞いたほうがよかった、と思われるんじゃないかという不安、プレッシャーは感じていました。
――リリースしてからライブで披露するまで丸1年ですものね。
上田 結局、ライブでは初めてその曲を歌うようなテンションだったので、過去の歌い方をなぞってしまわないように、リハのときから元の音源を1回も聞かないようにしていました。「この曲、本当にこんなメロディだったっけ?」みたいな状態でやりましたね(笑)。原曲だと違うニュアンスだったんだなあって、あとあと自分のラジオ番組で曲をかけたときに気づいたりします。
最後は絶対にハッピーエンドのアルバムにしたかった
――『Empathy』は明るいところに踏み出していくイメージが特徴的でしたが、『Nebula』は私小説のような組み立て方で、また『RefRein』のように内面に潜り込んでいく印象があります。そこは気になりませんでしたか?
上田 作品の流れをたとえて言えば、『RefRein』では家の中にいたのが、『Empathy』で外に出て、春の朗らかな日に「桜がきれいだな~」って思いながら歩いていたら、石ころにつまずいて転んだ! でも、痛いと思いつつ立ち上がって歩き続けよう……みたいな感じで、転んだときと立ち上がったときを描いているのが『Nebula』です。ずっと前向きなままではいられない、だけど最後は絶対にハッピーエンドにしたかったし、実際に自分の心の中のドロッとしたところを昇華できたことが、私自身にとって前に進むためのいい経験だったので、「また潜っていく」という気持ちはあまりなかったですね。
――全体としては前向きなものであると。
上田 アルバム中盤の曲、「scapesheep」や「デスコロール」を曲単体で聞くと闇が深い感じだと思うんですけど、最初からノンストップで聞いてもらえれば、最後に「起き上がった感」みたいなものは味わってもらえるんじゃないかと思います。あと、私自身、落ち込んでいるときに明るい曲を聞けないタイプで、暗い曲に寄り添ってもらいたいんです。一度つまずいたらちゃんと落ち込みたいなっていう、そういう意識も反映したアルバムになっています。
――もともと「夏」を起点にアルバムのテーマを決めていったそうですが、アートワークは夏の夜のイメージでしょうか?
上田 そうですね。箱庭感なんかを出しつつ、夏の夜とか、あとは海。夏の海といえば、爽やかな青が思い浮かぶ人も多いと思うんですけど、私だったら深海かなと思って。実際にこんな海藻が深海にあるのかはわからないんですけど、水中で、きれいだけど暗い、濃い緑とか紺色のイメージをオーダーしました。
――タイトルはどのあたりのタイミングで決まったのでしょう?
上田 曲順なども決まっていたので、かなり後のほうですね。みんなでそれっぽい単語を調べて「『Nebula』、お、かっこいいぞ」と(笑)。英語だと「星雲」という訳が出てくるんですが、ラテン語だと「もやがかかる」というような意味になるんです。星雲のきらめきと、別角度から見ればくすんだもやに見える、そんな二面性がアルバムに合うかもと思いました。
上田麗奈『Nebula』
品番/LACA-15884
価格/3,300円(税込)
発売日/2021年08月18日
〈収録曲〉
01.うつくしいひと
作詞・作曲・編曲/rionos
02.白昼夢
作詞・作曲/ChouCho 編曲/村山☆潤
03.Poeme en prose
作曲・編曲/TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
04.scapesheep
作詞・作曲・編曲/TECHNOBOYS PULCRAFT GREEN-FUND
05.アリアドネ
作詞・作曲/山田かすみ 編曲/Saku
06.デスコロール
作詞/良原リエ 作曲・編曲/Babi
07.プランクトン
作詞/上田麗奈 作曲・編曲/広川恵一(MONACA)
08.anemone
作詞/Annabel(siraph) 作曲・編曲/蓮尾理之(siraph)
09.わたしのままで
作詞/Annabel(siraph) 作曲・編曲/照井順政(siraph)
10.wall
作詞・作曲・編曲/コトリンゴ