TOPICS 2024.04.25 │ 18:00

自分の好きを見つける物語
『夜のクラゲは泳げない』竹下良平監督インタビュー①

4人の少女たちによる匿名クリエイティブ活動を描いたオリジナルTVアニメーション『夜のクラゲは泳げない(以下、ヨルクラ)』が面白い。ガールミーツガールをきっかけに、自分の「好き」を見つけ、手を取り合いながら前へと突き進んでいく圧倒的青春感と、そこに立ちはだかる壁。ここでは竹下良平監督に、本作に込めた想いやこれまでの話数の演出について語ってもらった。

取材・文/岡本大介

「自分の好きを見つける」姿を描きたかった

――本作はオリジナル作品ですが、どのように企画が立ち上がったのでしょうか?
竹下 もともとキングレコードさんと動画工房さん、そして自分という座組みで原作もののアニメをやろうという動きがありました。ただ、私の中でオリジナル作品を作りたいという気持ちがあり、試しに3つほど企画を作って提出したんです。そのうちのひとつがプロデューサーさんの目に留まったという感じですね。

――ちなみに他のふたつはどんな作品を構想していたんですか?
竹下 アクション作品です。ちょうどその頃『呪術廻戦』のアニメ制作が終わったタイミングだったこともあって、激しいアクションアニメに興味があったんですよね。ただ、「キングレコードと動画工房と作品を一緒に作る意味」という観点をプロデューサーの鈴木(廉太)さんからお題に与えられて。その後、企画を練り直して今のかたちになりました。

――なるほど。『ヨルクラ』は渋谷が舞台です。『呪術廻戦』でも渋谷を舞台とした渋谷事変があって、そこは少しつながりますね。
竹下 そうですね。そこは『呪術廻戦』から影響を受けたところもあったのかもしれません。あとは、もともと若い人たちのストリートカルチャーが好きだったこともありますね。都会的なストリートカルチャーと、アニメに出てくるようなかわいい女の子たちとの組み合わせを映像にできたら面白いんじゃないかって。あと、顔出しせずに匿名で音楽活動をしていくという設定も最初から考えていました。

――物語の大筋は企画書ですでに固まっていたんですね。本作はビジュアルがとてもポップでキャッチーですが、同時にテーマもかなり明確です。監督としてはどちらがありきだったのでしょうか?
竹下 テーマです。今の時代、他人のキラキラした人生がSNSを通じてどんどん目に飛び込んできて、つい自分と比べて落ち込んでしまったりするじゃないですか。私にもそういう経験はたくさんあるので、見てくれた方たちがまわりに振り回されないですむ、生きる指標となるように、キャラクターたちが「自分の好きを見つける」という話が描きたいと思ったんです。

――主人公の光月(こうづき)まひるは、まさにそんな感じの女の子ですね。その他の3人の女の子も、それぞれに問題を抱えているのが面白いです。
竹下 青春群像劇を描きたかったので、キャラクターの設定ついてはいろいろと考えました。参考にしたのは坂元裕二さんの脚本作品『問題のあるレストラン』 。キャラクターそれぞれが問題を抱えつつも、レストランの運営を通じてそれらを解決していくという流れがあって、そこに影響を受けていると思います。坂元さんはとあるインタビューで「立場が弱い人の味方でありたい」という趣旨の発言をされていて、そこにとても共感したんです。『ヨルクラ』もそういう作品にしたいなという気持ちが最初からありましたね。

キャラの感情を追うだけのアニメにならないように

――シリーズ構成・脚本は屋久ユウキさんが担当しています。シナリオについては、竹下監督のプロットやキャラ設定をもとに屋久さんが肉付けしていったのでしょうか?
竹下 それもありますが、キャラクターの掘り下げについては屋久先生の手腕によるところが大きいです。映像演出、テンポ感、ネタやテーマなど私もたくさんアイデアを出しましたが、キャラクターのセリフや心情描写などは屋久先生によるものです。やっぱり実際に手を動かしてセリフやドラマを紡いでいる人だけが描ける、キャラクターの命みたいなものがあると感じました。そこは屋久先生の仕事を間近で見て、とても勉強になりました。もし、また別の機会がもらえるなら、私も脚本に挑戦しなければと思っています。

――では、今回は映像面は竹下監督、キャラクター描写は屋久さんという役割分担なんですね。
竹下 そうですね。私としては、キャラクターの感情を追うだけのアニメとならないよう、映像作品としての快楽を追求するために、本読みでのアイデア出しに全力を注ぎました。お話自体がわりとシリアスな分、そのままやってしまうとエンタメから少し外れたアニメになってしまいかねないので、そこは真面目になりすぎないように意識しています。

――たしかに随所にマンガ的な表現がありますし、コメディのテンポの緩急も含めて工夫が凝らされている印象です。
竹下 気楽な気持ちで、なんなら別の作業をしながら見ても楽しめるような作品にもなっていればいいなと思いながら作っていましたね。

――それでいうと、渋谷の街並みや少女たちのファッションなど、リアルでありながらもとてもポップに表現されていて、フィルム全体が華やかで楽しげですよね。
竹下 ありがとうございます。そこはかなりこだわっていて、背景は美術監督の金子(雄司)さん率いる美術チームの功績です。衣装に関してはpopman3580さんに原案として全面的に協力していただいていて、今の若い世代に刺さるファッションをアニメとしてどう見栄えのよいものにするか、衣装デザインの葛原(詩乃)さん、長澤(翔子)さんと一緒にいろいろと試しています。画面設計に関して参考にしたのは、石本一人旅さんや奥山由之さんといったフォトグラファーのストリートスナップで、デジタルなんだけどフィルムライクなビジュアルというものを目指しました。いろいろと試すことで、まわりのスタッフを振り回してしまい申し訳ないという気持ちはありつつも、映像に関しては一切遠慮や妥協はしていません。

――そうなんですね。では、後編は第3話までの展開を振り返っていきます。
竹下 よろしくお願いします!endmark

竹下良平
たけしたりょうへい 宮崎県出身。主な仕事に『エロマンガ先生』監督、『ポケットモンスター 放課後のブレス』監督、『呪術廻戦』第2クールEDのコンテ演出、『先輩がうざい後輩の話』OPコンテ演出など。
作品概要

オリジナルTVアニメ『夜のクラゲは泳げない』
好評放送&配信中!

  • ©JELEE/「夜のクラゲは泳げない」製作委員会