Febri TALK 2021.07.16 │ 12:00

イシグロキョウヘイ 監督

③アニメの最大の強みを知った
『サマーウォーズ』

インタビュー連載の最終回は、細田守監督作品の大ヒット作『サマーウォーズ』。アニメで人間ドラマを描きたいと考えていたイシグロにとって、『サマーウォーズ』における演出や人間描写はひとつの答えになり、その後の大きな指針にもなっていると語る。

取材・文/森 樹

アニメで人間ドラマをやる意味を教えてくれた

――3本目は『サマーウォーズ』が挙がりました。2009年の公開時にはアニメの演出家としてデビューしていたのでしょうか?
イシグロ 制作進行から演出になりたてくらいのタイミングですね。演出の仕事をやっていたからこそ、『サマーウォーズ』が僕のなかでバイブルになったんですよ。

――その理由を教えてください。
イシグロ 僕はサンライズ出身なのですが、サンライズといえばメカものじゃないですか。でも、僕はどちらかといえば、キャラクターやその感情を表現するような青春ものや恋愛ものが好きで、周囲にも「人間ドラマがやりたい」と伝えていました。ただ、会社のカラー的にもそれは難しいという雰囲気があって、ちょっと悩んでいたところで『サマーウォーズ』を見たんです。『サマーウォーズ』って、設定的には実写でも成り立つ作品だと思いませんか?

――デジタルの世界を別にすれば、大家族ものとして成り立つかもしれませんね。
イシグロ そうですよね。僕は『サマーウォーズ』を劇場で見て泣いたのですが、なぜアニメであれだけ感動できたのかを分析したんです。そのなかでひとつたどり着いた結論がありまして。陣内家が一族でラブマシーンと対決するとき、漁師である万助さんが本家の敷地内に漁船を持ってきて、池に沈めるシーンがあるんですよ。そのときに大きな波しぶきが上がって、次のカットでは健二くんに水がかかるのと同時に、池から飛び出した鯉が横切るように飛んでいくんです。ピチピチって。そのシーンを見たときに「だからアニメなんだな」と思ったんです。

――それはどういった理由なのでしょうか?
イシグロ 具体的に説明していくと、実写でも鯉を放り投げて人物の前を横切らせることは可能だし、CGで飛ばしてもかまわないわけです。ただ、そうすると作為的なものが見えてしまう。

――わざとらしくなってしまうと。
イシグロ 「誰かが鯉を投げたんだろうな」と感じるし、一気に冷めてしまう可能性があるじゃないですか。一方で、アニメというのは画面全体がすべて作為のもとで作られていて、鯉が飛ぶのも作為をもって飛ばしていることを視聴者が理解できる。ここにアニメの秘密があると思っていて。すべての画面が作為で描かれているということは、逆にいうと偶然性がない。だから、突飛なことが起こっても、それを作家性や表現として受け入れさせることができるのがアニメの強みなんです。

――なるほど。
イシグロ だからこそ、『サマーウォーズ』のような実景ベースの作品でも、作為的に画面をコントロールすることができるのはアニメだけだし、必要な物語のために舞台を選べるのもアニメの良さでもあるというのが、『サマーウォーズ』を経ての僕の答えですね。なので、ああいう実景ベースのアニメをやっていいんだという勇気をもらいました。

『サイコト』でも

『サマーウォーズ』を

ひとつの目標に掲げていました

――あえてSFやファンタジーではなくても、ということですね。
イシグロ そうです。アニメで人間ドラマをやる意味はあるんだ、ということに確信を持たせてくれました。

――逆にいえば、細田監督の画作りはそれだけ精密で巧みだということですね。
イシグロ 細田さんの才能だと思います。今回、僕の監督作品である『サイダーのように言葉が湧き上がる(以下、サイコト)』でも、『サマーウォーズ』をひとつの目標に掲げていました。『サイコト』はショッピングモールを舞台にした若者の日常を描いている作品なのですが、それは描き方次第で面白くできるものだと。

――そういうアニメの面白さを信じている。
イシグロ はい。そのあたりの感覚を細田監督に聞いてみたいですね。細田さんのなかにも「なぜアニメなのか?」という理由があるはずなので。画面設計における意図などを作り手として勉強したいです。

――オリジナル作品に携わったことで、その難しさをより実感しているところはありますか?
イシグロ 僕は絵描きじゃないことが監督としてコンプレックスだったんですよ。細田さんも今さんも、まずコンテのうまさに圧倒される部分があって。じゃあ、自分の強みがどこにあるのかと考えたときに、僕は制作進行出身なので、最初から最後の納品部分まで、すべてのセクションを把握しているところかなと。

――細部に関してその流れを理解している。
イシグロ そうですね。そこにかかる時間なども考慮しながら、全体を見渡すことができるので。

――だとすると、各セクションへの指示を明確にできる利点がありますよね。
イシグロ はい。自分でいうのは恥ずかしいですが、けっこうなゼネラリストになったんだなと(笑)。作画やCGといった技術的な部分での共通言語も持っていますし、劇伴の発注の仕方など、作家とのやり取りに関しても、僕自身が音楽をやっていたのもあって苦じゃないので。『サイコト』では、そういう現場の進行をスムーズに進める役割を担えたのかなという実感はあります。

――なるほど。
イシグロ なので、ここから一歩先に進むためにも、細田さんがそういった制作工程にどういう形で関与しているかを知りたいんですよね。今さんは各セクションの深いところまで関与していたと聞いているので。そういう制作過程に迫るドキュメント番組があったら見てみたい(笑)。キャリアを積んでいけばいくほど、ほかの演出家や監督の考えが知りたくなっていくものだなと思いました。endmark

KATARIBE Profile

イシグロキョウヘイ

イシグロキョウヘイ

監督

1980年生まれ。神奈川県出身。サンライズで制作進行を務めたのち、演出家デビュー。その後、フリーとなり、『四月は君の嘘』で監督を手がける。2021年7月22日に監督作品としては初となるオリジナル劇場映画『サイダーのように言葉が湧き上がる』が公開される。

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