Febri TALK 2021.10.08 │ 12:00

伊藤智彦 アニメ監督

③TVシリーズの理想型を見た
『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』

『HELLO WORLD』『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』の伊藤智彦監督のルーツをたどるインタビュー連載のラストで取り上げるのは『新世紀GPXサイバーフォーミュラ』。シリーズのクライマックス、第36話の魅力に今の伊藤が感じることは、果たして……!?

取材・文/前田 久

見れば見るほど「うまいなあ」って感じなんです

――では、3本目ですが、前の2作品とちょっと毛色が変わりますね。『新世紀GPXサイバーフォーミュラ(以下、サイバー)』を挙げていただきました。
伊藤 これは作品トータルというよりか、ラス前の第36話が好きなんです。幼少の頃、あまりに好きで、わざわざテープに音だけ録って、ずっと聞いていました。ビデオでも録画していたのに。おかげで一時期は、セリフを全部そらで言えましたよ(笑)。

――スゴい!
伊藤 で、なぜそこまで好きだったのか、あらためて大人になってから研究したんですけど、この話数は西村聡さんが絵コンテ・演出を担当されているんですね。

――『はじめの一歩』や『TRIGUN(トライガン)』の監督の。
伊藤 そう。そんなすごい方がやっていたことはあとあと知ったわけですが、つまりこれは西村さんがうまいから面白いんだなと。ある意味では『新世紀エヴァンゲリオン』より先に、作り手によって同じTVシリーズのなかでも面白さが変わることを知る、最初のきっかけだったわけです。

――スタッフの名前まで認識していなくても、何かが違う回があると知った。
伊藤 で、そこからさらに分析していったんです。まず前半、レース前の静かなところから始まって、主人公のチームのトラブルが描かれていくわけですけど、そのときのサブキャラのちょっとした挙動の面白さ。シリーズで今まで積み上げてきたキャラクターのおいしいところを最低限の手数で見せている。レーススタートの盛り上げは『ソードアート・オンライン』2期でも参考にしました。そして後半、レースに入ってからの見せ方。当然、予定通りに運ばないサスペンス感、ヒロインとのラブ感、そしてここぞとばかりの挿入歌のかけ方も、エンディングの入り方も完璧なんです。

――いやー、わかります。熱くなりますよね。
伊藤 最終話がなくても、これで終わっていいんじゃないって思うくらい(笑)。それは冗談にしても、TVシリーズとしてのある意味、理想型をそこに見たんです。

――主人公の風見ハヤトの「奇跡はこれからだ!」という逆転宣言の名セリフからの流れで終わる。美しいですよね。
伊藤 そうです。その前にランドルの「グレイスン、ティータイムだ!」とか、新条の「風見が来るからな!」とかサブキャラも熱い。

――ハヤトと公平な条件で勝負するために、ライバルがわざとピットインする。
伊藤 そうそう。ほかにも、この話数では全キャラにちゃんとおいしい場面を作ってあげていて、見れば見るほど「うまいなあ」って感じなんですよ(笑)。

作り手によって

同じTVシリーズのなかでも

面白さが変わることを知る

最初のきっかけでした

――職人芸的なうまさがありますよね。見たのは年齢的には……。
伊藤 小5か小6くらい。その頃、サンライズロボットアニメが金曜の夕方の枠でずっとやっていて、『魔神英雄伝ワタル』『魔動王グランゾート』そして『ワタル2』と連続して楽しんでいたわけですよ。で、ぶっちゃけ『サイバー』はロボットアニメじゃないから、まあ、見なくていいかもって最初は思っていたんです(笑)。

――めっちゃわかります、その感覚(笑)。
伊藤 でも、そこで折しも世はF1ブームになり、俺も鈴鹿サーキットに行くぐらいのF1ファンになったんです。1991年だから『週刊少年ジャンプ』がマクラーレン・ホンダのスポンサーだった時期で、要するに若年層にモータースポーツがかなり届いていた時期だったわけです。

――ああ、しかも愛知県に住んでいたわけですよね。トヨタがあるから車文化が身近で、鈴鹿サーキットも比較的近い。
伊藤 そう。だから『サイバー』も見るようになったわけですけど、前半の話数の印象はそれほどでもなく、やっぱりシリーズの後半、なかでもワールドグランプリ最終戦からですよね、あのアニメが盛り上がるのは。俺にとってはそこからが『サイバー』というアニメであり、なかでも第36話が素晴らしい。挿入歌からエンディングに向かう流れを、ときどき見返すことがあるくらいです。そして毎回うるっとする。

――西村さんは伊藤さんの在籍時にマッドハウスで活躍していましたよね。
伊藤 ええ。『はじめの一歩』をやっているのを、同じスタジオで横目で見ていました。大変そうな作品だなあと(笑)。仕事で直接関わるようになったのはずっとあとで、『からくりサーカス』に一本だけ絵コンテで参加しています。とてもロジカルに作品を作っている方でしたね。上手・下手を意識した演出だとか、カット頭に必ず動きがほしいので、絵コンテでも1枚余分に絵を描いておいてほしいと言われました。面白かったのは、ご本人はローテンションというか、外側にあまり熱い感じを出すような方ではないのに、でもフィルムはパッションにあふれたものになるところですね。俺も西村さんと同じ、「あふれ出る情熱!」みたいな類の人間ではないんですけど、俺の場合はフィルムにもそういうところがある。だから、たまに『サイバー』の第36話を見返して、こういうノリをもっと入れないといけないなと反省するわけです。

――なるほど。
伊藤 どうしても俺は理屈で考えがちで、(同じマッドハウス出身の)荒木哲郎さんや平尾隆之さん、中村亮介さんたちが作るようなテンション感が高いフィルムにならない。でも、いつかはそういう空気感を自分の作品にも取り込んでいきたいんですよ。endmark

KATARIBE Profile

伊藤智彦

伊藤智彦

アニメ監督

いとうともひこ 1978年生まれ。愛知県出身。アニメーション監督。主な監督作品に『世紀末オカルト学院』『僕だけがいない街』『劇場版 ソードアート・オンライン -オーディナル・スケール-』『HELLO WORLD』『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』など。

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