夢芽のなかにある高い壁を取り払ってくれた蓬
――安済さんから見て、ちせの印象は最初と最後で変わりましたか?
安済 うーん、変わらないですね。変わらないまま、終わりました(笑)。ちせって、視聴者からすると謎な部分も多くて、それこそ「闇落ちしちゃうんじゃないか」みたいな、そういうキャラクターだったと思うんです。オープニングもズルいなって思うんですけど(笑)、ちせの後ろで何かの目が光っていたりして──今見るとゴルドバーンだったんだなってわかるんですけど、「アイツ、きっと裏切るぞ」というか(笑)。ちせ自身がそういう空気を出していなくても、見ている人がそういうふうに勘ぐってしまうキャラクターだと思うんですね。で、アフレコが始まる前に、キャストがひとりひとり呼び出されて、監督と話す機会があったんですけど……。
――個人面談があったんですね。
安済 そうなんです。そのときに「ちせは不登校の子なんだけど、それほどネガティブな要素ではない」と言われたんです。いじめられたり、何かのトラブルに巻き込まれて不登校になっているわけじゃない。むしろまわりよりも秀でていて、できる子だったがゆえに孤立してしまった子なんだという話をされたんですね。それこそ「アームカバーで何かを隠しているんじゃないか」とか、いろいろな憶測を呼んだと思うんですけど、演じているほうとしては何も変えているつもりはなくて。見ている人の見方だったりまわりの環境で、ちせっていうキャラクターの受け取り方が変わるんだなって。そこがすごく面白かったです。
若山 あはは。
安済 あと私、オンエアで視聴者の方から指摘されるまで、この子の格好がすごいってことに気づいていなかったんですよ。
若山 私も気づいてなかった!
安済 そうだよね! でも、よく考えてみたら、けっこう攻めたファッションだよなっていう(笑)。ロックっぽい感じが好きなのかな?くらいに思っていたんですけど、たしかにこの格好で暦先輩と歩いていたら、そりゃあ職務質問されるのも仕方ないなと(笑)。
若山 暦先輩も33歳ですからね。
安済 そうそう。その年齢差も面白かったですね。だから演じている身としては――もちろん、彼女のなかでも成長とか葛藤はありましたけど、でも大きく何かが変わったとかはなくて。ゆるやかに、物語とともに成長していったという感じなんですよね。
――若山さんは、その監督との個人面談でどういう話があったのでしょう?
若山 まずはちょっと不思議な子というところ(笑)。あとお芝居の方向性については、オーディションのときに「実写に近い感じで」という話があったので、めちゃくちゃぼそぼそしゃべっていたんです。まわりの人に聞こえているのか、いつも不安でした。
安済 たしかに、ディスタンスを保ったマイク配置だったもんね(笑)。
若山 「本当に大丈夫かな?」ってドキドキして(笑)。
――物語が進むにつれて、そんな夢芽のなかに亡くなった姉に対する強いこだわりがあることがわかりますよね。彼女の変化を若山さんはどう捉えていましたか?
若山 やっぱり近くに、蓬くんっていう存在ができたことが大きかったんだと思うんです。蓬くんと出会ったことで、少しずつ他人に頼るということをおぼえたのかなって。最初の頃はそれこそ、内に内にっていう感じの発言ばっかりだったと思うんですけど、高い壁を外からガシガシ叩いてくれる人がいたので、自分からその壁を外そうと思えたのかなって、そういうふうに感じていました。
蓬と夢芽の恋の行方にうらやましいくらいときめいていた
――結局、夢芽は蓬のことが好きだったんでしょうか? 蓬から「つきあってください」と告白されたわけですけど……。
安済 あの瞬間、アフレコ現場で後ろから見ながら「フゥ~!」ってなっていました。
若山 あはは。たぶん、あの瞬間は、好きだとか恋をしているって感覚はなかったと思うんです。ただ、蓬君に対してほかの人とは違う感情を抱いていて、蓬君がここまで一生懸命になってくれるのは私だけだ、という確信をちょっとだけ持っている。それくらいの感じだと思うんです。結局、夢芽がなんと答えたのかはわからないままなんですけど(笑)、でも蓬君といることで居心地がいいということに気づいて、だからこそつきあう流れになったんじゃないか、と思いますね。
安済 第1回で夢芽が蓬に対して「蓬君なら、私のことわかってくれると思う」みたいなことを言うじゃないですか。彼女にとってはただの誘い文句だったのかもしれないですけど、今見るとちょっと「おや?」と思う(笑)。で、それが本当にその通りになっていく、というか。
若山 本当にもう、ずっともどかしい距離感でふたりの仲が進んでいく感じで。
安済 そうそう、もどかしかった(笑)。
若山 だから友達みたいな気持ちで見守っていました。「アイツのことが好きだ」って言っていた友達とそれに対して興味なさげだった友達が、ちょっとずつ仲良くなって、ついにつきあう!みたいな。その過程を見ていた気分でしたね。
安済 あはは。たしかに情熱的にお互いを求めあったわけじゃないんだよね。
若山 そうなんです。少しずつ近づいていく感じがなんともリアルで。
安済 エモーショナルでした、まさしく。
若山 蓬君にはきっとこれから、夢芽に振り回される人生が待っていると思うんですけど(笑)。
安済 でも、相性がよさそうな気もする。
若山 そうですね。ここまで頑張ってくれた蓬君なら、この先も夢芽と一緒にやっていけるんじゃないかな、とも思いますし。夢芽に対してはもう、ここまでしてくれるのは蓬君しかいないよ!と。……誰目線なのか、わからないですけど(笑)。
安済 で、私はそんな蓬と夢芽のエモい会話を横で聞いていて、ずっとときめいていました。「はぁ~」って(笑)。
若山 そうだったんですね。じつは今日、せっかくの対談なので、蓬と夢芽をどういうふうに見ていたんですか?って聞こうと思っていたんですけど……。
安済 そうだったんだ! むしろ、うらやましいくらいのときめきを感じていました。
暦の存在はちせにとっての避難所だった
――そんな安済さんが、ちせを演じるうえで大切にしていたところは?
安済 ちせはまわりよりも大人びた子だと聞いていて……。たぶん、同世代の子といると浮いちゃうんだけど、かといって年上のしっかりした人と一緒だと自分が劣っていることが見えちゃうんですよ。だから、暦先輩くらいがちょうどいいというか(笑)。大人なんだけど無職で、ちょっとダメな人と一緒にいる安心感みたいな、その空気感は大切にしたいと思っていました。だから、単に仲のいい、いとこの家にいるというだけじゃなくて、彼女にとっては避難所になっているというか。しかも、安心材料だったはずの暦先輩がやることを見つけて、少しずつ前に進み始めたのを目にして焦ってしまう。そういう多感な時期ならではの葛藤みたいな部分は、繊細にやりたいと思っていました。
――ゴルドバーンという友達ができて、本当によかったという。
安済 そうですね。ゴルドバーンの登場回(第9回)は台本を読んでいて、すごく感動しました。「みんなの役に立ちたい」っていうちせの想いが実って、本当によかったなって。だからこそ、お別れのシーンがすごく悲しかった。
おふたりのインタビューの続きは書籍「SSSS.DYNAZENON & GRIDMAN ヒロインアーカイブ」に収録。