Febri TALK 2022.09.12 │ 12:43

福島祐一 アニメーションプロデューサー

①『天元突破グレンラガン』
こういう作品づくりをしてみたいと思った

CloverWorksのプロデューサーとして『SPY×FAMILY』や『THE IDOLM@STER』シリーズなど、数多くの人気作を手がける福島祐一。そのアニメ遍歴を聞くインタビュー連載の第1回は、仕事を始めたばかりの頃に出会い、大いに触発されたというロボットアニメについて。

取材・文/宮 昌太朗

作っている人たちのテンションの高さ、熱量が半端ない

――影響を受けた作品を聞く前に伺いたいことがあるんですが、そもそも福島さんはどういうきっかけでアニメ業界を目指したのでしょうか?
福島 大学で、実写の映像を作るゼミに入っていたんです。もともとCGやモーショングラフィックスが好きで「映像を作りたい」とは思っていたんですけど、アニメに興味を持ったのはそれからですね。『攻殻機動隊』とか今敏監督の作品をレンタルビデオで借りて見て「アニメって面白いな」と。しかも就職活動のタイミングで、テレビでやっていた『PEACE MAKER 鐵』の池田屋のシーンをたまたま見たんです。そのシーンは松本(憲生)さんが担当されていたらしいんですけど、作画で立体的なカメラワークをつけているのを目にして衝撃を受けて。そのクレジットをチェックしたら、制作会社がGONZOだったので入社試験を受けた、という。

――めちゃくちゃ急展開ですね(笑)。ということは、新卒でそのままGONZOに入社したわけですね。
福島 制作進行として最初に参加したのが、森田宏幸監督の『ぼくらの』でした。森田監督をはじめ、夏目真悟さんや浅野直之さんなど、個性的なスタッフの方が参加されている現場でした。中盤の話数を1本やって、そのあとは最終回の制作進行を担当することになったんですけど、森田さんたちがスタッフを集めてくれていたので、新人ながらいいフィルム作りを体験させていただきました。

――なるほど。
福島 たまたま入った現場ではあったんですけど、いろいろな人たちの仕事を間近で見ることができたのはよかったと思います。ただ、これは影響を受けた作品として1本目に挙げた『天元突破グレンラガン(以下、グレンラガン)』の話にもつながるんですけど、『ぼくらの』が終わったあと、他の作品で「自分でもあのときと同じようにやりたい」と思っても当然できないんですよ。

――森田さんたちのこれまでの経験やコネクションがあったからこそ、『ぼくらの』の作り方が可能だったんだ、と。
福島 制作進行の仕事のひとつに、担当した話数のアニメーターさんを自分でアテンドするという仕事があって――もちろん、社内のアニメーターさんにお願いするとか、いろいろな要素が絡んでくるんですけど、たとえば、1話に300カットあるとして「このシーンはこのアニメーターさんにお願いしたい!」みたいな感じで、営業をかけて割り振りをしていくんです。でも、新人のときは当然、何の知識も人脈もないので……。たぶん、制作進行なら誰でもそこで苦労していると思いますし、僕も実際に現場に入ったときに「アニメってこんな風に作っていくんだ」と衝撃を受けて。しかも自分でやってみると、これが本当にめちゃくちゃ難しかったです。

――ある程度、コミュニケーション能力が求められる仕事ではありますね。
福島 そんなことを思いながら、アニメをいろいろとチェックするようになったんです。『グレンラガン』もそういうときに出会った作品のひとつですね。純粋に作品として面白いのはもちろんですけど、アニメの制作工程を知ったうえで見ると「これはちょっと半端ない」と。作っている人たちのテンションの高さというか、熱量ですよね。それをすごく画面から感じました。オリジナルのアニメで何かやってやろう、みたいな感じがすごく出ていたというか。作っているものが違うので比較はできないですけど、原作ものとオリジナルでまた向き合い方が違うのかなというのも、未熟ながら感じました。

スタッフリストを見ながら

この中の誰かと一度でいいから

仕事がしてみたいなと

それまでは制作を続けてみようと

思えたんです

――アニメ制作の内側を知っているからこそ、憧れる部分があった。
福島 「この人たちと一緒に仕事をしてみたい」と思わせてもらえた、というか。こういう作品づくりをしてみたいなと。しかもスタッフの方々、キャラクターデザインの錦織(敦史)さんとかは「実在しているのか!?」くらいに思っていましたからね。

――ええーっ!?(笑)
福島 GAINAXや他のスタジオもですが、遠い存在というか関わりがなかったですから。今となってはSNSなどで情報がわりと手に入れられやすくなっているかと思うのですが、まだそういう時代でもなかったですし。錦織さんたちを調べてもそこまで多くの情報が出てくるわけでもなかったので、当時はいろいろな人や作品などを調べながら、本当に存在しているのか?って半信半疑でした(笑)。

――あはは。
福島 それまでは「このままこの仕事を続けていけるのかな」と悩んでいたところでもあったんですけど、『グレンラガン』のスタッフリストをずーっと見ながら「この中の誰かと一度でいいから仕事がしてみたいな」と。それまでは制作を続けてみようと思えたんですよね。

――まさしく仕事を続けるモチベーションになったわけですね。
福島 『グレンラガン』の第3話(「顔が2つたぁナマイキな!!」)はXEBECさんのグロス回だったんですけど、その話数に参加していた北田勝彦さんとその後、自分がGONZOで最後に関わった『鉄のラインバレル』で一緒に仕事をすることができたんです。北田さんの上がりに感動したことを今でもおぼえていて、そのときに「ああ、こういう人たちが集まることですごい話数や作品ができるんだな」と。

――自分でも実感が得られた。
福島 最後に担当した第9話(「ブラック・チェンバー」)は絵コンテと演出を小野学さんがやられていて、それまでずっと声をかけていたアニメーターの人たちにも参加してもらえたんです。その結果、思い描いている作品づくりに自分が少しだけ近づけた感覚がありました。とはいえ、もっといろいろな方々と一緒に仕事をしてみたいな、と。

――それでGONZOを離れることにしたわけですね。
福島 もちろん、GONZOでもいろいろな出会いや経験をさせてもらって、楽しく仕事をさせてもらってはいましたが、当たり前ですが、GONZO以外にもスタジオはたくさんあって、そこでも活躍されている人がいっぱいいる。そういうことを認識させてもらったのが『グレンラガン』だったんです。endmark

KATARIBE Profile

福島祐一

福島祐一

アニメーションプロデューサー

ふくしまゆういち 1984年生まれ、群馬県出身。アニメーションプロデューサー。最近の主なプロデュース作品に『Fate/Grand Order -終局特異点 冠位時間神殿ソロモン-』『明日ちゃんのセーラー服』『SPY×FAMILY』など。株式会社JOEN、株式会社CloverWorks所属。