Febri TALK 2022.07.15 │ 12:00

加藤大典 ゲームプロデューサー

③沖縄で体験した最高の瞬間
『KING OF PRISM by PrettyRhythm』

アーケードゲーム『ワッチャプリマジ!』のプロデューサーであり、『KING OF PRISM』では「プリズムジャンプ原案」、『ワッチャプリマジ!』では「イリュージョン原案」などのクレジットでアニメにも参加している加藤大典。インタビュー連載の最終回は、そのシリーズから飛び出した奇跡のタイトルを取り上げる。

取材・文/前田 久

なんの迷いもなく「この作品をやれてよかったね」と言い合えた

加藤 最後の作品の話は、本当につまらないですよ。

――もうそのフリは信用しません!(笑) というわけで、最後は加藤さん自身がスタッフとして参加している『KING OF PRISM by PrettyRhythm』です。
加藤 手前味噌すぎますよね。でも、自作から何かひとつ入れようと考えたら、やっぱりこれなんです。作品への入れ込み方というレベルで選ぶなら、今放送中の『ワッチャプリマジ!』も本気で作っています。でも、なんというか……そういう基準ではなく、純粋に作品の思い出で考えると、やはり『KING OF PRISM』シリーズ、その中でも、最初に劇場公開された『KING OF PRISM by PrettyRhythm(以下、キンプリ)』なんです。

――女児向けアニメである『プリティーリズム・レインボーライブ』のスピンオフ作品で、しかも本編では脇役だった男性キャラのドラマにスポットを当てる。今、振り返ってもすごい成り立ちの企画ですよね。
加藤 企画が動いたのは、菱田正和監督とエイベックスのプロデューサー・西浩子さんの熱意ですね。横で見ていても、あのふたりの企画の実現に向けた行動の数々はすごいなと思いました。

――当初の公開規模は小さいものでしたが、口コミでどんどん噂が広がり、リピーターが続出して、最終的には『プリティーリズム・レインボーライブ』の視聴者層を超えたファンの広がりを見せてロングランされた。そんな歴史的な作品であり、映画の続きも、のちのTVシリーズも、まずこの作品の大成功がなければありえなかった。それはもう、スタッフの方にとっては思い入れが深いというのも当然で……。
加藤 あ、いえ。理由は「舞台挨拶で沖縄に行かせてもらえた」というだけですね(笑)。

――……ちょっと!(笑)
加藤 いやー、最高でした、沖縄。おっしゃるとおり、『キンプリ』はいろいろな人にコアな形で好きになってもらえて、大きく盛り上がった作品でした。そんなさなか、「今度、沖縄で舞台挨拶があるけれども来ますか?」と西さんに声をかけてもらったんです。友達が沖縄に移住していたこともあって、すぐに「行きます!」と答えて。そういうノリで動ける勢いがあったんですよね、当時は。

すごいクオリティの応援上映と

温かい雰囲気の舞台挨拶で

作品の広がりを実感できた

――沖縄で舞台挨拶をやること自体が異例ですね。
加藤 それで、行ったみんなでお酒を飲みながらするのも、やっぱり『キンプリ』の話で。みんな揃って何の迷いもなく「この作品をやれてよかったね」と言えた。そういう人たちと集まっていて「ずっとこの話を続けられたらいいのにな」と、心の底から感じたんです。誤解されたくないのですが、他の作品が楽しくないとか、スタッフとの関係が悪いとか、そういう訳ではないですよ。でも、仕事でやっていることですから、どうしたって厳しい瞬間は出てきます。

――プロ同士だからこその厳しさは、どうしても必要になりますよね。
加藤 でも、沖縄のときは、そういうことをまったく考えなくてよかった。おまけに次の日に映画館で見た応援上映も、すごいクオリティで開催されていて。

――『キンプリ』は応援上映が本格的に普及するきっかけのタイトルでもあったので、お客さんの練度の差がけっこう見えたものですが、沖縄はレベルが高かったんですね。
加藤 中には東京から来ていたヘヴィなリピーターの人もいたのかもしれないですが、全員がそんなわけはないでしょうから。舞台挨拶も、とても温かい雰囲気で盛り上がりました。これだけ作品の広がりを実感できたのは、今振り返っても貴重な体験でした。あのときの印象が忘れられなくて、その後、別のところでやったトークイベントでも沖縄の映像を流して「またみんなで行きたいね〜」なんて話していたのですが、まだ行けていないんです。コロナ禍で応援上映自体が難しくなっていますが、なんとかしてもう一度、沖縄のお客さんたちに会いに行きたいんですよね。そんな気持ちを、この機会に話しておきたかった。……本当に面白くないでしょ? 真面目な話で。

――いえいえ。思い出も、未来に向けてのお話も素敵ですよ。
加藤 『プリティーシリーズ』には他にも楽しい記憶がたくさんあるんですが、とにかくあの日、2016年4月の沖縄で『キンプリ』に経験させてもらえたことは、「生きていてよかった」と思えるくらいのものでした。今でも思い返します。ただ、もう一度、あの瞬間を迎えるために頑張るのか、と思うと、何かが違う気もするんです。あくまで目の前の作品を一生懸命作り続けていて、そうしたら結果的に、またあんな素敵な瞬間を迎えられる。そうなれたらいいなと思っています。endmark

KATARIBE Profile

加藤大典

加藤大典

ゲームプロデューサー

かとうだいすけ 1978年生まれ。愛知県出身。株式会社シンソフィア所属のゲームプロデューサー。『プリティーリズム』から始まるシリーズすべてに参加し、『プリティーリズム』の「プリズムジャンプ」や『プリパラ』の「メイキングドラマ」、『キラッとプリ☆チャン』の「やってみた!」などの演出を手がけている。

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