万年嵐子は高倉健さんのイメージで
――キャラクターを立ち上げていくにあたって大事にしたポイントを教えてください。
増井 最初の企画書にキャラクターの簡単なプロフィールがあって、芸能人やタレントさんの写真がイメージとして添えられていたんですけど、大きかったのはやっぱり仁井(学)さんのキャラクターデザインです。シナリオから読み取ってデザインしてくださったということで「こういう顔の子だったんだ」とキャラクター像がはっきりしていきました。万年嵐子はこだわりたかったので僕から仁井さんへ高倉健さんの写真を何枚か送って、目つきや表情を寄せてほしいとお願いしました。ゆめちのツインテールも仁井さんのアイデアで、最初はピンク色の髪だったんですよ。ただ、しぃぽんが金髪で怒られる回が出てきたので、ゆめちを黒髪にしました。ゾーヤは最初、もう少しガッチリした男性のような体格だったのをスレンダーにしてもらいました。やっぱりメイドを目指して頑張るので、可愛さあふれる子にしたかったんですね。
――店長はいかがですか?
増井 小狡(こずる)いというか、真面目なんだけどお金がないことに頭がいっぱい、必死、というタイプで、仁井さんがあの目つきを表現してくださったことで、ほぼ一発で決まりました。しぃぽんは最初のうちはキャラクターが見えてこなかったんですけど、第4話(「実録!豚の調教師だブー!!」)で比企(能博)さんがアイデアを積み上げたことで人物像が見えてきた感じです。「あーし」という一人称はシリーズ構成の比企さんのこだわりです。
――パンダ、もとい御徒町さんは?
増井 竹中(信広)プロデューサーがとにかくパンダを出したい、引越し業者のCMに出てくるようなパンダがほしいと(笑)。中にどんな人物がいるのかはしばらく放置されていました。第10話(「メイド心中 電気街を濡らす涙雨」)で御徒町さんの過去が語られるときに固めていった人物です。
――なごみはどうですか?
増井 純真無垢な少女が新しい仕事をおぼえていくということで、なごみの目線を視聴者にいちばん近いものにしようと思いました。まわりの子が個性的なので、埋没しないよう表情を豊かにするなど工夫しましたね。
――これまで放送された第10話までの中で、印象に残っている制作時のエピソードはありますか?
増井 野球回(第8話「鮮血に染まる白球 栄光は君に輝キュン♡」)は、クロスカウンターのあった第3話(「メイドの拳、膵臓の価値は」)や第5話(嵐子の誕生日回「赤に沈む!三十六歳生誕祭!」)を書いた日高(勝郎)さんの脚本担当回ですが、日高さんもノリノリでしたね。作画の皆さんも大変だったと思いますが、面白い回でした。第6話と第7話(「獣抗争史!秋葉外生命体血戦!!」)の愛美さん編の脚本を担当された米内山(陽子)さんは、とにかく何度も書き直していただいて苦労されたと思います。
――何がネックだったのでしょうか?
増井 和平なごみをどうするか、ですね。ねるらが殺され、絶望したなごみがどこに行くんだろうと。結局、行き先はロケハンで行った忍者カフェをヒントにさせていただきました。でも、今度は戻ってくるにしても足手まといになるんじゃないかという意見が出たんです。カチコミをかけられているなか、帰ってきてもあっという間に殺されてしまうんじゃないかと。
――第7話でとんとことんの皆を助けにきたなごみが忍者の技を繰り出しながら「メイドだああ!」と叫ぶ、むちゃくちゃだけどかっこいいシーンでした。
増井 どう見ても忍者の格好なのにメイドと言い張る。それでイケそうだとなりました。なごみはブタのメイドですが、スイッチが入るとイノシシみたいに止まらなくなる、そこが面白い子ですよね。
――第6話と第7話といえば愛美を演じたユリン千晶さんの演技も衝撃でした。
増井 音響監督の飯田(里樹)さんに「広島弁がネイティブの方にしたい」とお伝えしたらユリンさんを連れてきてくださったんです。ユリンさんご自身はあまりやったことのない役で不安だったようですけど、バッチリでした。
人を殺す道具の終末を描いたエンディング
――第10話の末広と嵐子の大人の恋は悲しい幕切れでした。
増井 嵐子と末広は、昔のフランス映画とかの悲恋をイメージしてスタイリッシュにしたいと脚本担当の小森(さじ)さんと話していました。あと、真島(昌利)さんの『アンダルシアに憧れて』という曲があるのですが、女の子が駅にいて、男が「行くから待っててくれ」と言うんだけど撃たれて死んじゃう、という歌で、その気持ちで行きましょうとよく話していました。
――エンディングのコンテも監督が担当しています。これは演歌のMVをイメージして?
増井 そうですね。昭和の演歌風のエンディング曲だったので、昔のカラオケビデオみたいにしたいと思ったんです。「ロケ地・鎌倉」とか最後に出てくるような。
――なるほど(笑)。
増井 嵐子が旅立った男で、なごみは酒場で待っている女、というイメージです。
――なごみがカクテルに入れる銃弾はどのような意味が込められているのでしょうか?
増井 この作品は銃でどんどん人を殺しますが、人を殺すためだけの道具って何なんだ、という思いがありました。その終末を見たくて、銃弾は砂糖水に落として、拳銃は塩水に漬けろ、と。使えないようにする、そんな気持ちで描きました。
――それで海辺に銃が。抗争の末の世界にも見えますね。
増井 海はエンディングにしか出てこないので、むしろ別の世界なのかな。たとえば、第10話で嵐子と末広は会えないままでしたが、もし、ふたりが夜行列車に乗って逃げていったとしたら、嵐子は北の海のどこかでなごみのことを思っていて、残されたなごみは嵐子を思って……というifの世界。
――面白いですね。放送も残すところ2話となりますが、SNSの反響は見ていますか?
増井 今はもう作業も終わっているので、チラチラ眺めています。想像以上に反応があってびっくりしました。やった甲斐がありましたね……。最後は主人公であるなごみと嵐子、それと昔の姉妹の凪、この3人の話に集約していきます。それぞれがどんな結末を迎えるのか、ぜひ楽しみにご覧ください。
- 増井壮一
- ますいそういち 埼玉県出身。アニメ監督、演出家。多くの作品で絵コンテを担当。主な監督作に『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ黄金のスパイ大作戦』『サクラクエスト』『青春ブタ野郎はバニーガール先輩の夢を見ない』などがある。