Febri TALK 2021.06.30 │ 12:00

DÉ DÉ MOUSE ミュージシャン

②アンの天真爛漫さに虜になった
『赤毛のアン』

ミュージシャン・DÉ DÉ MOUSEが「人生を変えた3本のアニメ」について語る連載の2回目。今回、彼がピックアップしたのは「世界名作劇場」で放送された高畑勲監督の『赤毛のアン』。彼女の妄想力への共感と、三善晃作曲のOP・EDテーマに受けた衝撃について。

取材・文/森 樹

演出や作画に興味を持つきっかけとなった

――2本目に挙げてもらったのは『赤毛のアン』です。21歳の頃にレンタルビデオを借りて見たそうですね。
 最初に見たのが、序盤の話数をまとめた劇場版『赤毛のアン~グリーンゲーブルズへの道~』でした。アンがマシュウ・カスバートに出会い、馬車でグリーンゲーブルズに連れて行ってもらう冒頭のシーンで、白い花が咲いた林檎並木を通る場面があるじゃないですか。

――TVシリーズでいうと第1話のシーンですね。
 そのシーンの演出に度肝を抜かれちゃって。花びらのなかを天使が舞っているのもそうだし、アンの演技も、喜びの白い道に心奪われてから、目の前のものに夢中になってしまったときの子供の感じがリアルに出ていて。そのすべてに圧倒されたし、共感もしたんです。「あ、この感覚、わかる!」って。自分自身も衝撃的なものがあるとすぐに目移りしちゃうタイプなので。その天真爛漫さと、アンの少女としてのみずみずしさに虜になりました。

――それまで「世界名作劇場」は見ていたのでしょうか?
 名作劇場で唯一好きだったのが『ロミオの青い空』ですね。『小公女セーラ』とか、けっこう辛く耐え忍ぶ話じゃないですか。だから『赤毛のアン』も(アンを迎え入れる)マリラ・カスバートが最初は冷たい感じなので、不安もあったんです。だから、マリラがアンを受け入れ、グリーンゲーブルズに置いてもらえることがわかってからはホッとして(笑)、そこからはさらにアンへ感情移入していきました。もちろん、TVシリーズも第1話から見直しましたし、最終的には原作も『アンの青春』まで読みました。

――すっかりハマったわけですね。
 アンをはじめとする少女の描き方にハッとさせられましたね。ファンタジーや魔法少女じゃなくても、美しくみずみずしく女の子を描けるんだなあと。

――物語を妄想しながら生きていくアンの強さは、作品の軸になっています。
 境遇も生きている時代も違うけれども、現実はつまらないことも多いから、子供って妄想して生きるじゃないですか。学校も行きたくないし、塾も行きたくないし、「明日、目が覚めたら異世界に行っていればいいのに」って本気で思ったこともある。だから、僕らの世代が大人になって異世界転生ものにハマる理由もわかります(笑)。そういう妄想癖は皆が持っていていいんだと励みになりましたね。しかも、その妄想がすごくきらびやかなものに見えるんですよね。

――アンを迎えるマリラも独身で、そのあたりの関係性も少し現代的ですよね。
 血がつながっていない子供に対する愛や、それをどう支えていくのかといった部分はたしかに考えさせられますね。たとえば、近所に住むレイチェル・リンド夫人って口が悪いじゃないですか。基本的には悪い人じゃないけど。

――保守的な考えの持ち主で、お節介な人物ですよね。
 アンやマリラに対しても古い価値観を押しつけてくる。当時はそれが普通だったと思いますし、決して冷たく接しているわけではないんですよね。こういう複雑な人間関係や近所付き合いは、現在にも通じる話かもしれません。

OP・EDテーマを聞いたら

音響ロックに通じる

衝撃を受けたんですよ

――音楽的な部分では影響を受けましたか?
 かなりありますね。『赤毛のアン』を見た時期、僕は音響ロック~ポスト・ロックと呼ばれるジャンルの音楽をいろいろ聞いていたんです。トータス(※アメリカの代表的なポスト・ロックバンド)とか、その流れでマーキュリー・レヴ(※壮大かつ泣きのメロディで知られるアメリカのオルタナ・ロックバンド)も聞いていて、彼らがちょっとチープなオーケストラみたいなアレンジを取り入れていたのが印象的でした。そういうものを聞いていた耳で『赤毛のアン』のOP・EDテーマを聞いたら、音響ロックに通じる衝撃を受けたんですよ。

――なるほど。たしかにポスト・ロックのような前衛的な部分もありますし、OPテーマのオーケストレーションなどは、DÉ DÉさんのサウンドにも確実に影響を与えていますよね。
 それくらい好きですね。とくにOPテーマの『きこえるかしら』も8小節ごとに切り替わらないというか、ポップスはおろか、当時の子供向けアニソンかって思うくらい素晴らしく複雑で優雅。そしてあの難しい曲を歌いきる大和田りつこさんのすごさも感じました。作曲しているのが、三善晃先生っていう、現代音楽の作曲家の大先生で。

――当時のアニメのOPとしては異色ですね。
 そうなんです。音楽はもちろん、演出や作画を意識するようになったのも『赤毛のアン』からです。キャラクターデザインと作画監督で参加している近藤喜文さんは間違いなく天才だと思っていて。監督作の『耳をすませば』もそうですし、近藤さんが制作に携わった『NEMO/ニモ』という映画のパイロットフィルムを見たことがあるのですが、84年に制作されたとは思えない凄まじいアニメーションでした。ジブリと言えば宮崎駿さん、高畑勲さんですが、近藤喜文さんというアニメーターがいたから、あのクオリティを維持できたんじゃないかなと、素人ながらに思っています。

――『赤毛のアン』を通じて、スタッフなどアニメ制作の舞台裏にも目が向いたわけですね。
 それまではアニメはただ見ているものだったのですが、いろいろ情報を見つけて、その演出意図を考察する面白さを知った作品でもありますね。endmark

KATARIBE Profile

DÉ DÉ MOUSE

DÉ DÉ MOUSE

ミュージシャン

デデマウス 遠藤大介によるソロプロジェクト。作曲家、編曲家、プロデューサー、キーボーディスト、DJ。VTuber・キズナアイとのコラボレートや『モンスターストライク』のBGMの公式Remix、beatmania、DANCERUSH STARDOM、World Flipperなどへの楽曲提供など、アニメ・ゲームカルチャーとも深い接点を持つ。TVアニメ『ワンダーエッグ・プライオリティ』では、クラムボン・ミトと共同でアニメの劇伴を手がけた。

あわせて読みたい