Febri TALK 2021.05.19 │ 12:02

今川泰宏 監督

②「落差」と「リアル」を学んだ
『アルプス物語 わたしのアンネット』

エキセントリックで燃えて泣ける作品でその名を知られる監督・今川泰宏。そのアニメ遍歴を聞く全3回のインタビューの第2回は「世界名作劇場」のなかから、屈指のドラマティックな「天国と地獄」が描かれる一本をセレクト。

取材・文/前田 久

「リアル」とは何かを考えていくと、『わたしのアンネット』にしかならない

――2本目は『アルプス物語 わたしのアンネット(以下、わたしのアンネット)』です。1983年の作品ですから、放送時にはもうアニメ業界でお仕事をしていますよね。
今川 はい。初めてのローテーションメンバーになって、『聖戦士ダンバイン』の演出・コンテをやっている頃に見ました。

――「世界名作劇場」路線だと『アルプスの少女ハイジ』や『母をたずねて三千里』『赤毛のアン』などの高畑 勲さん、宮崎 駿さんの関わったタイトルを挙げる方が多い印象があるので少々意外でした。どんなところが刺さったのでしょう?
今川 この作品も『くじらのホセフィーナ』と同じで、脚本に影響を受けたタイトルなんです。といっても、初めの13本は、普通にアルプスで暮らす少女の物語なんですけど。

――日常を丁寧に描く、「世界名作劇場」の比較的オーソドックスな展開。
今川 そうそう。ところがね、主人公のアンネットが、おとなりさんのルシエンのほっぺにチュッとやったりして「ほほえましいね」なんて思わせた第13話の直後、第14話に地獄が待っていたんですよ。ルシエンとアンネットの小さな弟のダニー(ダニエル)が崖の上でもみ合いになって、そこから事故でダニーが落っこちちゃう。で、ルシエンはダニーが死んだと思って、サーッと顔面蒼白になって、あまりの恐怖に崖の下をしっかりと見ることもできずに、ただただおびえて家に走って帰っちゃう。そこから助けを呼ぶでもなく、馬小屋の干し草に隠れて震えているだけ。いやぁ、この行動はリアルだわ、と。そこからなんだかんだでダニーは救出されるんだけど、骨折して片足がダメになっちゃうんですよ。アンネットは当然、ルシエンをめちゃくちゃ罵るの。「チュッ」との落差がすごい!

――震えますね。
今川 そりゃあ、お姉さんから見たら、弟が突き落とされたように感じられるからね。気持ちはわかります。実際は事故だから、ルシエンは悪くないんだけど。で、ルシエンは追い詰められる。狭い村だから、学校にもその話は当然広まって、子供の間で村八分みたいな目に遭ったりして。それでいたたまれないし、居場所もなくなるしで、森のなかにひとり入っていくんですよ。そこで彫刻をやっているおじいさんと出会って、彫刻を勉強することで自我を保つ。

天国と地獄のような状況の落差と

描写のリアルさはすさまじくて

その後の自分の作品にも

影響が大きいです

――容赦がない展開です。
今川 そのあと学校で、生徒たちが自分で作った作品を出して、賞を競い合う展覧会が開かれるんだけど、アンネットはセーターを編むんです。アンネットは編み物が得意で、セーターもみんなが絶対優勝だと思うような出来なのよ。ところが、ルシエンが彫った馬の彫刻は、それよりもさらにすごいわけ。で、アンネットはショックで、ほかに誰もいないところで、その彫刻を見てムカムカッて来て、思わずドーンと地面に落として壊してしまう。そこから、今度はアンネットが後悔して地獄になるわけですよ(笑)。

――聞いているだけで胃が痛くなりますね。
今川 ルシエンはそこから悟りを開くような方向にどんどん進んでいって、アンネットは大罪人として苦しみ続けて……。そこからもまだまだいろいろ、子供向けのアニメでよくやるな!という内容が描かれるんです。

――子供向けだけど、子供騙しではない、本気の内容なわけですね。
今川 それでいうと『わたしのアンネット』のテーマは「贖罪」……懺悔と赦しの話だと読んだことがあるんです。まさにその通りの展開です。どれもすごかったなあ。なかでも第13話と第14話の間の、まるで天国と地獄のような状況の落差と、描写のリアルさはすさまじくて、その後の私の作品にも影響が大きいですね。私にとってのアニメの「リアル」とは何かを考えていくと、もう、『わたしのアンネット』にしかならないんです。それは、自分がアニメの演出という仕事を始めた頃に出会った作品だったことも影響しているのかもしれない。心のやわらかい時期だったから、衝撃を素直に受け入れやすかった。

――『くじらのホセフィーナ』のお話では、少年主人公の成長に対して関心を抱いたことが、のちに『ミスター味っ子』という作品につながったわけですが、その点でいうと『わたしのアンネット』はどうなんでしょう? そこから受け取った「落差」「リアル」の感覚が表れていると感じる作品はありますか?
今川 自作は全部影響を受けているといえるんですけど、ひとつ挙げるなら『七人のナナ』ですかね。

――2002年にテレビ東京系列で放送された、今川監督が監督・原作・シリーズ構成・脚本を手がけたオリジナル作品ですね。現代ものですし、パッと見は共通項が見つからないような感がありますので、少々意外です。
今川 『わたしのアンネット』とあらためて見比べてもらうと、いろいろわかるものがあるんじゃないかと思いますよ。endmark

KATARIBE Profile

今川泰宏

今川泰宏

監督

1961年生まれ。大阪府出身。主な作品に『ミスター味っ子』『機動武闘伝Gガンダム』『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』『七人のナナ』『鉄人28号(2004年版)』『真マジンガー 衝撃! Z編』など。

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