TOPICS 2025.02.03 │ 12:00

「オスカルの心を近くに感じた」 劇場アニメ『ベルサイユのばら』沢城みゆきインタビュー①

革命期のフランスで懸命に生きる人々を鮮やかに描き、歴史的名作となったマンガ『ベルサイユのばら(以下、「ベルばら」)』。伯爵令嬢でありながら軍人として生き、自らの未来を選び取っていく「オスカル」の魅力は、連載開始から50年以上のときを経た今も輝きを放つ。公開中の完全新作劇場アニメでオスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ(以下「オスカル」)を演じた沢城みゆきに、その輝きの理由を聞いた。

取材・文/髙野麻衣

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

原作のオスカルの魅力を伝えたかった

――『ベルサイユのばら』との出会い、その第一印象から教えてください。
沢城 「薔薇は、薔薇は」というサビが有名なテレビアニメの主題歌は知っていましたが、原作をしっかり読んだのは、今回のオーディションのタイミングでした。まず衝撃を受けたのが、池田理代子先生の画力の高さ。「少女マンガの金字塔」という肩書きゆえに恋愛の物語だと思い込んでいた、自分自身の固定観念にも気づかされました。実際に描かれていたのは、人間の普遍的な問い。ジャン=ジャック・ルソーの『社会契約論』がしっかりとベースにあって「ひとりひとりが鎖につながれずに、どう自由に生きるのか」を問う物語でした。物語の入り口で感じていた香りと、実際に物語の中に入ってみたときの手触りみたいなものが、まるで違ったというのが素直な感想です。

――原作を読んだうえで、オスカルという人物をどのように読み解いたのでしょう。共感できる部分はありましたか?
沢城 今回、出﨑統(でざきおさむ)さんがチーフディレクターとして参加していたテレビアニメも見たのですが、そこに描かれたオスカルは彫刻のように完璧で、尊い意志を持ち、葛藤しても美しさのほうが際立つような、とても遠い存在でした。ところが原作を読むと、彼女はものすごく口が悪かったり、喧嘩っ早かったりする、年相応の青さがいっぱい詰まった人間くさいキャラクターであることがわかりました。美しさや立派な印象よりも「自分はこんなに何も知らない人間だったんだ」という彼女の至らなさ、焦燥感みたいなもののほうが、身体の中にすっと感覚として残ったんです。それって、私たちからもそんなに遠くない感情ですよね。そういう「原作のオスカルの魅力が香るように」というスローガンで作られたのが、今回の劇場アニメです。美しくて、身分も高くて、一見自分からは遠い存在のオスカルだけど、感情はずいぶん近くに感じる、と思いながら演じていました。映画はどうしても名場面がメインになってしまい、いわゆる日常シーンで描かれるオスカルの魅力は残しづらいのですが、なんとか香るようにと思っていました。

オスカルは過去を否定せず、自分の心に従って未来を選ぶ人

――本作は、14歳から33歳までのオスカルの半生を濃密に描いていますものね。台本を読んだときの印象はどうでしたか?
沢城 原作では、オスカルのそばにはいつもアンドレ・グランディエ(以下「アンドレ」)という存在がいるんですが、映画の中では20分近くでていなかったりするんですね。一方でハンス・アクセル・フォン・フェルゼン(以下「フェルゼン」)は「スウェーデンに帰国することにした。いつかまたきっと会おう」と言った3分後くらいに、数年経って帰国したりするシーンになったりするんです。その時間感覚の違い――キャラクターが触れる肌感覚と、実際の時間とのギャップが(お芝居をするうえで)要注意だと思いました。あと、歌唱シーンのレコーディングが先だったので「これはどういう気持ちで歌っている歌なのか、あとのセリフにどうつながるのか」もしっかり把握しなければならないなと。絵コンテと向き合いながら、原作で補完すべき感情を必死に照らし合わせて、準備していきました。

――なるほど。映画の後半になると、オスカルが麾下(きか。隊の指揮者に属する部下)の衛兵隊を激励するようなシーンも増えますが、どんな思いを込めたのでしょう。
沢城 衛兵隊に対するときは、何を話しているかより、なぜそれを話そうと思ったかという「行間」をいつも意識していました。たとえば、革命の中でオスカルが兵士たちの名前を呼ぶシーンがあります。原作では、ひとりひとりとのエピソードがきちんと描かれているので胸が熱くなるのですが、映画ではそのエピソードを描く時間がない。だから急に名前を呼んでいるように見えても、「そこにはきっとそれぞれの物語があったんだ」と伝わるように祈りながら演じました。衛兵隊の仲間とのやりとりは、オスカルが自分の人生の使命だと思っていた「王妃マリー・アントワネット(以下「アントワネット」)様をお守りする」という立場から、別の立場へと舵(かじ)を切っていく大きな要因ですからね。そこに嘘があると物語が成り立たない。声ひとつにもオスカルの人間性が宿ると思ったので、台本がなくてもいける状態までセリフを覚え、舞台で演じるような気持ちで収録に臨(のぞ)みました。

