TOPICS 2022.02.08 │ 12:00

「中国アニメ」のイメージを塗り替える!
『時光代理人 -LINK CLICK-』黒﨑静佳プロデューサーインタビュー①

『羅小黒戦記(ロシャオヘイセンキ)』や『天官賜福』など、中国発のアニメ作品が近年日本でも好評を得るなか、中国の動画配信プラットフォームbilibiliが送り出したオリジナルアニメ『時光代理人 -LINK CLICK-』。中国国内のみならず世界的にも高い評価を得た本作は、日本のアニメユーザーにも大きな衝撃をもたらした。その魅力の源はどこにあるのか? 日本版ローカライズを手がける黒﨑静佳プロデューサーに、全2回のインタビューにて語ってもらった。

取材・文/犬地リコ

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

世界で評価されているエポックメイキングな中国アニメ

――『時光代理人 -LINK CLICK-(以下、時光代理人)』は中国で今もっとも勢いがある作品のひとつとのことですが、中国本国や日本以外の国々ではどれぐらいの人気があるのでしょうか?
黒﨑 bilibili動画では2021年4月の配信開始から4カ月で1.6億回再生を超えて、その年いちばんのヒット作といわれています。世界最大級のアニメ・マンガコミュニティ「MyAnimeList」でも全世界のアニメ作品のトップランキングで21位にランクインするなど、中国アニメとしては過去一番の高評価を得ているタイトルと言えるのではないかと思います。

――黒﨑さんが日本版プロデューサーとして『時光代理人』を日本で放送したいと思ったきっかけはどんな部分だったのでしょうか?
黒﨑 bilibiliが毎年秋頃に行っている翌年のアニメラインナップ発表会で流されたPVが最初の出会いだったのですが、PVの構成がすごく良くできていて、純粋に物語として面白そうだなと思ったのがきっかけです。

――日本の公式サイトで公開されているPVでしょうか?
黒﨑 日本で公開されている映像だと、30秒版の番宣CMの構成が近いですね。「ルールは3つ」というヒカル/陸光(ルー・グアン)(以下、ヒカル)のセリフのあとに畳み掛けるようにいろいろなキャラクターが出てくるんですけど、それが全部脇役の人たちなんです。「どうしてだろう?」と思って見返すと、トキ/程小時(チョン・チャオシー)(以下、トキ)が毎回別の人間とリンクするためにこういった構成になっているのだとわかる。そういった仕掛けも上手でしたし、画作りの面でもこれまでの中国アニメに対する先入観を払拭するような素晴らしい出来栄えでエポックメイキングな作品だと感じました。

予想を裏切った第1話の衝撃

――2021年の4月には中国でOP映像が先行公開され、日本のアニメユーザーがその映像をSNSで紹介したところ、大きな話題となりました。そういった反響を見ていかがでしたか?
黒﨑 その時点では、私も本編をまだ見ていなかったんです。これまで携わらせていただいた中国発のアニメ作品は、小説などの原作がある作品だったのですが、『時光代理人』はオリジナルアニメということでお話の内容がわからなくて。まずは様子を見ようかなという気持ちもあったのですが、日本でもOPが話題になっているのを知ったときはいい傾向だと思いましたし、その後、中国版の第1話を見たら本当に面白かったんです。

――初めて本編を見た際の感想はいかがでしたか?
黒﨑 bilibiliでは第1話と第2話が同時に配信されたのですが、第1話のラストは日本のアニメのストーリーテリングだったら「よかったねえ、ああ楽しかった」で終わりそうなところにエマの死亡ニュースという衝撃的な情報を投げ込まれて「え、死ぬの!?」とびっくりしましたし、予想を裏切る展開が新鮮で、すごく面白かったですね。

――日本版では主題歌が原曲のカバー曲になっていますが、どういった経緯があったのでしょうか?
黒﨑 中国と日本ではアニメの主題歌として求められる曲や絵の傾向が異なるので、ローカライズの一環として主題歌やOP&EDの映像を変更させていただくことが多いんです。本作のOP&EDは、原曲の時点で映像も楽曲もすごくスタイリッシュで完成されていたので、中国版と同じままで進めようかという話もあったのですが、日本で活動するアーティストの日本版カバーが実現しました。カバーにあたり、アーティストや日本の音楽トレンドに合わせてアレンジを加えてありますので、日本版と中国版で聞き比べていただいても楽しいと思います。

社会問題を扱うことで生まれた普遍的なシナリオ

――これまで日本でローカライズされた中国発のアニメは古代ファンタジーが多く、現代劇はあまりなかった印象です。会社でのパワハラなど、普遍的で現代社会的な題材を描いているのも中国国外での受け入れられやすさにつながっているのでしょうか?
黒﨑 そういった一面もあると思います。今まで中国のアニメを見てこなかった方々にも普通に「面白い作品だな」という気持ちで受け取っていただけているのかなと。

――各話のつなぎやストーリーの構成がとても巧みですよね。
黒﨑 本作に限らないのですが、中国の作品を見ていると、中国と日本ではアニメのシナリオの作り方が全然違うのではないかと感じます。各話ごとに起承転結をつけて見せ場を持ってくるとか、アバンではその話数でフォーカスするキャラクターを映すとか、そういった日本のアニメの「お作法」みたいなものが、中国のアニメではいい意味でも悪い意味でも踏襲されていないんですよね。

――中国独自の文法で構成されている、ということでしょうか?
黒﨑 そうですね。クリエイティビティや作り方の違いや、突き詰めれば、国民性や文化の違いによるものなのかもしれません。「各話ごとにどういうお話にするのか」ではなく、作品全体で描くべきひとつの物語があって、それを24分で区切ったら今回はここまで、という組み立て方をしているような印象です。『時光代理人』はそれが新鮮で、見ていて面白く感じるポイントのひとつになっているんじゃないかなと。

作品情報

『時光代理人 -LINK CLICK-』
好評放送・配信中!

  • ©bilibili/BeDream