TOPICS 2021.03.16 │ 12:02

総再生回数1億超え。SNSで話題の中国アニメ『万聖街』

昨年から日本でもSNSで話題となっている中国アニメ『万聖街』(ばんせいがい)。日本での展開も期待されるなか、今回、万聖街のアニメ立ち上げまでの経緯と作品の魅力について、制作スタッフである紫狗(脚本)と木吉(エグゼクティブプロデューサー)、MTJJ(監督)の3名にメールインタビューを行った。後半は貴重なアニメの設定資料も公開する。

文/編集部 翻訳/雍容

総再生回数1億回突破の超人気アニメ『万聖街』

『万聖街』は2020年4月より 腾讯视频(テンセントビデオ)でシーズン1が独占配信され、中国だけではなく日本でもSNS上で話題となっている。公式の日本語訳がないなか、日本のファンたちが翻訳アプリなどを片手に奮闘しながら視聴する様子が見受けられ、シーズン2の最終話では作品を惜しむ声がぞくぞくと上がった。現在、シーズン3の製作も告知もされており、今後の展開に期待がふくらむ。2021年2月時点で全24話を制限なく視聴することができるので、興味がある人はまず第1話を見ることをおすすめしたい。

あらすじ
人間界に憧れて、万聖通りのアパート1031号室に引っ越してきた悪魔の尼尔(以下ニール)は、ライブ配信者の吸血鬼・艾勒(以下アイラ)と1031号室の大家で天使の林恩(以下リン)、人狼の大毛(以下ダーマオ)、ミイラの阿布(以下アブー)と一緒に暮らすことに。しかし、ニールの身体の中には魔王が眠っているらしく、彼の身に危険が迫っている……!? 姿も性格もまったく異なる者たちの楽しくてあたたかな日常コメディ。総閲覧数10億オーバーの超人気Webコミックが遂にアニメ化!

仲間と「違う」からといって驚かず、色眼鏡で見ることがない「包容力」がテーマ

――『万聖街』のアニメ化企画が立ち上がるまでの流れを教えてください。
紫狗 『万聖街』は、2016年に分子互動(Fen-z Interactive)の人気作『非人哉』の姉妹編(※1)として連載が始まったマンガです。もともと海外ドラマ『フレンズ』のような性格の異なる仲間同士の同居生活を描く物語にしようと思っていたので、クリエイティブチームとの話し合いを経て、クリエイターたちが大好きな欧米ファンタジーの要素を加えた、中国や外国の神々やモンスターが共存する楽しい日常コメディを作ることにしました。

2018年の『非人哉』のアニメが好評だったので、『万聖街』のアニメの制作準備を開始しました。制作は、版元の分子互動の非人哉工作室(※2)と『羅小黒戦記』の制作会社でもある寒木春華スタジオとの共同制作です。両社とも優れたクリエイティブチームを持っていて、共通認識や創作理念がうまくかみ合っていたので、今回のコラボレーションが叶いました。普段、社内でもマンガをアニメ化するにはコミュニケーションや調整の面で苦労するので、まさかこんなに順調に新しいアニメーション作品が生まれるとは思っていませんでした。

スタジオの方々と一緒に仕事をする前から、いろいろなことに挑戦できるよう心の準備をしていましたが、 どちらのチームも非常にプロフェッショナルな方たちばかりなので、制作中に大きな問題が発生することはありませんでした。寒木春華スタジオも非人哉工作室も、今回のコラボレーションで貴重な経験を積むことができたと思います。

両社がここまで深い協力関係を築けたのは、(アニメ『万聖街』の制作から)これまで2年近く一緒に制作してお互いの考え方について理解が深まったからだと思います。両チームのコミュニケーションはかけがえのないものですし、長い目で見れば今回の仕事以上に意味がありました。

※1 『非人哉』の姉妹編は『万聖街』の他に『有兽焉』がある。
※2 「非人哉工作室」は分子互動内の部署。一汪空气や零子還有鈔、『有兽焉』の靴下猫腰子が所属している。

――『万聖街』の魅力を教えてください。
木吉 『万聖街』の魅力は、原作もアニメも、登場人物の性格や人間関係が細かく描写されていて、同じ屋根の下で暮らす同居人たちの友情や家族の絆、恋心の芽生えなどが丁寧に描かれているところだと思います。同時に、柔らかくて、ユーモアもあって、感動を与えられる作品に仕上がっていますし、登場人物たちの関係性が次々と変化したり、予想外の展開になるのではないかとわくわくするのも魅力のひとつです。

寒木春華スタジオチームの仕事は非の打ちどころがなく、生き生きとした可愛らしいアートデザイン、細心の注意を払った演出と作画、原作を再現するための工夫など、制作へのこだわりが感じられます。それぞれのエピソードは5分程度ですが、登場人物は毎日着替えますし、季節はゆっくりと移り変わって、すれ違う風景、食べものや飲みものはすべて現実にあるもののように描かれています。個性的なキャラクターたちはだんだんと自分たちの友達みたいに感じられるし、いつの間にか悪魔、吸血鬼、天使、人狼が自分の隣に住んでいるような気がしてきます。

季節ごとに異なるキャラクターの服装。現実と同じように着回しをしたり、コートやアクセサリーなど細かく設定されている。

――アニメの見どころはどこですか?
木吉 現代のシェアハウスで神魔妖怪が一緒に暮らす楽しい日常生活ですね。 なかでも軽快なストーリーと個性的で繊細な感情を持ったキャラクター。そして彼らの関係性はもちろんのこと、原作とは異なる新しいキュートなデザインに、滑らかで緻密な動きのアニメーションや躍動感のあるコメディの演出と感動的なシーン。そしてアニメのオリジナルの展開として「魔王」という設定を追加したことです。

