Febri TALK 2021.07.07 │ 12:00

広江礼威 マンガ家

②共感度100%の青春映画
『王立宇宙軍 オネアミスの翼』

影響を受けたアニメについて聞くインタビュー連載の第2回は、高校時代に出会い、先行きの見えない不安な将来に一筋の光明を与えてくれたという『王立宇宙軍 オネアミスの翼』について。

取材・文/岡本大介

完全に自分に置き換えて、我が事のように見ていました

――1987年公開の劇場アニメですから、当時は高校生ですね。
広江 はい。これはもう僕にとっては完全に青春映画で、当時の多感な時期にリアルタイムで見られたことはすごい財産だなと思っています。主人公のシロツグが当時の僕より少し年上の世代で、同じような価値観を持って将来に悩んでいるんです。僕ら自身も将来が見通せない不安な時代で、でも、彼は最終的に宇宙に行くことを決断するんですが、それにすごく勇気や活力をもらいました。

――シロツグは最初こそ無気力な青年ですが、ヒロインにひと目惚れしてから急にやる気を出しますよね。
広江 そうそう。基本的にヌボーっとしたキャラで、あまり頑張らないし、そういうだらしなさにも親近感がわきました(笑)。何者でもない一介の若者が、きっかけはどうであれ、ひとつの道を選んで邁進していくじゃないですか。それで最後には「ここでやめたら俺たち何だ。ただのバカじゃないか!」ってアツいセリフを吐くまでになる。そこがすごくいいですよね。僕は完全に自分に置き換えて、我が事のように見ていました。

――当時の広江先生は、どんな将来を思い描いていたのですか?
広江 なんにもなかったです(笑)。なんとか頑張って大学へ行って、そのままサラリーマンになるのかなって漠然と考えていました。絵の世界で一旗あげるなんて微塵も考えていなかったですけど、でも描くことは好きなので、いろいろと悩んではいましたね。だからこそ、自分の分身のようなシロツグが人類史の1ページに名を刻むような大偉業を達成する展開にはグッときましたし、自分自身の将来にも夢を抱くことができたんです。

――とくに印象に残っているシーンはありますか?
広江 シーンというか、シロツグが急にやる気になってからの雰囲気そのものが好きですね。最初は「無謀だからやめとけ」と言っていたまわりの仲間も、彼が本気だとわかると進んで協力して、ときには絡め手も使いつつ、なんとか実現させようとするじゃないですか。何か大きなことをやろうと思ったらひとりの奮起だけではダメで、周囲の協力が不可欠だし、現実の偉業もすべてその上に成り立っているんだろうなっていうのを、この映画を通じて思い知ったような気がします。高校生の僕にとっては、それが目から鱗というか、衝撃だったんです。

「演出としてのリアルさ」は

今でも意識していますし

そこはこの作品の影響も大きい

――最終的には若者たちだけでなく、上官や老人たちも巻き込んで、みんなでひとつの目標に向かって突き進んでいくところも印象的ですよね。世代間の確執まで解消していて。
広江 たしかに。60年代から70年代って、全共闘などの学生運動が盛んな時代で、当時の若者はみんな「革命」に夢を託したと思うんですけど、それが失敗に終わって。その次の80年代って「俺たちは何に夢を託せばいいんだ?」っていう時代だったと思うんですよ。そんな中で、カリカチュアされてはいますが、ひとつの理想形を指し示してくれたのはたしかだと思います。そういうことも含めてこの映画はまさに「時代の産物」だと思うんです。まあ、当時の僕は完全にシロツグ目線で、自分の決断や言動がそのまま人類の未来につながっていくという、セカイ系なところにグッときていたとは思いますけど。

――ストーリー以外の部分はいかがですか? アニメーションとしての評価もかなり高い作品ですよね。
広江 もちろん、アニメーションとしてもすごかったです。当時、すでにミリオタだったので、終盤のロケット発射場での戦闘シーンはとくに印象に残りました。アニメであそこまでリアルな戦闘を描いた作品を見たのはこれが初めてだったので、すごく興奮しました。

――リアルな描写という点は、広江先生自身もかなり意識しているところですよね。
広江 そうですね。「演出としてのリアルさ」は今でも意識していますし、そこはこの作品の影響も大きいと思います。地球ではない別の惑星の話で、文化や風習、ファッションもまったく異質なのに、その完成度があまりに高いので、見ているうちにそれを忘れるくらいのめり込んでしまう。そこはやはりガイナックスのスゴさですよね。『ふしぎの海のナディア』や『新世紀エヴァンゲリオン』など多くのガイナックス作品を通ってきましたが、やっぱりどれを見ても輝いていますから。前身のDAICON FILMからそうですけど、他とは違う色が確実にありますよね。

――DAICON FILMの作品まで見ていたんですね。
広江 知り合いの誰かがビデオテープにダビングして持ってきたことがあったんですよ。僕らとそう違わない大学生たちが作っていると聞いて、あのときは驚きました。僕が青春時代を過ごした80年代90年代って、オタク的にはいろいろな熱狂があって、振り返るととても恵まれた時代に生まれたなと思います。『王立宇宙軍 オネアミスの翼』は、その中でも「僕の青春そのもの」と言っていいくらい心に刻まれています。endmark

KATARIBE Profile

広江礼威

広江礼威

マンガ家

ひろえれい 1972年生まれ、神奈川県出身。ゲーム会社に勤務しつつ同人活動を行い、『翡翠峡奇譚』で商業誌デビュー。代表作は『BLACK LAGOON』(小学館 月刊サンデーGX連載中)。TVアニメ『Re:CREATORS』では原作・キャラクター原案を担当するなど、幅広く活躍中。2019年よりゲッサン(小学館)にて『341戦闘団』を連載中。
『BLACK LAGOON』最新第12集、イラスト集『Onslaught BLACK LAGOON Illustrations』(通常版&限定版)は、2021年8月19日頃、発売! 『BLACK LAGOON 20周年記念展』は2021年7月16日から8月1日まで有楽町マルイにて開催!詳細は特設サイト『ロアナプラ観光協会』に。

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