Febri TALK 2021.12.13 │ 12:00

上江洲誠 脚本家

①「子供」から「オタク」になるスイッチ
OVA『強殖装甲ガイバー』

『暗殺教室』『アルスラーン戦記』『この素晴らしい世界に祝福を!』など、原作の巧みな再構築に定評のある上江洲誠。その人生に影響を与えたアニメを聞くインタビュー連載の初回は、原作との取り組み方の「原点」だというOVAシリーズ。

取材・文/前田 久

アニメ史をまとめるときに『ガイバー』って出てこない

――1本目にセレクトしていただいたのは、『強殖装甲ガイバー(以下、ガイバー)』のOVAシリーズ。『ガイバー』は複数回アニメ化されていますが、これは2度目のアニメ化ですね。
上江洲 単純に大好きなので選びました。僕のお兄さん世代のオタクたちにとっては、同じ時期の作品でも『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』や『AKIRA』が大切なタイトルだというのは、僕も重々承知しています。でも、それをわかったうえで、あとから来た世代の僕にとって語るべきものは何かなと思ったら、1990年前後のOVA文化なんですよ。子供の頃にショックを受けて、影響されて、自分が映像に傾倒していくきっかけになったもの。「普通の子供」から「マニア」「オタク」になってしまうスイッチとなったもの。で、その中でも何にいちばん熱狂していたかなと思ったら『ガイバー』だなと。すごくよいものなのに、あまり語られてこなかったと思います。なので、めっちゃ詳しい僕が、こうした機会をいただいたからには語るべきなんだと思って、志願しました。

――個人的な趣味としても好きだし、上江洲さんとしてはアニメの歴史に刻まれるべき作品だと考えている、と。
上江洲 そう思うんですよ。同じストーリーが何度もアニメになることなんて、そうそうないじゃないですか。なのにアニメ史をまとめるときに『ガイバー』って出てこない。それはやっぱり作品じゃなくて、みんなが悪いと言いたくなる(笑)。『ドラえもん』や『プラモ狂四郎』ぐらいしか知らない子供の時分に劇場版だった1作目(86年)を『アニメだいすき!』(※よみうりテレビが1987年から95年にかけてOVAを放送していた枠)で見て熱狂しまして。その数年後、こづかいでレンタルビデオを借りられるようになって、OVAシリーズ(89年)にどハマりするんですね。

――当時のレンタルビデオって1泊2日で1本500円ぐらいですよね。
上江洲 ですね。そんなときに月1,000円のお小遣いの中から借りたOVAだから、とてもよくおぼえているわけですよ。このOVAはアレンジされていた1作目と違って、原作者の高屋良樹先生が制作に参加して、原作ファンと先生が納得する出来のアニメにするというのが宣伝の売りだったんです。実際そうだったんだと思いますよ。制作中に連載が止まるんだもん(笑)。で、「やったー!」と思いつつ、前の劇場版が面白かったから、ちゃんと面白いのができるのか不安もあったんです。生意気な子供ですよね。でも、フタを開けてみたら、こっちも大変面白かった。

三条陸さんが手がけた

アニメならではの

原作の再構成が面白いと思った

――どのあたりが響いたんですか?
上江洲 これはのちに『ダイの大冒険』の原作を書かれる三条陸さんの、アニメ脚本家としてのほぼデビューに近い頃の仕事でして。といっても、その頃の三条陸さんって、すでに雑誌のライターや編集者として相当仕事をされていたすごい人なんですけど。そんな方の手がけたアニメならではの原作の再構成が面白いなと思った。展開は原作に沿っているんだけど、1話あたり30分で区切らないといけないし、話数も全6話と決められているから、マンガどおりにはできないじゃないですか。そこでマンガでは先のエピソードで登場する「ハイパーゾアノイド五人衆」という、とてもおいしいネタを前倒しして登場させているんですよね。OVAの続巻があるかどうかは確約されていないわけで、やはり決まっている6本の中で原作の面白い要素を全部やりたいわけですよ。視聴者もそれを望んでいるだろうし。さらには、変なところで「まだまだ続きますよ!」で終わらず、一応の最終回になるように強敵との対決をちゃんとやって、敵の組織の日本支部が壊滅するっていう、一応オチに見えるところまで話を進めている。のちにこういう再構築の仕事をやるのが「シリーズ構成」という仕事なんだって気づくんだけど、その仕事って面白いな、カッコいいな、スゲーなって思ったきっかけがこの作品なんです。で、今、僕はまさにシリーズ構成の仕事を脚本家としてやっている。そこを目指したのは、この作品と出会ったからなわけです。これが仕事の原点。これを真似して仕事をしています。子供のときにもうまいと思ったし、プロになった今でもそう思いますね。

――それは影響大ですね。
上江洲 他にも音楽が1984年公開『ゴジラ』の小六禮次郎(ころくれいじろう)さんで、あんまりアニメの仕事をしていない方なんです。そのおかげで他のアニメとはひと味違う、ここでしか味わえない悲哀のあるメロディがいいんですよね。

――では、最後に『ガイバー』絡みのインタビューでは避けて通れない質問を。いちばん好きなゾアノイドは何ですか?
上江洲 ゼクトールです!(即答)……他のも好きだけどね。ヒーローとモンスターに関して、高屋先生のデザインは未来人なんじゃないかってくらい早すぎたと思いますよ。来年の新作ヒーローもののデザインだって言われても全然通用する。もちろん、当時流行っていた『プレデター』だとか『エイリアン』だとか、そういうものからインスピレーションは受けているわけだと思いますけど、そのまとめ方が素晴らしい。『ガイバー』もだし、『冥王計画ゼオライマー』もそう。僕、OVAの『ゼオライマー(88年)』に先に触れて感覚が麻痺していたから『新世紀エヴァンゲリオン』が始まったときもすごいと感じつつ、通った道だなとも思ったり……。『ゼオライマー』の話もしたいんですよね。『ガイバー』とどっちにするか迷って、でも『ゼオライマー』は『スーパーロボット大戦』に出てメジャーになったからいいかと思って、今回は『ガイバー』にしたんだけど(笑)。endmark

KATARIBE Profile

上江洲誠

上江洲誠

脚本家

うえずまこと 大阪府出身。シリーズ構成・脚本を手がけたアニメは『蒼き鋼のアルペジオ アルス・ノヴァ』『結城友奈は勇者である』『暗殺教室』『乱歩奇譚』『この素晴らしい世界に祝福を!』『クズの本懐』『ケンガンアシュラ』『空挺ドラゴンズ』『Fate Grand Carnival』『逆転世界ノ電池少女』など多数。また、Webサイト「コミックNewtype」にて、原作を担当する『神サー!』(作画/黒山メッキ)連載中。