Febri TALK 2021.06.28 │ 12:01

DÉ DÉ MOUSE ミュージシャン

①音楽家への夢を後押しした
『耳をすませば』

TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』ではクラムボン・ミトと共同で劇伴を手がけたことでも話題となったDÉ DÉ MOUSE。インタビュー連載の第1回は、彼の音楽観、人生観に大きな影響を与えたアニメ『耳をすませば』について聞いた。

取材・文/森 樹

自分が抱えていた進路とか未来への不安を重ね合わせた

――スタジオジブリからの影響をよく語っているDÉ DÉ MOUSEさんですが、1本目に挙げたのが、近藤喜文監督の『耳をすませば』です。
 『耳をすませば』は実写、洋画も含めて、今までの人生のなかでいちばん繰り返し見た映画ですね。2番が『バック・トゥ・ザ・フューチャー』です。

――アニメは昔から見ていましたか?
 夕方にアニメを放送していた時代だったので、小さい頃からたくさん見ていました。中学のときには部活をサボって『ミンキーモモ』を見ていましたし、学校でも『らんま1/2』がすごい人気でした。それから95年に『新世紀エヴァンゲリオン』と『新機動戦記ガンダムW』がめちゃくちゃ流行るんです。

――たしかにどのアニメも夕方帯で放送されていました。
 今は大人をターゲットにしたものも多いですが、当時は子供をメインターゲットにしつつも、もう少し対象年齢層を広げたようなアニメが多い感覚がありましたね。

――『耳をすませば』はどういった経緯で見たのですか?
 95年の夏(7月15日)に公開されていたと思うのですが、劇場には見に行っていないんです。次の年の春休み、高校2年から3年になるタイミングで、妹がレンタルビデオを借りてきたのがきっかけでしたね。でも、当時、ジブリ作品には大して興味がなかったんですよ。

――あ、そうなんですね。
 父親がレンタルしてきた『平成狸合戦ぽんぽこ』はすごく好きだったんですけど、『風の谷のナウシカ』や『天空の城ラピュタ』、『となりのトトロ』は当時引っかからなくて。『耳をすませば』も、僕はてっきりファンタジーだと思っていたんです。「いつものジブリ作品かな」みたいな。

――ジブリ的なファンタジーにそれほど思い入れはなかったんですね。
 そうですね。だから、序盤のムーンを追いかけているシーンで「たぶんこの坂の上に登ると、急にファンタジーの世界に入っていくんだろうな」と思っていたら、普通に丘の上の住宅地に出てしまって、だんだん不安になって(笑)。そのまま最後までファンタジーにならなかったので「なんだこれ!?」と思って。

――現代的な青春物語であることに、まずビックリしたわけですね。
 でも、何か引っかかって、次の日も、その次の日も見てしまって。「なんだろう、このソワソワする感じは」と。それで妹の部屋の『アニメージュ』の開きっぱなしのページに小さく写っている月島雫ちゃんの絵に目が止まって「あれ? 好き、なのかも?」と(笑)。

――ときめいてしまったんですね(笑)。
 当時は今ほど二次元キャラに恋することへの理解もなかったし、自分でもとまどって。誰かを好きになったこともないガチ陰キャ道まっしぐらだったうえに「初めて好きになったのがアニメのキャラ!?」みたいな。

――なるほど。
 それで「もしかしたら、『耳をすませば』の舞台の街に行けば雫ちゃんがいるのかもしれない」と思い立って、エンドロールでクレジットされていた東小金井を訪ねたんです。

舞台の街に行けば

雫ちゃんがいるかもと思って

電車で2~3時間かけて

行きました

――行動的ですね!
 僕は地元が群馬県の太田市なのですが、電車で2~3時間かけて東小金井に着いたら、見事に何もなくて(笑)。まず多摩川が見たいのに、川がない。

――街並みの参考になっているのは聖蹟桜ヶ丘周辺ですからね。
 仕方がないから、近くにあった大きな公園で休憩して。また、その日がメチャクチャどんよりしていて、カラスも鳴いているし、怖くなって帰ったんです。まったく成果はなかったけど、自分のなかでは冒険をした達成感みたいなのがあったから、それで満足して。

――一歩を踏み出すきっかけになったと。
 当時は「東京に出て音楽をやるんだ」みたいな気持ちがすごくあった一方で、不安もものすごくあって。『耳をすませば』は、進路とか未来への不安を描いた物語じゃないですか? そこに自分が抱えているものを重ね合わせた部分はあったのかもしれないですね。

――自分の夢を追いかける姿勢の後押しにもなって。
 そうなんです。雫ちゃんが好きかもしれないという気持ちと同時に、自分自身を彼女に投影している部分もありました。聖司くんは頭もいいし、最初から何でもできるから、何ひとつ共感できなかったですが(笑)。

――なるほど。ちなみに08年には雫役の本名陽子さんを迎えて『カントリー・ロード』を録っていますよね(デデマウスと本名陽子名義)。あの経験はどうでしたか?
 あの企画が来たときは、ジブリの別作品の曲をやってくださいと依頼されていたんです。でも、かたくなに「『カントリー・ロード』しかやりたくない」と(笑)。さすがにマスターテープは貸してもらえなかったのですが、新録だったらOKになって。

――だから録り直しが可能になったんですね。
 ただ、『耳をすませば』で使われたカバー自体が完璧なので、僕のバージョンは12年後の『カントリー・ロード』というイメージなんです。大人になってあの頃を懐かしむ、ちょっと儚い、悲しげなイメージになっています。

――『耳をすませば』の劇伴に影響を受けた部分はありますか?
 もちろん。劇伴の野見祐二さんのサウンドにはコード感やシンセサイザーの音色を含め、メチャクチャ影響を受けています。その後、デビューしてから『おしゃれテレビ』という、野見祐二さんのデビューアルバム(おしゃれTV名義)を入手して。そのあまりのすばらしさに「この人の音楽、死ぬまで追いかけるわ」と思ったくらい、僕は野見祐二チルドレンですね。endmark

KATARIBE Profile

DÉ DÉ MOUSE

DÉ DÉ MOUSE

ミュージシャン

デデマウス 遠藤大介によるソロプロジェクト。作曲家、編曲家、プロデューサー、キーボーディスト、DJ。VTuber・キズナアイとのコラボレートや『モンスターストライク』のBGMの公式Remix、beatmania、DANCERUSH STARDOM、World Flipperなどへの楽曲提供など、アニメ・ゲームカルチャーとも深い接点を持つ。TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』では、クラムボン・ミトと共同でアニメの劇伴を手がけた。

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