Febri TALK 2021.05.21 │ 12:02

今川泰宏 監督

③とことん時間を浪費した
『テレタビーズ』

怒涛の感動で見る者の心を掻き乱す監督・今川泰宏。そのアニメ遍歴を聞く全3回のインタビューの最終回は、これまで以上に変則的なセレクト。大人にも大ブームを巻き起こした、世界初、乳児の教育番組は、今川監督にどのような影響を及ぼしたのか……!?

取材・文/前田 久

「浪費」に対してこんなに苦労した作品はほかにない

――最後の一本はアニメではありません。カルト的な人気を誇るイギリスの教育番組『テレタビーズ』を挙げていただきました。
今川 ホントすみません(笑)。私はアニメの仕事をやっているけど、アニメや特撮から離れてしまっているんですよ。私の世代って、アニメや特撮のマニアの方がたくさんいるんですけどね。私自身は、そんなに昔のアニメに対するこだわりも執着もないんです。嫌いでもないし、むしろ大好きだけど、執着はない。あくまで映画だとか、ドラマだとか、マンガも含めて、いろいろな好きなもの、面白いもののひとつとしてアニメがある感覚なんです。で、『テレタビーズ』はね、今回の取材にあたって送られてきた企画書にあった「作品を選ぶ基準」が、「人生を変えた」とかいろいろあるなかで「浪費した」っていうのがあったから、それで入れさせてもらいました。お金の散財じゃない、時間を浪費した。

――何があったんですか?
今川 作品と出会ったきっかけは忘れてしまったんですけど、とにかくベタぼれしたんです。ティンキーウィンキーっていう、いつもバッグを持っているキャラがいるんだけど、こいつがあるエピソードでバッグをなくして、ナレーションが「あれ? バッグはどこかな?」って言うと、キョロキョロと上見て、下見て、次に足の裏を見るわけ。それ、どう考えてもおかしいだろ!って(笑)。これでもう、いきなりハマった。世界初の乳児向け、0歳から1歳を対象にした教育番組なんですけど、非常にうまくやっているんですよ。乳児や幼児は母親に対して、何かできたら「できたよ!」って言いたくなる。そうやって同じことを繰り返して、物事をおぼえるんです。だから番組のなかで何かやったら、もう一度同じことをすぐにやる。その感じが面白くてね。本国の若者たちは、パブで呑んで帰ったら朝方、ヘンな番組が………と見ていたら「あれ? 今見たばかりのものをまた繰り返している?」とちょっとした錯覚気分を「ドラッグ番組だ」とかいってハマっていたらしいんだけど、その部分に私もやられたのかも。

どこに何が売っているのか

わからなくて、グッズを

ゲットするために時間と体力を

ひたすら費やしました

――なるほど。
今川 ちなみに最初はすごく問題になったらしいんですよ。1歳から3歳までの間って言葉をおぼえる時期でしょ? だけど『テレタビーズ』は「テレタビー語」っていう独自の言葉を使っているから、子供がそれを真似して、ちゃんとした言葉をおぼえなくなっちゃった。何かするたびに「タビタビ」とかって言うから、これは教育上よくないと物議をかもしたらしいんです。だから一時期は、国内のワースト番組になっていたと聞きました。でも、さすがイギリス、『モンティ・パイソン』のBBC。「そんなもん知るか」で、放送局は突っぱねたらしい。ただ、そうはいっても子供向けの一線は守っていて、絶対に番組制作の裏側は見せなかった。撮影現場を見学できるのも、選ばれた人だけ。

――放送10周年を記念して、そのあたりは少し緩んできたようですね。
今川 そうなんですね。とにかくイギリスでの放送開始直後は、日本に伝わってくる情報がなくてね。しばらくはスチールだけで、動くのを見る機会がろくになかったんじゃないかな。で、初めて動くのを見ることができたのが、今は亡き渋谷のHMV。地下のサントラショップで流れているビデオをニッコーって笑いながら、さらに恥ずかしくって棚のかげからこそこそと見ていたから、万引きじゃないかと怪しまれていたと思う(笑)。ほかにも、定期的に出る本国の『テレタビーズ』雑誌がどれくらいのサイクルで入荷されるのかまったく謎だったから、新宿の高島屋の横にある、紀伊國屋書店南口店の洋書売り場にやたらと通ったりね。そうやって、とにかくもう、どこに何が売っているのかわからなくて、グッズをゲットするために時間と体力をひたすら費やしました。アメリカでコンベンションに参加したときに、グッズをあさったこともありましたからね。

――旅先でまで。
今川 そうしたら、それを知ったアメリカのファンの人たちが、みんなで『テレタビーズ』のグッズを送ってきてくれてね。ウチの部屋に『テレタビーズ』のメイン4人のアイテムが、4×いくつあるんだろう?って感じになっちゃった(笑)。ぬいぐるみは、ものすごい数と大きさのバリエーションですよ。ちょっとね、「浪費」に対してこんなに苦労した作品はほかにないです。

――監督のプロフィール画像も……。
今川 そう。これはね、ブラックテレタビーズ。貪欲なテレタビーズという設定なんです。本編に出てくるのは、みんな純真な子供なの。それに対して、貪欲なやつ(笑)。けがれたテレタビーズってことで、ブラックなんです。

――では、最後に前2回の『くじらのホセフィーナ』『わたしのアンネット』のどちらでもお聞きしたので、あえてこれも聞いてみますが……自作に受けた影響は?
今川 ないですね(即答)。思い当たる節は、まったくないです!endmark

KATARIBE Profile

今川泰宏

今川泰宏

監督

1961年生まれ。大阪府出身。主な作品に『ミスター味っ子』『機動武闘伝Gガンダム』『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』『七人のナナ』『鉄人28号(2004年版)』『真マジンガー 衝撃! Z編』など。

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