TOPICS 2026.07.22 │ 12:00

小出卓史監督に聞く
「さよならララ」の深い話②

アンデルセン童話の『人魚姫』をモチーフに、現代の滋賀県・琵琶湖を舞台にしたオリジナルTVアニメーション『さよならララ』。第3話の放送を終えたタイミングで、本作が初監督作品となる小出卓史さんをお招きし、企画の成り立ちから作品に込めたテーマについて聞くインタビュー企画。後編は、滋賀のリアルな空気感を作るためのこだわりや、各話の演出秘話について。

取材・文/岡本大介

コントラストを際立たせたキャスティングと、あえての“引き算”

――本作の舞台となる滋賀県の風景ですが、スーパーの「平和堂」やチェリオの自販機など、非常にリアルで解像度が高いですね。
小出 かなり早い段階で滋賀を舞台にすることが決まったので、ロケハンには何度も行きました。私自身の実家が滋賀なので、帰省がてら写真を撮りに行ったりもしましたね。自分が知っている土地を舞台にすることで、オリジナル作品をスピーディーに作る上でのメリットは大きかったです。舞台や小道具は、どこかの団体から「ここを出してくれ」と頼まれたわけではなくて、私が勝手に「あそこを出したい」と選んでいます(笑)。

――アフレコ現場でも、監督の「滋賀への愛」が炸裂していたそうですが。
小出 愛というか、キャストの皆さんに滋賀弁の細かいニュアンスを伝えるためにたくさん指示を出してしまったんです(笑)。同じ関西弁でも大阪、京都、滋賀で微妙に違いますから。

――ララと茉里の掛け合いも魅力的です。お芝居に関して、ふたりにはどのようなディレクションをしましたか?
小出 茉里は絶対に滋賀県出身の声優さんがいいと思っていたので、川石奈奈さんにお願いしました。ララはファンタジー世界の住人で、茉里は滋賀に実際にいそうな女の子というコントラストを出したかったんです。だから、ララ役の菱川花菜さんには少しアニメキャラクター寄りの芝居を、川石さんには生っぽい芝居をお願いしました。話が進んでいくにつれて、彼女たちの掛け合いから生まれる化学反応がすごくて、私自身も楽しんで見ていました。

――脚本を見て驚いたのですが、オンエアでは脚本にあった説明ゼリフがかなり削ぎ落とされていますよね。これはあえて情報を引き算したのでしょうか?
小出 現場ではよく「それだとアニメになっちゃうね」と言っていました。アニメを否定しているわけではまったくないですが、今回は視聴者の方が「自分の人生に関係がある」と思えるような、タフで生っぽい作品にしたかった。そのため、「いかにもアニメで言いそうなセリフ」は極力遠ざけたかったんです。ただ、それは同時にわかりやすさを犠牲にする道でもあるので、24分(1話分)の中でどう情報を伝えるかは本当に悩みましたし、難しかったですね。しかも、ライターの川原(杏奈)さんたちの粘り強い努力によってきちんと整理された脚本を触る場面も多かったので、その意味でも心苦しさと悩みが、常につきまといました。

タイパ時代に逆行する、時間と実存感を描く演出

――ここからは放送された各話について聞かせてください。第1話でこだわった演出ポイントは?
小出 まず最初に「カメラアングルに凝るのはやめよう」と決めました。最近のアニメは手前と奥の位置関係を巧妙に使った複雑な構図が多いですが、その方向で凝ると、この作品の魅力を損なうと感じたんですね。カメラはなるべく水平にして、キャラクターが真っすぐで見やすい画面作りを意識しました。あと、第1話には「生まれる」「死ぬ」「食べる」といった要素をアンカーとして散りばめていて、ララの2度目の人生を描く物語だということが無意識的に伝わるように仕込んでいます。

――本作は水の描写もとても印象的ですが、こだわりなどはありますか?
小出 水の表現については、私自身もアニメーター出身なので、できるだけこだわりたいとは思いつつも、とにかく枚数が多くて結果的には苦労した記憶しか残っていません(笑)。

――続く第2話はいかがでしょうか?
小出 第2話では、この作品の「振り幅」を示そうと思いました。具体的に言うと、スピーディーな展開だった第1話とは逆に、ゆっくりとした「時間」だったり、滋賀の「実存感」を感じてもらいたかったんです。

――たしかにリアルな滋賀を感じられました。
小出 アニメで地方を描くときって、完璧な風景ばかりを映しがちですけど、私の美意識では、たとえば、数十年前の古びた建物がそのまま残っている感じや、アスファルトのひび割れからも美しさを感じるんですね。美術さんにも「アスファルトのひびからリズムを感じるように描いてほしい」と変なお願いをしました(笑)。

――個人的に、雨宿りしながらココアを飲むシーンが非常に印象的でした。
小出 実はあのシーンは、ロケハン中に急に雨が降ってきて、休憩所に入って自販機でココアを買って飲んだという、私自身の実体験そのままなんです。ホッとした瞬間に「あ、これをシーンにしよう」と。とくに時間をゆったりと贅沢に使ったシーンですが、タイパ(タイムパフォーマンス)が重視される今の時代だからこそ、視聴者の方がゆっくりと見てくれることを祈っています。

弱点があるからこそ愛せる、ララという存在

――第3話では、ララと茉里の距離感が近づきつつも、まだ完全には関係が深まらないもどかしさもありました。
小出 普通のアニメなら第3話でしっかり絆を結んで「さあ、第4話からいくぞ!」となるかもしれませんが、彼女たちはその一歩手前で踏みとどまっていて。そのジリジリとした関係性が第3話の魅力だと思っています。あと、ボクシングのシーンは澤田英彦さんというアニメーターにほぼひとりで描いていただきました。アングルや止め絵で誤魔化さず、かなりの枚数を使って生々しく描いてもらったので、ここは見ごたえのあるシーンになっていると思います。第3話にはいろいろな要素がありますが、演出の辻(彩夏)さんの努力によって、きわめて豊かな表現の多い話数になっていると思います。

――最後に、第4話以降の展開について教えてください。
小出 この作品は、基本的にララを追いかけ続けるアニメだと思っています。ララは極めて未完成な人間で、弱点もたくさんあります。でも、弱点がなくて愛せるところしかないキャラクターにはしたくなかったんです。視聴者の皆さんには、ララがこれからどう生きていくのかを優しく見守っていただけたらうれしいです。何が起きるかわからないのがこの作品の魅力でもあると思っていますので、ぜひ最後まで楽しんでください。endmark

小出卓史
こいでたくし 滋賀県出身。アニメーター、アニメーション演出家。キネマシトラス所属。アニメーターとしてキャリアをスタートさせ、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』で副監督を務めるなど、緻密な画面構成とキャラクターの感情を象徴的に描く演出で頭角を現す。本作『さよならララ』がTVアニメ初監督作品となる。
作品情報

オリジナルTVアニメーション「さよならララ」

TOKYO MX 7月5日より毎週日曜24:30~
BS朝日 7月5日より毎週日曜25:30~
読売テレビ 7月6日毎週月曜25:59~他
放送・配信中 

  • ©キネマシトラス/「さよならララ」製作委員会