――なぜ5分構成のアニメにしたのでしょうか?
木吉 姉妹編である『非人哉』が4コママンガのアニメ化で成功したので、同じ4コママンガの『万聖街』も短い尺(映像の長さ)のアニメとして企画しました。5分という尺は視聴時間や視聴方法の制限が少なく、お客さんが自由に楽しめるボリュームですし、制作スタッフにとってもなじみがあって作りやすかったためです。

――キャラクターデザインをする際に気をつけたことを教えてください。
紫狗 『万聖街』のメインキャラクターは、原作のイメージを大切にしています。ほとんどの登場人物は、原作の作画担当である零子さんがデザインしたものです。当初から、出身国の異なる設定にして、それぞれの地域性を持たせたいと考えました。 たとえば、イギリス出身の吸血鬼アイラは、中国に来てからも紅茶を飲む習慣が変わらないとか。

皆さんが抱く一般的な印象を覆すキャラクターにしたかったので、1031号室にいる人たちは、もともとの種族のイメージとはちょっと違う感じにしています。 たとえば、悪魔は昔から邪悪でずる賢い印象がありますが、主人公のニールは真っ白な髪色で優しい性格をしていますし、吸血鬼は昔から高貴で恐ろしいという印象がありますが、アイラは外見を気にせず、いたずら好きで、高貴さや恐怖とは無縁の存在です。 1031号室の住人はあらゆる種族の「ぼっち」キャラが集まっていますが、 仲間と「違う」からといって驚くこともないし、色眼鏡で見ることもない。そういう包容力こそ私たちが最も伝えたかったテーマです。

ちなみに『万聖街』の登場人物の多くが、スタッフの身近な外国人の友達の名前を使っています。親近感は湧くのですが、性格やキャラクターはまったく違うので、結果、名前を借りただけになってしまいました(笑)。

――各キャラクターの魅力を教えてください。
紫狗 ニールの魅力は無邪気さと少年ぽさ、アイラの魅力はヤッピーで怠惰な性格です。ダーマオの魅力は筋肉(笑)。リン先生は几帳面でどこか禁欲的だし、リリィは太陽のようなエネルギッシュな子です。アブーはミステリアスで、尼克(以下ニック)は全身から魅力がにじみ出ていて、見た人はみんな彼のことを大好きになると思います。

左からリンの妹で天使のリリィ、悪魔のニール、吸血鬼のアイラ、天使のリン、ミイラのアブー、人狼のダーマオ
左はニールの異父兄・ニックの幼少期。右は大人になったニック

――2話の地獄兎たちを追いかけるシーンや3話の帰宅したリンの翼とドアの開閉のアクションなど、キャラクターの日常の繊細な動きがとても印象的ですが、作画の際にはどのようなところに力を入れましたか?
MTJJ 物語全体を通してスムーズに動かせるようになるまで努力しました。

――5分アニメの中でさらにパートを区切って物語のテンポをよくしていますが、制作時に意識されているのでしょうか。
MTJJ はい、そうですね。
木吉 この点に関してはチームの息がぴったりだったからだと思います。ストーリーを面白く上手に伝えるためのコンセンサスがよく取れていました。脚本や絵コンテを作るときは、断片化しすぎたり、テンポが遅くなるのを避けるために、細心の注意を払っています。そのせいで監督からは「脚本の情報量が多すぎる」と言われてしまいましたが(笑)。モノローグを入れた映像をたくさん使用し、異なる情報を同時に見せることで物語をスピーディーかつ階層的に進めたり、物語の合間に入る「アイキャッチ」も効率的にストーリーを伝える役割を果たしています。演出チームは、毎回脚本の雰囲気やリズムを把握したうえで、長い部分を削除したり、セリフや演出を最適化して、ドラマチックに仕上げてくれたと思います。

――最後に、日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
紫狗 皆さんがSNS上で投稿してくださった『万聖街』に関するコメントやレビューはすべて目を通しています。ファンの皆さんがこんなにも愛情をもって注目してくださっていることに、とても感激しています! 『万聖街』を見てくださった方に恩返しするためにも、より一層頑張ろうと思いました。今後、制作過程のエピソードや作品の情報を共有したりする機会を作りたいですね。 これからも応援をよろしくお願いいたします。 皆さん、ありがとうございました!endmark

紫狗
中国芸術研究院大学院を卒業後、マンガの編集者として活躍。分子互動所属。『非人哉』『1031万圣街』のほか、多数のマンガ作品の制作に参加している。アニメ『万聖街』では主に脚本を担当。
MTJJ
アニメ監督、マンガ家。寒木春華スタジオ所属。代表作は『羅小黒戦記』。『BoBo&ToTo——圣诞狂想曲』監督、WEBアニメ『羅小黒戦記』及び映画『羅小黒戦記』の原作・監督。劇場アニメ版『大魚海棠 Big Fish & Chinese Flowering Crabapple』では原画制作で参加。マンガは『阿凡达他舅(アバターのおじさん)』『灵魂之旅(魂の旅)』『神圣传说(神聖伝説)』『MTJJ短編漫画』と『MTJJ多格杂集』などがある。
木吉
北京師范大学を卒業し、在学中に『識途』など多くの有名な短編映画を制作。アニメーション制作の経験を経て、分子互動の人気アニメ『非人哉』の総合プロデューサー、アニメ『万聖街』ではエグゼクティブプロデューサーと脚本を兼任。