Febri TALK 2023.01.13 │ 12:00

藤原佳幸 アニメーション監督

③監督として進む方向性が見えた
『GJ部』

丁寧な日常描写から生まれる叙情性と、ヒロインたちのかわいらしさが持ち味のアニメ監督・藤原佳幸。そのルーツをたどるインタビュー連載のラストは、初監督作にして、日常系アニメファンの心を強く捉えた作品をセレクト。そこで感じた自分の限界に、その後、どう向き合ったのか。

取材・文/前田 久

この作品をきっかけに監督としての方向性が絞れた

――3本目は『GJ部』です。監督作の中から、この1本を選んだ理由を聞いてもいいですか?
藤原 このタイトルで自分の努力の方向性が決まった感覚があったんです。それまでアニメーターとしても、各話の演出家としても、ハイクオリティなアニメをどうやったら作れるのか? どうやったら高い技術を持って仕事ができるんだろうか?みたいなことを考えていました。作品の傾向としてはいわゆる萌え系というか、日常もののアニメが好きだったこともあって、ハイクオリティなアニメが使っている技術を萌え系アニメに持ってくれば、ずいぶんリッチに見えるんじゃないだろうか? うまい塩梅のアニメを作れるんじゃなかろうか?みたいなことを狙ってもいたんです。だから参加するタイトルも、その意味でいいスタッフが集まっているところ、高い技術を持っていろいろなことに挑戦しようとしているところを選んでいた。その熱意を買ってくれて、プロデューサーの伊藤隼之介さんが『GJ部』で自分を監督に抜擢してくれたと思うんです。

――ビジョンを評価された。
藤原 ただ、そのときに自分がこだわっていたポイントが、今分析すると、ひと言では表しづらい、めんどくさいところなんです。要するにキャッチーではない。でも、深夜アニメに求められていることってキャッチーさ……見る人を巻き込むパワーじゃないですか。自分のこだわりというか、得意分野はそこではないことに気づかされた。で、それならアニメは集団作業なんだから、得意なことは得意な人に任せてしまうのがいいんじゃなかろうか、と考えるようになったんです。オールマイティに何でもできるようになるより、好きなものを、努力を努力と思わないような感じのことを突き詰めていくほうが、より自分の活躍できる場が増えるのではなかろうかと。そうして努力の方向性を一点集中に切り替えたんですよね。

――監督としての方向性が絞れた。
藤原 絞れましたね。まわりにいてくれるスタッフも含めたうえで、方向性が決まりました。具体的にいえば、自分は心理描写というか、キャラクターの内面、感情の動きにめっちゃ興味ある! それ以外はあんまり興味ない!と(笑)。でも、そこにステータスを全振りすると、やっぱり派手さが足りない。じゃあ、そこを補うにはどうすればいいのか。キャッチーな要素が得意なスタッフに参加してもらおう。そして自分は持っているカラーをどんどん推して、それが認知されるようにしよう。そうすれば、認知されればされるほど、まわりが弱点を補強してくれるはずだ。そう考えることで、自分の考えを発信するのが楽になったんです。

やれることは全部やる。任せられるところは任せる

――『GJ部』以前は、自分ひとりで、できる限りやってしまいたかったんですか?
藤原 全部ひとりでやってしまう「あの人がいたからこの作品はクオリティがスゴいんだよね」といわれるような方に憧れていました。でも、やっぱり自分の手のスピードの限界も含めて、全部は直しきれない。自分の限界が『GJ部』で見えたんです。とはいえ、前回話したように黒柳トシマサさんと一緒に仕事をして「見る人に伝えるために、演出は制作現場では何でもするべきだ」という薫陶(くんとう)を受けているので、その延長線上で監督になった今でも、やれることは全部やる意識でいます。そのうえで任せられるところは任せよう、みたいな意識ですかね。その塩梅はとても難しいんですけど。

――難しいですよね。人によってはアニメーターとして凄腕でも、監督作では絶対に自分では絵を描かないと決めている人もいます。
藤原 だから自分はおかしいほうですね、たぶん(笑)。まだ絵に修正を入れていますから。ただ、全カットを触るとかではなくて華やかな部分……たとえば、見せ場になるような爆発とかは得意な人に任せる。そうじゃないところで破綻がないように、底を持ち上げる仕事に力を振るっています。自分の絵コンテは、あるシーンを立てるために、その前に感情の流れを作っておくことが必要なことが多いんです。突然ガーッとテンションが上がるのではなく、じわじわ上がっていって、見ている人が納得したところで感情が爆発する瞬間を描きたい。でも、その「じわじわ」した感情の部分って、どうしても目立たないんです。うまいアニメーターさんがそのカットを取ってくれたらいいシーンになるだろうけど、そうじゃない人が取ったら、なんだかぼやけたシーンになってしまう。でも、うまいアニメーターには、やはり花形の見せ場をやってほしい。だから目立たないカットへの修正は自分のほうで入れます。今の自分の仕事の割り振り方としては、そういう感じですかね。とくに表情と視線は、地味なカットでも演出上のこだわりとしては外せないので、とにかく自分で押さえています。

――それで藤原監督の作品の独特な質感が生まれる。
藤原 ただ、今まではそうやってきましたけど、これからはどうなるか。どこまでこのスタイルでやれるかは、体力との勝負です。……なんてことをいいつつ、『バクテン!!』『ぼっち・ざ・ろっく!』と各話演出の仕事が続いていて、となるとそんなにシリーズ全体のクオリティをこちらで気にしなくてもいいし、しかも単話だと全カットを自分で見られる状態になっちゃう。それでまたちょっとテンションがおかしくなっているんですけどね(笑)。endmark

KATARIBE Profile

藤原佳幸

藤原佳幸

アニメーション監督

ふじわらよしゆき アニメーション監督。1981年生まれ。東京都出身。監督作に『GJ部』『未確認で進行形』『プラスティック・メモリーズ』『NEW GAME!』『イエスタデイをうたって』がある。