――物語が進んでいく中で、愛音（あのん）にも挫折があったことが示されます。彼女にもトラウマを持たせた理由は何でしょうか？
綾奈　第1話で愛音が「またダメにならないように頑張ればよくない？」と言いますよね。彼女のああいう吹っ切れ感やある種の雑さが、CRYCHIC（クライシック）の解散後、前向きな気持ちになれなかった燈（ともり）に影響を与えるようにしたかったんです。燈には「ダメになってもやり直せる」という発想がまったくなかったので、愛音のその言葉を聞いてびっくりする。愛音自身は完璧な人間ではないですが、燈にとって自分にない価値観を持った素敵な人に映ったはずです。

――誰もが悩みを持つというのは現実的な話ですし、第7話でライブが成功したものの、メンバー間には不協和音が流れるところもリアルだなと思いました。
綾奈　あそこは描いていて「面白くなったな」と思いましたね。本作はこれまでの『バンドリ！』シリーズに対するカウンターだと考えていたところがあったので、ライブが成功すれば全員がハッピー……とは限らない、ということを描きたかったんです。第10話のライブ後も、大団円というわけでもない。

――そのあと第11話を起点に、Ave Mujica（アヴェムジカ）にもスポットが当たっていきます。
綾奈　最終回の第13話は半ば「Ave Mujicaの前日談」として描くつもりでいました。もちろん、そよと燈の関係性に決着をつけて、MyGO!!!!!がこれからもバンドとしてやっていけそうなのか、というところまでは描きたかったので、結果的に盛りだくさんの最終回になりましたが、なんとか見せたいものを描ききれたと思います。

――キャラクターたちの関係値がどれくらい動いたか、それを示すことはできたと。
綾奈　そうですね。ライブの打ち上げシーンを書いたのは今回が初めてだったんです。「同じ釜の飯を食う」じゃないですけど、みんなでご飯を食べるのって、仲が深まる過程ではけっこう大事じゃないですか。

――たしかに。MyGO!!!!!のメンバーの関係が深まっているのは、そよが燈に対して「私ね、燈ちゃんの歌詞――苦手だったんだ」と直接告げたことからも伝わってきました。
綾奈　「そよは燈の歌詞があまり好きじゃない」というのは初期から考えていました。それをいつ言わせようかとずっと機会をうかがっていたのですが、結局、最終回になりましたね。そよは燈の歌詞について、ちゃんと感想を口にしたことがありません。燈のむき出しの想いと向き合うと、醜いと思っている自分のエゴに直面してしまう。それがつらいので、無意識に避けていた、というイメージです。そして去り際に「私たぶん、一生CRYCHICのこと忘れられないよ」とも伝える。あれは彼女なりの甘えで、その上でMyGO!!!!!をやっていく宣言なんです。「それでもいい？」と聞いている。そこで燈も「私も」と言えたことで、ふたりに絆が生まれた。あのシーンはすごく好きですね。

――そもそも、そよは表裏のある人物として描かれていましたよね。
綾奈　みんなに好かれようと当たり障りのない言動をして、自分の本音があまり言えないタイプですね。自らそうしているので、そのキツさに彼女自身も気づいていない。その反動で「春日影」事件以降は、やさぐれてしまって……。

――路面電車の駅で燈たちに遭遇しても平気で無視したり。
綾奈　あれは「もういい！　知らない！」という状態ですね。八つ当たりというか、好かれることをやめてしまった。でも、そうやってむき出しの自分を愛音や燈、立希にぶつけられたことで、これまでと違う、上っ面だけではない仲になっていく。引き続きひりひりはすると思いますが、そよがやさぐれていても、もう怖くないですからね。ただ引っ込みがつかなくなっちゃっただけなので（笑）。

――第7話に出てきた燈のセリフに「私の歌は心の叫びだから」というものがあります。あれは綾奈さんの気持ちが重ねられているのかなと思いました。
綾奈　私……の気持ちはなかったと思います。あのセリフは脚本を書きながら自然と出てきました。祥子の応援で「碧天伴走（へきてんばんそう）」を歌えた燈が（脚本を書く自分からすると）勝手にしゃべり出したので、あれは純粋に燈の本心だと思いますね。「ボーカル必死すぎ」と言われたことを「私は必死にやるしかできない！」と受け入れ、「だって私の歌は心の叫びだから！」と祥子の言葉を口にする。祥子にもらった言葉を、今、ようやく自身のものにできたんです。燈がここまで来てくれた、と自分でも感動しましたし、このライブの成功体験が以降の彼女を支えていると思います。

――ちなみに祥子の脱退の謎は第13話のラストパートで少しだけ描かれます。謎をすべて明かさないのは最初から決めていたのでしょうか？
綾奈　もともと2クール想定だったので、1クール目でMyGO!!!!!を、2クール目はAve Mujicaを軸にする構成にしようと。そのためのラストパートですね。

――なるほど。それで最後に祥子の現状を示したと。
綾奈　あのシーンもかなり早い段階で浮かんでいたので、ようやくたどり着けたという思いがあります。祥子が「くそ親父」なんて言葉を口にするとは……。

――続編でも「シリアスなドラマ」というコンセプトは変わらない方向なのでしょうか？
綾奈　そうですね。Ave Mujicaがメインになるからこそ描けるシーンも出てくると思います。物語としては『It’s MyGO!!!!!』の続編になりますけど、感じられる「エグさ」のテイストはまた違うものになるかもしれません。

――『It’s MyGO!!!!!』の視聴者のリアクションで意外だったものはありますか？
綾奈　他の方に視聴をすすめてくださるアツい方が多かったのが、うれしかったです。また、キャラクターの境遇をこんなにも「自分ごと」として捉えてくださるのは予想外で、驚きと感動がありました。キャラクターに思いを馳せるだけではなく、ご自身と向き合ってくださる。それは脚本家として仕事をしてきて、これまでにあまりなかったことでした。劇中のセリフを集めたポスターから「このセリフはいつ登場するんだ？」と予想していただいたり、いろいろな楽しみ方をしていただけてうれしかったです。

――続編に向けてのヒントや、『It’s MyGO!!!!!』をあらためて見返すうえで注目してほしいポイントを教えてください。
綾奈　Ave Mujica編になってもCRYCHICの存在は大きいので、そこは前提に置いていただけるとうれしいですね。『It’s MyGO!!!!!』を見返せば見返すほど、続編も面白く見ていただけると思います。タイトルも主人公も変わりますが、あらゆることが『It’s MyGO!!!!!』と連動しているので、未見の方にはぜひご覧になってほしいです。