Febri TALK 2021.05.17 │ 12:02

今川泰宏 監督

①アニメの仕事をしようと思った
『くじらのホセフィーナ』

魂震わせる熱くて泣ける傑作アニメの数々を生み出してきた名匠・今川泰宏。そのアニメ遍歴を聞く全3回のインタビュー。本企画始まって以来の変化球で選ばれた3作品の1本目は、金田伊功もスタッフに参加している幻の児童向けアニメ。

取材・文/前田 久

少年が成長する話が好きなんですよね

――1作目に挙げていただいた『くじらのホセフィーナ』ですが、DVDでは見ることができない作品なんですよね。
今川 全24話のうち12話分しか残っていなくて、ソフトも出せないみたいですね。一度、その残っている話数をCSで放送したことがあって、私も持っているのはそれだけ。残念だなあ。

――監督にとっては、どんな意味のある作品なのでしょう?
今川 アニメーションの世界に入ろうと思ったきっかけの作品です。私にとっては思い出深い作品ですが、見ている人が多くないようでさびしい限りです。見たのは高校生のときだったんですけど、当時の私は『ヤッターマン』が好きだったんです。ませたガキで、小学校の5~6年の頃には『ガロ』で真崎 守や永島慎二を読んでいたんですね。『漫画家残酷物語』なんていまだにバイブルですけど、そんなガキだったから中学に入る頃には、テレビのアニメや特撮がマンネリというか、商業ベースのものに見えて気分じゃなくなっていた。ところが、たまたま『ヤッターマン』を見たら、これが非常に面白い。というのも、本編中で「マンネリだ」って言っちゃうんですよね。これはうまい手だなと。そこから久しぶりにアニメを見るのを再開して『くじらのホセフィーナ』に衝撃を受けたという流れです。

――何がそんなに衝撃的だったのでしょう?
今川 当時、娯楽の要素が強いアニメが多いなか、幼少期の少年……思春期より前の子供の気持ちを描いていたところですね。子供のときにだけ見えるくじらが、少年のベッド横のコップのなかにいるんですよ。それが夜になると飛び出し、大きくなり、空を飛んで少年をいろいろな世界に冒険に連れて行ってくれる。童話的なお話です。すごかったのが、少年がそういう大人にはわからない空想をしていることを、おばあさんひとりだけが理解してくれているんですね。少年には妹がいるんだけど、この子は大人とは逆にまだちっちゃすぎて、少年の言葉を信じられない。でも、その理解者であるおばあさんが、シリーズの途中で亡くなるんですよ。

――それはつらい。
今川 その亡くなったときの描写なんですが、少年がある日家に帰ったら、親たちが奥の部屋で子供を寄せつけないようにして、ひそひそやっているわけです。それは、おばあさんの死で突然のショックを与えないようにしつつも、抑えられない悲しみを抱えて泣くおかあさんをおとうさんがなだめているシーンなんですよね。そういうところが超リアルだなって思って感心しました。でも、「アニメの仕事がしたいな」と思ったのは、その前。おばあさんが絡む別のエピソードを見たときです。

娯楽要素が強いアニメが多いなか

思春期より前の

子供の気持ちを描いている

ところが衝撃だった

――気になります。
今川 このエピソードは現存していないらしく、なにせ40年前に一度見たっきりなので記憶があいまいですが、主人公の少年が、あるとき「魚は生きている。生きているものを食べるのはかわいそうだ」みたいなことを言い出すんですよ。で、そうなると、豚も牛もかわいそうで食べられなくなって、やがては野菜もダメになる。そうすると当然、少年はどんどん衰弱していく。で、ほぼ1話まるまる使ってその流れを描いて、最後の最後に、衰弱しきった少年におばあさんがパンとミルクをひと口与えるんです。そうすると、さすがに自然に口に入れてしまう。すると、やっぱりおいしい。そこからおばあさんが「野菜も動物もみんな助けあって生きているのよ」と食物連鎖の考え方を優しく教えて、少年はまたモノを食べられるようになりました……と。ここまでの展開は、よくあるといえば、ある。でも、そのあとに入る最後のナレーションがいいんです。「全国のお母さんたち、子供は魚が嫌いで食べないんじゃないんです。子供は優しいから食べたがらないんですよ」って。うまいな、と。最後の最後に、子供に対してじゃなく、大人に対するメッセージにして、そのエピソードの骨格をひっくり返している。初めて見るタイプのやり方だったので、アニメでこういうことも描けるんだと驚きました。

――子供のときにしか見ることのできないファンタジーの要素を描きつつ、大人の目線がしっかり入った作品になっている点に感銘を受けたわけですか。
今川 うん。アニメのなかで子供を否定しない。子供なりに考えていることを肯定していく。今でこそ、「子供をむやみに叱るのはやめましょう」みたいなことが普通に言われますけど、そうじゃなかった時代にやっていたのがすごい。まあ、子供が魚を食べない言いわけにならなきゃいいなとは思いますが。

――(笑)。
今川 まあ、それはシャレとして。金田伊功さんが関わっている回もあって、その回は映像的にも面白かった記憶があるんですけど、やっぱり私のなかでは、脚本がよくできていた印象が強い作品ですね。最終回の話もいいんだよね。主人公はだんだんとホセフィーナよりも興味があるものが出てきて、ホセフィーナをないがしろにしちゃう。ホセフィーナはそれがひどく悲しくて、気を引くために実家に帰ったりするんだけど、だんだんと主人公が大人になっていくことを受け入れていく。主人公もホセフィーナとの別れを意識し始めて、さびしく思うんだけど、成長することとホセフィーナとの別れがイコールであることを受け入れ、りっぱな大人になることを決意する。そして最後、ふたりはきちんとさよならを言って別れる。悲惨な別れでも、大きな事件があるわけでもなく、すごく自然でよかった。さびしいお話ではあるんだけれども、そういう風には見えない。むしろ男の子が成長してよかったね、と感じられる。そういう視聴体験をしたから、私は少年が成長する話が好きなんですよね。『ミスター味っ子』とか、まさにそうじゃないですか。

――わ、つながりますね。endmark

KATARIBE Profile

今川泰宏

今川泰宏

監督

1961年生まれ。大阪府出身。主な作品に『ミスター味っ子』『機動武闘伝Gガンダム』『ジャイアントロボ THE ANIMATION -地球が静止する日』『七人のナナ』『鉄人28号(2004年版)』『真マジンガー 衝撃! Z編』など。

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