Febri TALK 2023.08.28 │ 12:10

赤井俊文 アニメーター/演出家

①絵のカッコよさに惹かれた
『マクロス7』

劇場アニメ『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』の監督など、多彩な作品にアニメーター、演出家として参加し、幅広い活動を続ける赤井俊文のアニメ遍歴を聞くインタビュー連載。第1回は、ビジュアルのカッコよさに心惹かれたと語る『マクロス』シリーズの一作について、話を聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

最初に見た『マクロス』だから、いまだに「いちばんいい」

――アニメを意識して見るようになったのは、いつ頃からでしたか?
赤井 小学生のときに見ていた『らんま1/2』になるのかな。それから少しあとに『機動戦士Vガンダム』を見たんですけど、あんまりよくわからなかった(笑)。今思うと、すごい内容のアニメだったなと思うんですけど……。だから、他のまわりの子たちとそんなに変わらなかったと思います。ただ、そういう中で純粋に、絵を見て「カッコいいな」と思ったのが『マクロス7』で。当時、すごくインパクトがありました。

――河森正治原作、アミノテツロー監督のTVシリーズですね。1994年放送なので、赤井さんは中学1年生ですか?
赤井 中1か小学校6年だったと思います。絵がすごく華やかじゃないですか。オープニングの曲もよくて、子供心にカッコいいな、と。クラスの女の子たちは、みんな『幽☆遊☆白書』を見ていたんですけど。

――あはは。
赤井 『マクロス7』は日中に放送していたんですよね。夜は、父親が野球とかを見ていたから、アニメを見ることがなかなかできなくて。だから朝の時間帯のアニメをよく見ていました。その中で『マクロス7』って他の作品とは違うインパクトがあったんです。

――好きだったキャラクターやエピソードはありますか?
赤井 好きだったのはミレーヌ。個々のエピソードはおぼえていないんですけど、主人公(バサラ)があまり戦わないな、みたいなイメージはありましたね(笑)。しかも最後は、敵も歌を歌うじゃないですか。結局、歌のエネルギーに気づいて、戦意が歌によって別の方向に向けられる、みたいな流れになる。そこはすごく印象に残っていますね。

――いかにもロボットアニメっぽい感じですけど、ちょっと外れていて。
赤井 そうですよね。SFっぽいメカに乗っていて、もちろん、たまにドンパチはあるんですけど、その一方でバサラがうだうだしている時期もけっこう長くて(笑)。ミレーヌをめぐって三角関係みたいな感じになるんだけど、バサラは動かない、みたいな。当時、バサラはもうちょっとちゃんと動けよ、と思いましたね。

――あはは。
赤井 やっぱり絵のカッコよさに惹かれたのが、いちばん大きかった気がしますね。このあと、専門学校に入るときにいろいろ調べるタイミングで他の『マクロス』シリーズも見ることになるんですけど、そのときに初めて「ミレーヌって敵同士が結婚してできた子供だったんだ!」と知って衝撃を受けたり。

――あはは。シリーズをさかのぼって、いろいろ知っていくという。
赤井 そうなんです。でも、やっぱり最初に見た『マクロス』だったから、いまだに『マクロス7』がいちばんいいな、と思います。桂(憲一郎)さんの絵もキレッキレで。『マクロス7』は『新世紀エヴァンゲリオン(以下、エヴァ)』よりも放送が前だったと思うと、時代的にも早い感じがしますね。

――たしかに、そういう印象はありますね。
赤井 『マクロス7』のあとで、みんなが『エヴァ』で盛り上がるようになって――僕は『エヴァ』は夜の再放送で見ていたんですけど、そのあとにいろいろな作品のOVAとかアニメを見るようになって。直接的に『マクロス7』がきっかけになったわけではないんですけど、「ああ、こういう業界もあるんだな」と、マンガとはまた違う業界を意識した頃ではありますね。

アニメ業界で最初に名前をおぼえたのが桂憲一郎さん

――『マクロス7』のビジュアルにインパクトを受けたという話でしたが、当時、模写したりはしましたか?
赤井 いや、絵を描くのは好きでしたけど、アニメの絵の模写を始めたのは専門学校に入ってからですね。たまに「どれくらい前から絵を描いているの?」って聞かれるので「専門学校に入ってからです」と答えるんですけど、「絶対に嘘だ」と(笑)。もちろん、素人的に『ドラゴンボール』とか『幽☆遊☆白書』の絵を描いたりはしていましたけど、本格的に絵を描くようになるのは専門学校に入ってからで。

――それはかなり遅いですよね。
赤井 なので「自分は大器晩成型だ」って、常に自分に言い聞かせて(笑)。俺はまだこれからだ。40歳、50歳になってから芽が出るんだ、と。そう自分に言い聞かせないと、やっていけない業界なんです(笑)。

――『マクロス7』から影響を受けたところはありますか?
赤井 このあと専門学校に入って、桂さんのことをより深く知るようになるんです。当時、桂さんはゲームのお仕事もされるようになっていたので、そういうのを友達から聞いたり、いろいろ勉強し始めるようになって。だから、アニメ業界で最初に名前をおぼえたのが桂さんだった、といっても過言じゃないですね。

――赤井さんにとって、ある意味、お手本になるような人だったんでしょうか?
赤井 そうですね。ただ、専門学校時代によく模写していたのは、梅津(泰臣)さんでしたね。むしろ桂さんの絵は憧れの対象というか。桂さんの絵って、絶妙なバランスで成り立っていると思うんです。口の位置もけっこう上のほうにあるし、他の人が描いてもああいう風にはならんだろう、みたいな。たとえば、『アイドル防衛隊ハミングバード』は柳沢まさひでさんがキャラクターデザインをしていますけど、桂さんが作画監督をやったエピソードは、完全に桂さんの絵になっていて(笑)。

――個性の強い絵ですよね。
赤井 他に『BLUE SEED2』でも桂さんが温泉回の作画監督をやっているんですけど、やっぱりめちゃくちゃうまくて。ずっと憧れの対象なので、真似をするなんて恐れ多いというか。「こういう風に描けたらいいな」というのはありましたね。endmark

KATARIBE Profile

赤井俊文

赤井俊文

アニメーター/演出家

あかいとしふみ 1982年生まれ。大阪府出身。専門学校を卒業後、スタジオたくらんけに入社。さまざまなスタジオを渡り歩きながら、アニメーターとして数多くの作品に参加する。主な参加作に『マギ』シリーズ(キャラクターデザイン、総作画監督)、『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』(監督)など。