原作者やファンの気持ちに寄り添うことを意識した
――まずは篠原監督がアニメ『着せ恋』の監督をすることになった経緯を教えてください。
篠原 アニメーションプロデューサーの梅原(翔太)さんから声をかけてもらいました。以前、『キズナイーバー』という作品でご一緒した石田一将(キャラクターデザイン・総作画監督)さんが推薦してくださったんです。スタッフィングは基本的に梅原さんにおまかせだったのですが、副監督の平峯(義大)さんは、気心が知れていて腕のいい演出が必要だと思い、自分から声をかけさせていただきました。
――原作コミックスを読んだときの印象は?
篠原 読み始めの頃は、率直にいうと「エッチだな」と思いました(笑)。ですが、読み進めていくうちに、海夢と新菜がコスプレに真摯に取り組んでいるところが見えてきて、ふたりの成長など、ドラマ的な部分に魅力を感じるようになりました。原作第2巻(アニメの第4話「これ、彼女のとか?」)にあった深夜に泣きながら衣装作りをしている新菜の姿が、当時、仕事があまりにも大変で追い詰められていた自分と重なって、彼に感情移入をしたのをおぼえています。
――原作コミックスを読んで、とくにおもしろいと感じた部分は?
篠原 『着せ恋』の序盤は新菜視点で話が進んでいきますけど、海夢が新菜への恋心を自覚してからは、海夢の心情も物語の中で描かれるようになります。男性が主人公のラブコメかと思って読んでいたら、ヒロインの感情が明らかになる「裏返り」の構造がおもしろいと思いました。海夢の描写も新鮮というか、途中からここまで感情が明け透けになるヒロインは珍しいと思いますし、見ていてかわいらしく思います。海夢と新菜はどちらも恋愛に不器用なので見ていてもどかしいですが、ふたりとも共感できる部分がたくさんありますので、そういうところも人気の理由なのだと思います。
――本作をアニメ化する際に意識していたことは?
篠原 いちばんは原作者の福田晋一先生や『着せ恋』を大好きなファンの方々をがっかりさせないことです。監督をやることが決まったときに作品の評判を調べるため、SNSや通販サイトのレビューなどを覗(のぞ)いたのですが、とても多くの評判が寄せられていました。『着せ恋』が話題になっていたのは以前から知っていたのですが、自分の想像よりもはるかに人気のある作品なのだと実感しました。プレッシャーを感じると同時に、福田先生が命を削って作り、こんなにも多くの方を喜ばせている作品を自分が関わることで汚したくはないと思いました。
――アニメ化にあたって、原作者の福田晋一先生から何か要望はありましたか?
篠原 ほとんどありませんでした。福田先生がかなりの部分をこちらの裁量にまかせてくださったので、大変ありがたかったです。強いていえば、海夢の言葉遣いや表情でしょうか。海夢の表情が少し湿っぽくなったり、映像の間をつなぐために原作にないちょっとしたセリフを入れたりしたときなどに、「海夢の言葉遣いに違和感があります」と指摘を受けたことはありました。その通りに修正してみると、たしかに海夢ってこうだなーと思えました。それ以降は福田先生の考える海夢像の解像度の高さに、自分たちなりに近づけようと作っていきました。
「真剣さ」を出すためリアリティを追求する
――本作の題材となっているコスプレ文化については、どんな印象を持っていましたか?
篠原 たまにSNSで写真を見かけることはありましたけど、知識はほぼゼロでした。制作に入る前に、一度スタッフのみんなで衣装作りに挑戦してみようかという話もあったんですけど、結局時間がなくて流れてしまったんですよね。その後、アニメの放送中にやっていた新菜役の石毛(翔弥)さんがコスプレ衣装作りに挑戦する「その主人公声優は服を縫う」という企画を見て、実際に作るのって想像以上に大変なんだと学びました。
――販売店やコスプレイベントの取材もしていたようですが、取材の中で重視していたことは?
篠原 取材にうかがった各店舗やイベントさんには作画のクオリティを上げるための作画資料集めにご協力いただきました。実際の場所をモデルにさせていただくからには、海夢と新菜の動きに破綻が出ないようにしたかったので、導線まわりの整合性もできるだけ突き詰めました。
――第3話(「じゃ、付き合っちゃう?」)の買い物シーンや、第5話(「この中で一番いい乳袋だからじゃん?」)の海夢がイベントに参加しているシーンは、背景にもリアリティがありましたね。
篠原 美術スタッフの皆さんには、取材のときに撮らせていただいた店舗やイベント場所の写真をお渡しし、それをもとに背景美術を起こしていただきました。基本的には詳細な資料があると、上がってくる絵のクオリティはアップしますが、要求も高くなるので美術さんは大変だったと思います。リアリティを出すために背景美術のクオリティに妥協をしたくなかったので、スタッフさんたちにがんばってもらいました。
――実際の雛人形店「鈴木人形」も「協力」としてクレジットされていますが、雛人形店にはどんな取材をしたのですか?
篠原 新菜まわりの描写にリアリティを出すため、実際に店舗まで足を運び、雛人形作りの過程や製造工程などを学ばせていただきました。新菜の実家である「五条人形」の描写も「鈴木人形」の店舗を参考にさせていただいています。手元作業の動画も撮らせていただき、そのときの動画は新菜の作画に役立ちました。
――リアリティへのこだわりが強かったのですね。
篠原 『着せ恋』はコメディ作品ですけど、海夢と新菜のコスプレにかける情熱は茶化さずまっすぐに描く必要がありました。ふたりが真剣に臨(のぞ)まなければならない理由を伝えるためにも、コスプレの衣装が簡単にできてしまうようには見せたくなかったので、作中でも時間をかけて、かつできるだけリアリティを感じられるように作りました。第4話のコスプレ作りのシーンは絵コンテ・演出の小室(裕一郎)さんがかなり調べながら作ってくださったので、大変ありがたかったです。
『その着せ替え人形は恋をする』
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収録話数 第5話~第6話
<完全生産限定版特典>
◆キャラクターデザイン・総作画監督:石田一将 描き下ろしジャケットイラスト
◆オリジナル・サウンドトラックCD VOL.2
◆卓上着せ替え♡カレンダー イラストカードセット(8月・9月)
◆イベントステッカー
◆特製リーフレット
- ©福田晋一/SQUARE ENIX·「着せ恋」製作委員会