Febri TALK 2021.05.26 │ 12:02

横槍メンゴ マンガ家

②演出とは何かを学んだ
細田守作品

『クズの本懐』『【推しの子】』のマンガ家・横槍メンゴの、あふれるアニメ愛を聞く全3回のインタビュー連載。第2回は、今や日本のアニメを代表する監督のひとりである細田守の作品から、キャリアの初期を代表する2作品について熱弁をふるってもらった。自作の最終話に関する裏話も……!

取材・文/前田 久

「千昭が嫌いな女っているのかな?」って思っているんです

――2回目は「細田守作品」という括りでのセレクトです。
横槍 私、自分が絵を描く人なので、アニメのスタッフも絵を描く人、アニメーターから意識したんですね。最初のきっかけは『彼氏彼女の事情』で、平松禎史さんや今石洋之さん、鶴巻和哉さんといった名前をまずはおぼえたんです。そのあとで、今度は「演出」という役職を意識するんですが、そのきっかけが細田さんだった。もちろん、作品のクレジットで「演出」という仕事があることは知っていました。でも、そう言われてもアニメーターと違って、子供にとっては仕事の内容がなかなか見えないじゃないですか。そんな状態から、細田さんの存在を通じて「ある人が『演出』として関わると、ほかの回と比べてめちゃくちゃセンスが良くなったり、カッコいいものになることがあるらしい」と意識するようになったんです。

――きっかけは何だったんですか?
横槍 オタクな弟がいるんですけど、『デジモン』が好きだったんです。それで部屋で『デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!(以下、ウォーゲーム!)』を見ていて、ちょうど最後の、核ミサイルがシューンって落ちてくるシーンのところで部屋に入ったんですよ。その短いシーンだけで「何、このアニメ!?」ってびっくりしたんです。『未来のミライ』の怖い電車のシーン、わかります?

――もちろん。主人公の4才児が迷い込む、異界っぽい東京駅のシーンですね。
横槍 あそこ最高じゃないですか? あの映画は、ずっとあのテイストでやってほしかったくらい (笑)。ああいう、ちょっと狂気的なシーンが細田作品の魅力だと私は感じているんです。子供のときに見た悪夢みたいな、根源的な恐怖を、さらっと描いてくれる。『ウォーゲーム!』はそういうシーンがたくさんある映画で、最初に見たときは、それが演出によって作り出されているとは意識していなかったんです。でも、インタビューを読んで、あえて不安定なパースの構図にしたり、カット割りも変なところでブスッと切ったり、そういう演出上の工夫を積み重ねて空気を作っていると知って「ああ、『演出』で不安が煽れるんだ」と感銘を受けたんですよね。「なんだかわからないけど怖い、不気味」という雰囲気を意図的に作っている人がいるのが、その頃の私には衝撃だった。しかも、『ウォーゲーム!』って、すごい秀逸なワンルームものじゃないですか。子供たちが台場の、集合住宅の一室ですべてを完結させる。それを自分も集合住宅の一室で、まだ子供だった弟と一緒に見たのは強烈な思い出で、自分にとっての原体験のひとつですね。で、そこから演出を意識して、いろいろなものを見るようになったんです。

細田作品は

子供の頃に見た悪夢みたいな

根源的な恐怖を

さらっと描いてくれる

――モノの見方が変わるレベルの体験だったんですね。取材前にうかがった話だと『ウォーゲーム!』と『時をかける少女(以下、時かけ)』が重要ということでしたよね。『時かけ』のほうは、横槍先生にとってどんな作品なんですか?
横槍 『時かけ』はもう本当に、ひたすら超好きなんです。細田監督の作品で、いちばん繰り返し見たのは『時かけ』です。公開時には映画館に通いまくったし、その頃の細田さんのトークショーは全部行きました。

――すごい。何がそこまで横槍先生を『時かけ』に駆り立てたんでしょう?
横槍 ひとえに千昭(即答)。

――……さっきまでの演出の話の流れはなんだったんですか!!(笑)
横槍 いやー、千昭もちょっとタイムスリップサムライ(第1回参照)っぽいじゃないですか(笑)。

――なるほど……。
横槍 「千昭が嫌いな女っているのかな?」って思っているんですよ。それくらい、私のなかで特別なキャラなんです。あ、でも、ちゃんと演出の話ともつながるんですよ。じつは自作で影響を受けたシーンがあるんです。千昭が真琴に最後の別れを告げるところ。あそこの真琴が泣き出してから、千昭の「未来で待ってる」のセリフまでの一連の流れは神だと思っているんです。私、「もうダメ」と思ったときに、もう一度救いがあってほしい気持ちがとても強くあるんです。それを完璧に叶えてくれるアニメ体験だった。だから、何度も繰り返し見ちゃう。で、細田監督がトークショーで「あのシーンで千昭と真琴にキスをさせなかったのは、それをやると呪いになってしまうからだ」みたいなことを言っていた記憶があるんですね。それを聞いたとき、「逆にすげぇ強い呪いになってるぞ!」と思ったんですけど、まあ、それはさておくとして(笑)。『クズの本懐』の続編として描いた『décor』の最終話のネームを切ったとき、最初は麦と花火のキスシーンを描いていたんです。でも、それを締め切りギリギリで描き直したんですよ。「ここでキスするのは、細田イズム的に間違いなのでは?」と強く感じて。ふたりの関係について、決定的なセリフも言わせなかった。

――大きな変更じゃないですか。
横槍 そういう「ここで〇〇するのは違う」みたいな、何をどこまで描くかの線引きを、細田作品から学んだように思います。演出の塩梅とでもいいますか。「ここでキスシーンがきたら絶対盛り上がる」というところで、ためらわずキスさせるのがハリウッド映画やディズニー作品の演出なのだとしたら、させない情緒を選ぶのが日本的演出で、そのやり方を細田監督は踏襲している。私はそこから、とてもわかりやすく影響を受けていると思います。endmark

KATARIBE Profile

横槍メンゴ

横槍メンゴ

マンガ家

1988年生まれ。三重県出身。主な作品に『君は淫らな僕の女王』(原作/岡本倫)『クズの本懐』『レトルトパウチ!』など。現在「週刊ヤングジャンプ」で『【推しの子】』(原作/赤坂アカ)連載中。【Twitter】@Yorimen

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