よくわからないんだけど、やっぱり面白い
――この作品が放送されていたときは何歳ぐらいでしょう?
広川 小学校の低学年ですね。夜に放送していたのを見ていたんです。RPGのような冒険もののアニメではあるのですが、ギャグがシュールだったり変なネーミングだったりと、言葉のチョイスが自分の好みに合って、「よくわからないんだけど、やっぱ面白い」みたいな感じでハマりました。キャラクターやアイテムのデザインもシャレていて、民族衣装のようなモチーフが散りばめられていたり、魔法のステッキも、ちょっと毒々しくてサイケデリックなんだけど可愛いかったりして。
――『魔法陣グルグル(以下、グルグル)』のギャグを楽しむだけでなく、デザイン面からも影響を受けたとのことですが、大学がデザイン系ということにもつながりますね。
広川 大学ではデザインを専攻していましたが、音楽は中学生から興味を持ち始めて、高校生から本格的な活動をしていました。今でもいちばん好きなジャミロクワイというイギリスのバンドがいるのですが、彼らは初期の頃はネオヒッピーのような音楽性で、アボリジニの民族楽器を使うメンバーもいたので、その趣味とも重ったのかなと(笑)。
――好きなキャラクターはいましたか?
広川 やっぱりヒロインのククリが好きでしたね。その後の女性の趣味にまで影響を受けました(笑)。
――ええっ!?(笑)。
広川 『グルグル』の主人公のニケはカッコいいのに、たまにドジだったりして、そんな彼に一途についていくククリがかわいかったんです(笑)。
――『グルグル』は、当時いち早くRPGの“お約束”をパロディにしたところが魅力のひとつでしたが、その頃、ゲームはプレイしていましたか?
広川 『ドラクエ』と『FF』が5作目くらいまで出ていた頃かな? 友達がゲームをするのを見たり、自分でもプレイしていましたね。だから『グルグル』の作中で「ニケたちは旅立った」みたいにナレーションが入っていても、「こういう文化なんだ」と自然に受け入れられていたんだと思います。それにこういう演出は他のアニメにはなかったので、それもあって印象的な作品だなと思ったんです。
民族衣装のような
モチーフやデザインも
ちょっと毒々しくて
サイケデリックだけどかわいい
――ナレーションだけでなく、セリフやネーミングも独特ですよね。
広川 「キタキタおやじ」とか意味わからないじゃないですか(笑)。センスが良いっていうことを当時は理解していなかったけど、思わず口にしたくなるような言葉ですよね。「くまたいよう」という、モコモコしたクマの顔の太陽とか、自己紹介で「ヒッポロ系ニャポーンさ!!」と言うキャラクターがいたり、今でもこの作品のギャグは笑いのツボですね(笑)。
――言葉遣いの話が出てきたので、広川さんのお仕事について伺いたいと思います。歌ものの場合、ほとんどが曲先行で作られると思うのですが、作曲家は歌詞のことを考えて作曲するのですか?
広川 僕のほうでも考えます。ただ、作詞家さんは作曲家の意図もきちんと汲み取ってくれるんですよ。「こういう感じで歌詞がハマまればいいな」と思っていると、本当にその通り書いてもらえたり。そうなるとうれしいですね。ほかにも作詞家さんが、「言葉のスピード感がもうちょっとあったほうがいいな」と判断すれば、ひとつの音符にふたつの言葉を入れるといったこともしてくれます。そういう音楽作りのなかでのコミュニケーションもあるんですよ。
――言葉の面白さや口に出したときの面白い響きを、『グルグル』のときからビビッドに感じていたのかなと思いました。
広川 そう言えるのかもしれないです。『グルグル』って、短い言葉のなかにすごく印象深いワードがあるんですよ。物語の最初の頃に、ククリが半年間修行するプランと、1カ月だけやるプランを選ばされるシーンがあるんですけど、短いプランを選ぶと「ただし……魔法は尻から出る!」って言われるんです(笑)。「“その代わり”魔法は尻から出る」じゃダメなんですよね。「ただし」でないと。その言葉のチョイスはやっぱりセンスがあるなと。今になって考えると、『グルグル』はいろいろなところに言葉の妙や技みたいなものが入っていたんだなと思いますね。
KATARIBE Profile
広川恵一
作曲家
ひろかわけいいち 音楽制作会社MONACA所属。1987年生まれ。神奈川県出身。東京造形大学大学院卒業。2012年より神前暁に師事する。主な代表作に、アニメ『Wake Up, Girls!』、『THE IDOLM@STER』シリーズなど。