Febri TALK 2023.09.01 │ 12:00

赤井俊文 アニメーター/演出家

③キャリアの転機になった
『THE IDOLM@STER』

アニメーター/演出家として活躍する赤井俊文の、アニメ遍歴をたどるインタビュー連載。第3回は、自身もアニメーターとして参加し、その後のキャリアの転機になったというヒット作『THE IDOLM@STER』をピックアップ。当時、現場を包んでいた熱気を振り返りつつ、たっぷり語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

まさに働き盛りの人たちが集まっていた現場だった

――3本目は錦織敦史監督の『THE IDOLM@STER(以下、アイマス)』。赤井さん自身、作画監督と原画で参加していますね。
赤井 『ソ・ラ・ノ・ヲ・ト』をやっていた頃だと思うんですけど、当時、A-1 Picturesには荻窪スタジオというスタジオがあって、そこに入って作業をしていたんです。そうしたら福島(祐一/『アイマス』では制作デスクや進行を担当)くんから「今度、錦織さんがこういう作品をやるらしい」という話を聞いて。以前、ガイナックスに席を置いていたとき、少しの間でしたけど、錦織さんとは仲良くしていただいていて、しかもそのとき『アイドル防衛隊ハミングバード』みたいなアイドルアニメができたらいいよね、みたいな話をしていたんです。なので「錦織さんが荻窪スタジオで『アイマス』をやる」と聞いて「じゃあ、自分もやろう」と。

――実際に制作が始まってみて、いかがでしたか?
赤井 『アイマス』ってやっぱり、すごい現場だったんです。のちにキャラクターデザインや監督をやることになる人が、たくさん参加していて。総作画監督だった飯塚(晴子)さんは当時から有名でしたけど、他にも松尾(祐輔)さんや近岡(直)さん、山口(智)くんとか川上(哲也)さん。演出にしてもシリーズ演出の高雄(統子)さんはもちろんのこと、のちに監督を務めることになる伊藤(祐毅)さんとか高橋(正典)さん益山(亮司)さんとか。こんなにすごい人たちが1カ所に集まることってあるんだって思いました。

――豪華ですよね。
赤井 ちょうど僕と同世代の――30歳手前くらいの人が現場にたくさん参加していて、まさに働き盛りの人たちが集まっていた現場なんですよね。『アイマス』は決してスケジュールはよくなかったので、もう1回同じことをやりたいかと言われたらアレなんですけど(笑)、でもそういう大変な中でも、みんなで作品を作り上げていく。そういう体験ができたことは自分の中ですごく大きかったと思います。

――当時、いくつか取材をさせていただいたんですけど、制作が進むにつれて、現場の熱が高まっていく感じがありました。
赤井 そうですよね。あと『アイマス』って、視聴者からの反響も大きかったじゃないですか。ちょうどSNSが盛り上がってきた頃だったのもあるし、ある意味、ライブ感というか。もちろん、それまでも掲示板でやり取りすることはあったと思うんですけど、今まさに放送している作品について、ファンからの声がダイレクトに伝わってくるという。あれくらい大きい反響があると、やっぱり作っているほうも乗ってきますし。そういう現場に参加できてよかったな、と思いますね。

アニメ業界で生きていくには、どうしたらいいんだろうと考えた

――『アイマス』のTVシリーズが終わったあと、赤井さんはDVD/Blu-rayに収録される特典エピソード(第26話「765プロという物語」)で、初めてコンテ・演出を担当していますね。
赤井 TVシリーズをやっている途中で「これを全部、自分でやってみたいな」という気持ちが出てきたんです。一度でいいから演出さんを介さずに、コンテの段階から作画監督まで自分でやってみる。そういうことに挑戦したいな、と。そうしたら錦織さんは心が広いので「いいよ」と言ってくれて。

――その後、赤井さんは演出の仕事を本格的に始めるわけで、そういう意味ではまさに転機になった作品になりますね。
赤井 そうですね。この先、自分がアニメ業界で生きていくには、どうしたらいいんだろうと。そういうことをすごく考えさせられた現場でもありました。やっぱり、まわりにはうまいアニメーターさんがいっぱいいて、演出さんにもすごい人がたくさんいて。これまでは運だけでなんとかやってきたけど……。

――いやいや、そんなことはないと思いますけど(笑)。
赤井 流されながらやってきたなかで、今後、どうしていこうかと。そういうことを初めて考えたのが『アイマス』だったんです。

――『アイマス』のあとも、錦織監督とは『ダーリン・イン・ザ・フランキス』でも一緒に仕事をしていますね。赤井さんから見て、錦織監督はどういう存在ですか?
赤井 自分にとっては尊敬の対象ですね。年齢的にもほぼ同世代で、見てきたものが似ているのもあるし。錦織さんは作家性がすごく強くて、よくしていただいたなっていう印象です。

――作家性というのは?
赤井 ちゃんとオリジナル作品を作ろうとするじゃないですか。『アイマス』も原作はゲームとはいえ、ストーリーも含めて、オリジナルの側面が強い作品です。自分には、そういう「ゼロから作ろう」という気持ちが今はまだないんですね。原作だったり、原案があるものに対して「じゃあ、どうやっていいものにしていこうかな」と考える。だから、自分から発信していく人たちは、純粋にすごいなと思います。ちゃんと作りたいものがあって、イメージができているんだろうなって。そしてちゃんと作りきる。

――前回の梅津さんもそうですが、赤井さんの中にそういう人に惹かれる部分があるんですね。
赤井 すごくありますね。やっぱり何か作品を生み出すのって、大変じゃないですか。梅津さんなんて、原作をやって脚本も書いて、キャラクターデザインもやって、ある意味、ひとりで作っているようなところがあって。錦織さんもそうですけど、そういう人を間近で見てきたからこそ、余計に「ああ、自分には絶対にできないな」と。オリジナルを作る人は本当にすごいなって純粋に思いますね。endmark

KATARIBE Profile

赤井俊文

赤井俊文

アニメーター/演出家

あかいとしふみ 1982年生まれ。大阪府出身。専門学校を卒業後、スタジオたくらんけに入社。さまざまなスタジオを渡り歩きながら、アニメーターとして数多くの作品に参加する。主な参加作に『マギ』シリーズ(キャラクターデザイン、総作画監督)、『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』(監督)など。

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