TOPICS 2026.07.21 │ 12:00

小出卓史監督に聞く
「さよならララ」の深い話①

200年の時を経てよみがえった人魚姫・ララと、女子高生ボクサー・大津茉里(おおつまり)。対照的なふたりの少女の出会いと日常を、キネマシトラスによる躍動感あふれる映像美で描き出したオリジナルTVアニメーション『さよならララ』。第3話の放送を終えたタイミングで、本作が初監督作品となる小出卓史さんをお招きし、企画の成り立ちから作品に込めたテーマについて聞いた。

取材・文/岡本大介

グローバルな「人魚姫」とローカルな「滋賀」をぶつける

――本作の企画はどのように立ち上がったのでしょうか?
小出 私はアニメーターとしてキネマシトラスに入社したときから「いつか監督をやりたい」と言い続けていたんです。この作品の前に携わっていた作品で副監督をやらせていただいて、その制作が終わりかけた2021年の夏頃、当時の社長であった小笠原(宗紀)さんに呼ばれて、「そろそろ監督やるか?」というお話をいただきました。その時点では原作モノかオリジナルかなど何も決まっていない状態でしたが、言うなら今しかないと思って、その場の勢いで「オリジナルをやりたいです!」と即答しました。

――そこから、どのようにして「人魚姫×滋賀県×ボクシング」というかたちにまとまっていったのですか?
小出 最初から一本道でこのかたちに向かっていったわけではなくて、そこから1年半くらい、本当にさまざまな企画を出し合いました。2〜3週間に1回のペースで会議をして、代わる代わるいろいろな企画を持ちよっては揉んでいくという時期がありました。その果てに生まれたのが、『さよならララ』の企画です。

――さまざまなアイデアが出たとのことですが、結果として、小出監督の根底にある「好きなテイスト」が反映されたのでしょうか?
小出 そうですね。自分のテイストを自分で評価するのは難しいですが、個人的に高畑勲監督のテレビシリーズや佐藤順一監督のお仕事などがすごく好きなんです。自分が影響を受けてきた作家や作品のエッセンスのようなものは、『さよならララ』に現れているかもしれません。

――「人魚姫」をモチーフに選んだ理由は何だったのでしょうか?
小出 人魚姫って、すごくグローバルな存在ですよね。世界中のどこに行っても、物語の詳細までは覚えていなくても「人魚姫と王子様のお話でしょ」とおぼろげなイメージは共有されている。日本にも人魚の伝承がありますし、そういう標準化されたグローバルなイメージと、滋賀というすごくローカルなものをぶつけてみたら面白いんじゃないか、という気持ちがありました。広いものと狭いものをくっつけて作品を作ってみたかったんです。

――監督の出身地である「滋賀」を舞台にした狙いについても聞かせてください。
小出 出身地なので、滋賀のことはもちろん好きなんですけど、だからと言って地方創生というようなものを描きたかったわけではなく、舞台はどこかローカルな場所でやりたい、「自分の人生に関係ある作品」を作りたいという思いが先にあったんです。そうなると、私が一番よく知っている地方は滋賀なので、自然と選んだという感覚ですね。

ナイーブな成長物語ではなく、「タフに生きる」姿を描く

――本作は、浮世離れした人魚姫のララと、現実を生きる女子高生ボクサーの茉里という、ふたりの対照的なキャラクターが軸になっています。とくに相方となる茉里は個性的ですが、どのように生まれたのでしょうか?
小出 茉里はビジュアル面を含めて、さまざまなアイデアを集約して生まれたキャラクターなんですけど、一番の根底にあったのは「タフな作品にしたい」という思いの具現化です。

――「タフな作品」ですか。
小出 僕がスタッフにずっと言っていたことなんですが、本作は人魚姫の物語なので、ララが悩んだり、ナイーブな内面の葛藤を描く展開になります。でも、そういうナイーブな面だけを描いて単純に「葛藤を乗り越えて成長しました」という作品にはしたくなかったんです。実際の未来が明るく見えているならそういう成長物語もいいですが、そうではないとしたら「現実がつらくてもタフに生きようぜ」という作品にしたかった。だから、ララの横にナイーブすぎるキャラクターを置きたくなかったんです。

――なるほど。「ふたりの関係性が化学変化を起こして互いに成長する」という美しいガール・ミーツ・ガールではなく、もっと泥臭くて現実的な関係性ということですね。
小出 僕はわりとひねくれた人間なので、安易に「成長した」と言いたくないだけかもしれませんけど(笑)。でも、そういうジリジリとした現実感を描くためには、茉里というキャラクターが必要だったんです。スポーツに打ち込んでいて、ネガティブなことを考えている暇もないくらいにタフなキャラクターにしたくて。試しにキャラクターデザインの谷(紫織)さんにボクシンググローブを肩にかけた茉里を描いてもらったら、これがすごくいい感じだったんです。そういういろいろな必然性が重なって、今の茉里になっていますね。

線を太く、色を濃く。アニメの力を取り戻すルック

――谷さんによるキャラクターデザインと、作品全体のビジュアルルックも非常に個性的で目を引きます。少し懐かしさも感じるような、太い線と濃い色彩が印象的ですね。
小出 谷さんは僕の1年後輩で、キネマシトラスでずっと一緒に仕事をしてきたので、彼女のノリやセンスはよく知っていました。最近のアニメは、現場のワークフローや撮影処理の事情もあって、線が細くて色が薄いルックが主流になっていますよね。それは今のアニメの作り方に合った正解のひとつなんですが、僕は「絵とストーリーには相関関係がある」と思っているんです。

――「このストーリーだからこそ、この絵が映える」ということですね。
小出 今回のようにジリジリとした人間ドラマを12話かけてやるなら、線を太くして色を濃くしたほうが、視聴者の方にしっかりと見てもらえるアニメになるんじゃないかと思いました。「とにかく線を太く、色を濃くして、昔のアニメみたいに線の力を取り戻す作品にしよう」と谷さんに話しました。

――その結果が、あの印象的なビジュアルなんですね。
小出 ただ、谷さんは僕よりもさらにピーキーな方なので(笑)、僕が思っていた以上に色を出すし、線も出す仕上がりになりました。でも、結果的にすごくいい感じで、今期のアニメのポスターが50枚並んだ中でも「ちゃんと注目してもらえるな」という確信が持てました。

――童話の「人魚姫」をイメージすると繊細な絵が頭に浮かぶので、そこは意外でした。
小出 だからこそあえて違う方向に走ってみたかったという天邪鬼な気持ちも否めませんね(笑)。
――ありがとうございました。後編では、舞台となる滋賀の風景へのこだわりや、各話の演出について聞かせてください。endmark

小出卓史
こいでたくし 滋賀県出身。アニメーター、アニメーション演出家。キネマシトラス所属。アニメーターとしてキャリアをスタートさせ、『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』で副監督を務めるなど、緻密な画面構成とキャラクターの感情を象徴的に描く演出で頭角を現す。本作『さよならララ』がTVアニメ初監督作品となる。
第2回(7月22日掲載予定)に続く
作品情報

オリジナルTVアニメーション「さよならララ」

TOKYO MX 7月5日より毎週日曜24:30~
BS朝日 7月5日より毎週日曜25:30~
読売テレビ 7月6日毎週月曜25:59~他
放送・配信中  

  • ©キネマシトラス/「さよならララ」製作委員会