――数年前にインタビューした際、沢城さんに問いかけられた「心の中の剣を置くこともまた強さではないか」という言葉が心に残っていますが、オスカルは剣をとる人物ですね。
沢城 オスカルが「進撃!」と剣をかざし、その切っ先が未来へと向かっていく――あのシーンはたしかに、フランス革命の演出としてとても象徴的ですよね。でも、実際にオスカルがやったことって、剣を置くことだと思いませんか。彼女が剣で断ち切ったのは、自分自身の中の軛(くびき)だけなんです。「さらば! もろもろの古き軛よ」というセリフがあるように、オスカルは過去にあったものを否定しないという志も持っています。たとえば、父のジャルジェ将軍に対しても「父上、感謝いたします。このような人生を与えてくださったことを。女でありながらこれほどにも広い世界を見、人間としてもがき生きる道を」と語りかける。過去を否定せず、自分の心に従って未来を選んでいく人なので、そこは大切に演じました。

いつでもいちばんの敵は自分自身

――真摯な姿勢がオスカルと重なるようです。沢城さん自身が今、戦っているものはありますか?
沢城 いつでもいちばんの敵は自分自身です。至らない自分との戦いですね。裏を返すと、いちばん応援してくれる存在も自分なので、戦う力があるなら自分を応援しようと思っています。私は10代の頃からこの仕事をしていますが、褒めてくれる人が自分しかいないときは、支えてくれた人たちの言葉をもう一度自分にかけてあげるんです。特別賞をもらったとき、「抜群の将来性に期待して」と言っていただいたなとか。「他の人たちには任せておけないでしょ? だから辞めずに頑張れ」と言われたときも、それを自分の中で繰り返して「きっとできる」となんとか前に進んできました。私の仕事は、自分が憧れた人たちと働けることでもありますが、そんな人たちに「みゆきちゃん」って呼んでもらうだけで、好きじゃなかった自分の名前がすごく好きになったこともあります。そういう経験が、私の中でいつまでも燦然(さんぜん)と光り輝いて、支えてくれている気がします。

――オスカルとの出会いを経て、新たな変化もありそうですね。
沢城 じつは、歌唱シーンのレコーディング中に、すごく明確なタイミングがありました。オスカルが「自らの心に従い、自ら選んだ道としてこの身を剣に砲弾に捧げ、軍神マルスの子として生きましょう」と決意するシーンがあるんですが、そこにかかる曲の歌詞に「もう迷いはない」とあって。澤野(弘之)さんのサウンドの中で歌ったとき、オスカルと共鳴してなんだか私の中からも迷いが一緒に出て行った体感があって(笑)透徹した志でまっすぐ、迷わずいくんだって、本気で口にすると、やっぱり言霊(ことだま)ってあるんですね。本当にそう言う気持ちになる。なのでぜひ口に出して一緒に歌ってみることをオススメします。劇中歌だけのCDも出るということなので、歌で表現された『ベルばら』の世界もじっくり味わっていただきたいです。endmark

沢城みゆき
さわしろみゆき 青二プロダクション所属。主な出演作に『ルパン三世』(峰不二子:三代目)、『鬼滅の刃 遊郭編』(堕姫)、『ゲゲゲの鬼太郎(6期)』(鬼太郎)など。
後編(②)は2月4日(火)公開予定
作品情報

劇場アニメ『ベルサイユのばら』
絶賛公開中

原作:池田理代子

監督:吉村 愛
脚本:金春智子
キャラクターデザイン:岡 真里子
音楽プロデューサー:澤野弘之
音楽:澤野弘之、KOHTA YAMAMOTO
アニメーション制作:MAPPA
製作:劇場アニメベルサイユのばら製作委員会
配給:TOHO NEXT、エイベックス・ピクチャーズ
後援:在日フランス大使館/アンスティチュ・フランセ

オスカル・フランソワ・ド・ジャルジェ:沢城みゆき
マリー・アントワネット:平野 綾
アンドレ・グランディエ:豊永利行
ハンス・アクセル・フォン・フェルゼン:加藤和樹

ナレーション:黒木 瞳

主題歌:絢香『Versailles – ベルサイユ – 』

★The Rose of Versailles (MovieEdit) 配信情報
12⽉25⽇(⽔)より劇場公開に先駆けて配信中︕
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★Song Collection from The Rose of Versailles 商品情報
澤野弘之による挿⼊歌全15曲を収録︕
ムービーエディット版10曲も含めた全25 トラック収録︕
2025年2⽉26⽇(⽔)ON SALE
¥3,850(税込)
<仕様>MAPPA描き下ろしジャケット(オスカル)
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★The Rose of Versailles Original Soundtrack 商品情報
澤野弘之・KOHTA YAMAMOTO による美麗な世界観を形作るサウンドトラック全31曲を収録︕
ブックレットには澤野弘之とともに作曲を⼿掛けるKOHTA YAMAMOTO のインタビューを掲載︕
2025年2⽉26⽇(⽔)ON SALE
¥3,850(税込)
<仕様> MAPPA描き下ろしジャケット(マリー・アントワネット)
※収録内容・商品内容は予告なく変更になる場合もございます。
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  • ©池田理代子プロダクション/ベルサイユのばら製作委員会