Febri TALK 2021.11.19 │ 12:00

古川知宏 アニメ監督

③絵コンテの力に気づいた
『ふたりはプリキュア』

『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の古川知宏にクリエイティブの源泉を尋ねるインタビュー連載。最終回は、五十嵐卓哉が演出を手がけた『ふたりはプリキュア』屈指の名エピソードから受け取った、多大な影響を熱く語る……!!

取材・文/前田 久

「演出」とはどういう仕事なのかを見せてもらえた

――最後の作品は『ふたりはプリキュア(以下、プリキュア)』の第8話です。
古川 伝説の話数ですよね。大学を卒業したあとでブラブラしていたときに「アニメの仕事をしよう」と思って、その流れで東映のアニメを見直してみようと思ったんです。いいタイミングで朝に新しいアニメが始まると聞いて『プリキュア』を見始めたんですけど、最初は気を抜いて見ていたんですね。「絵柄がちょっと懐かしい感じだな」とか「これは女の子が本当にパンチやキックをするアニメなんだ」とか。僕、女性の姉妹がいなかったので、『美少女戦士セーラームーン』をちゃんと見ていなかったんです。それもあってか、そんな程度の感想しか持てなかったんですけど、毎週ボーっと見続けていたら第8話で突然、特別な話数が始まったように見えたんですよ。

――どんなふうに特別だったんですか?
古川 見やすくて、キャラクターの感情がすっと入ってきたんです。それまでの7話は、こういっては失礼かもしれないけど、話の筋しか入ってこなかったのに。第8話は五十嵐(卓哉)さんが演出した話数ですけど、漠然とアニメの演出か監督になりたいと感じていた自分に、「演出」とはどういう仕事なのかを画面の向こう側からちゃんと見せてもらえた感じがしたんですよね。それまでは庵野さんにしても、幾原さんにしても、押井さんにしても、作っている人が画面の向こう側にいることは察知できても、その仕事としての具体的な手際は想像もできなかった。何か作家の持つ霊験あらたかな力でどうにかなっていると無意識に考えていたんですよね(笑)。でも、『プリキュア』の第8話を見て、明確に何か具体的な仕事が存在していると感じた。職業としてのアニメーション演出家が行う手つきや行為を明確に意識したんです。……さて、そうしてこの『プリキュア』の第8話を見た僕が、最初にやったことは何だと思いますか? 当ててください!

――ええっ、クイズ!? ……全カットをビデオプリンタでプリントアウトでもしたんですか?
古川 違います。正解は「録画したビデオを一時停止ながら、1カットずつ絵コンテを起こした」です。当時は絵コンテの知識もあやふやで、それを調べながらだったこともあって、1週間ぐらいかかったかな。しかし、不思議だったのが、近い時期に見て、やっぱりすごいと感じた細田守さんの『デジモンアドベンチャー』の演出担当回は絵コンテに起こしたいとは思わなかったんですよ。細田さんの作品は大好きだし、絵コンテ本も全部買っているんですけど、何かが違う。うまく言えないけど……五十嵐さんの『プリキュア』の第8話って、あくまで『プリキュア』というシリーズの枠の中に収めているんですよね。細田さんの『デジモン』は、はみ出ちゃっていた。

五十嵐さんが手がけた第8話は

あくまで『プリキュア』という

シリーズの枠の中に収めている

ところがいい

――『デジモン』にしろ『おジャ魔女どれみ』にしろ、細田さんの担当した回はすばらしいですけど、シリーズ共通のテイストから外れた「細田守のフィルム」なんですよね。
古川 そうなんです。それはすばらしいことなんですけど……僕の基準では、それは映画なら許されるものなんですよ。だから『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』は大好き。『聖闘士星矢 真紅の少年伝説』の話ともつながりますけど、映画は監督の作家性を出していいけど、TVシリーズではあくまでシリーズの中でのイチ話数であるべきだと僕は考えているんだと思います。五十嵐さんの『プリキュア』の第8話がいいのは、その意味で作品に奉仕しているところなんですよね。個人的な勝手な意見ですが、あの第8話がなかったら『プリキュア』は10年以上続くシリーズになっていなかったでしょう。五十嵐さんの演出のいいところって清潔感があるというか、我があるのに我を出しすぎないところなんですよね。作品から一歩引いた佇まいがすばらしい。作っている作品は必ず「五十嵐卓哉のフィルム」になっているのに見やすい。これ、とても大事だと思います。「え? 古川、お前が言うの?」って感じる人も多そうだけど(笑)。 

――ははは。
古川 あとは……絵コンテを起こしたときに、段取りを排除していることに気づいたんです。たとえば、キャラクターがインしてくる(※その場所に現れる)シーンなんだけど、入ってくるところの絵はないんだな、とか。なぎさがほのかとの関係を修復しようとして、学校でほのかに話しかけるところがわかりやすいですね。「雪城さん、一緒にお弁当でも」「ごめんなさい、これから生徒会の打ち合わせで……」みたいなすれ違うやりとりをふたりが繰り返す。そのどれも、完全な同ポジ(同ポジション)ではないけど、セルの位置と真横からのノンパースのカメラは同じで、その繰り返しでポン、ポン、ポン……とテンポよく進んで、あっという間に放課後になる。何気なく見てしまうけど、これは脚本にどう書かれていたのか。これだけスピード感を持って、作中の時間をポーンと飛ばす。そのコントロールを誰がやるのか? 脚本なのか、五十嵐さんがすごいのか。僕が初めて映像から絵コンテを起こした……つまり、「アニメを設計する行為をトレスした」ことで出した答えは、これは明確な意思を持って、絵コンテでコントロールするからできることだと描いてみたことでわかったんですよね。だから「説明的にインしてくる」みたいな半端なことはやらない。絵コンテを描くとは、どうやって必要な要素だけを抜き出して、いらない要素を排除するか。段取りを排除して、キャラクターの感情にスピード感とテンポをいかに持たせるか。そのための工夫が濃縮されている話数だと思ったわけです。

――なるほど。
古川 この話数との出会いがきっかけで『プリキュア』をその後も見続けたのはもちろん、『セーラームーン』を200話全部見直したりもしました。東映アニメーションに回帰したんですよね。それまでは「これからのアニメはProduction I.Gしかねぇ!」みたいな感じだったんですけど。ちょうど『イノセンス』の公開前後だったので、ああいうものに憧れがあった。

――手描きアニメのハイクオリティ路線の極地ですね。
古川 そんな自分に1年間を通してアニメを作り続けることのすごみや、アニメの持つ「幅」みたいなものを教えてくれたのが東映アニメで、そのきっかけは『プリキュア』の第8話だった。『プリキュア』というシリーズ、とくに『ふたりはプリキュア』のファーストシーズンは僕にとって特別な、本当に大切な作品です。だから大塚隆史さんが監督した『プリキュアオールスターズDX3』でキュアブラックをアニメーターとして描けたとき、「もう原画マンは引退でいいや」と思って。もともと監督になりたくて業界に入ったので、演出の仕事にシフトしていったんですよ。それくらい、自分にとって大きい存在です。endmark

KATARIBE Profile

古川知宏

古川知宏

アニメ監督

ふるかわともひろ 1981年生まれ。大阪府出身。アニメーション監督。スタジオグラフィティでアニメーターとしてキャリアをスタート。現在はフリー。アニメ『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』の監督として大きな注目を集める。

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