Febri TALK 2021.06.07 │ 12:02

荒川弘 マンガ家

①アニメ&マンガの原体験
『うる星やつら』

『鋼の錬金術師』『銀の匙 Silver Spoon』『アルスラーン戦記』など、作品の多くがアニメ化されているマンガ家・荒川 弘。インタビュー連載の第1回は、荒川にとってアニメやマンガの原体験とも言える『うる星やつら』について。

取材・文/岡本大介

私にとって教科書のような存在

――TVシリーズが1981年のスタートですから、当時は7~8歳ですね。
荒川 そうですね。もちろん、その前からTVアニメは見ていましたし、『機動戦士ガンダム』もリアルタイムで見たような記憶があるんですけど、アニメというものにはっきりと夢中になったのは『うる星やつら』が最初だったと思います。私は5人兄弟なんですけど、夜ご飯を食べながらみんな釘付けになっていました。マンガもあるって聞いたので、翌日にはお小遣いを握りしめて、当時の最新刊だった16巻を買ったんです。人生で初めて自分で買ったマンガ本が『うる星やつら』ですね。

――なぜ1巻ではなく最新刊を買ったんですか?
荒川 田舎だから、近くに本屋さんがなくて。お米屋さんの一角に本のコーナーがあったんですけど、ああいうところは既刊本までは売っていないんですよ。だから最初に手にしたのが16巻だったんです。

――なるほど。『うる星やつら』はどんなところが好きでしたか?
荒川 とにかくテンポがよくて愉快だなって思っていました。ヘンテコな宇宙人がたくさん出てくるんですけど、その造形が面白くて大好きでしたし、もちろん、ラムちゃんはかわいくて色っぽい。『キューティーハニー』も好きで見ていたんですけど、私はああいうカッコよくてセクシーな女の子が活躍する作品が好きみたいで、毎週ドキドキワクワクしながら見ていました。

――主人公の諸星あたるに対してはどんな感情を抱いていましたか?
荒川 基本は浮気性でダメ男なんですけど、でも嫌いじゃなかったです。あたるって、大切なところではちゃんと優しいんですよね。幽霊の望ちゃんとデートするエピソード(第180話「ダーリンのやさしさが好きだっちゃ…」)では、夏で暑いのに望ちゃんからもらった編みかけのセーターを着て、かなりつらいハズなのに「もう少し、着てる」って言っちゃったりとか。ラムに対しても普段はキツく当たるんですけど、そのあとのフォローは絶妙だったりもしますしね。

――TVシリーズは約4年半続きましたけど、すべて見ていたんですか?
荒川 はい。TVシリーズが終わったあとも原作を追い続けて、最終話が完結編として劇場版(『うる星やつら 完結篇』)になった際もビデオで見ました。

――ビデオソフトを買ったんですか?
荒川 そうです。とはいえ、家にビデオデッキがなかったので、ソフトだけを買って友達の家で見たんですけど(笑)。

私はカッコよくて

セクシーな女の子が

活躍する作品が

好きみたいです

――本当に好きだったんですね。
荒川 ただ、アニメファンの間では名高い『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』とか、TVシリーズの放送途中にやっていた劇場版は見れていなくて。

――純粋に原作マンガとTVシリーズが好きで「これは押井守監督作品だ」とか、そういう見方はしていないんですね。
荒川 まだ子供だったので、アニメの作り手を意識したことはなかったですね。ただ、今思うと話数ごとに絵柄や演出もまったく違っていて、それも楽しんでいたと思うんですよ。今は作画も演出もシリーズを通して統一する傾向が強いと思うんですが、この時代のアニメで育ってきた私は、作監さんやアニメーターさんのカラーの違いを楽しみたいという感覚もありますね。

――絵柄もそうですが、『うる星やつら』はシリアスからギャグまで幅広いジャンルのエピソードがあって、「何でもあり」というのが大きな特徴ですよね。
荒川 そうそう。シリアスな雰囲気がコメディを引き立たせたり、あるいはその逆もあって。高橋留美子先生の存在を知ってからは短編集も集め始めたんですけど、意外とシリアスな作品が多いんですよね。私はとくに『人魚の森』が大好きなんですけど、高橋先生って本当にどんなジャンルの話でもお描きになれるし、面白く読ませてくださって。

――マンガやマンガ家というものを意識した最初の作品でもあるんですね。
荒川 そうですね。1コマに対する情報量とか、コマからコマへと移る際のテンポ感などは完全に『うる星やつら』がベースになっていると思いますし、無駄なコマをなるべく入れないっていうところも影響を受けています。私にとっては教科書のような存在ですね。そう言えば、高橋先生の原稿を原寸大で複製した大判本(「原寸大漫画館 高橋留美子」)も買ったんですけど、ちょっとだけ開いて恐怖を感じたので、そっと閉じたことがあります(笑)。

――え? なぜ?
荒川 自分も原寸で描くようになった今では、あらためてそのスゴさがわかるんですよね。だからひと目見て「こわっ!」って。フリーザ様から「私の戦闘力は53万です」って言われたような(笑)。高橋先生が別次元の表現力をお持ちなのはわかっているので、それを見て絶望するということはなかったんですけど、とにかくスゴいものを見てしまったという感覚。いつだったか銀座でやった原画展も見に行ったんですけど、そのときも同じ感覚になりました。ただ、そのときほど上京してきて良かったなと思ったこともないです。北海道の田舎に住んでいたら、高橋先生の原画展なんて、絶対に見に行けなかったですから。endmark

KATARIBE Profile

荒川弘

荒川弘

マンガ家

あらかわひろむ 1973年生まれ。北海道出身。ゲーム雑誌のイラストや4コママンガなどを手がけつつ、読み切り作品『STRAY DOG』が「第9回エニックス21世紀マンガ大賞」で大賞を受賞してマンガ家デビュー。代表作に『鋼の錬金術師』(スクウェア・エニックス)、『銀の匙 Silver Spoon』(小学館)、『百姓貴族』(新書館)、『アルスラーン戦記』(原作:田中芳樹、講談社)などがある。

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