Febri TALK 2022.04.06 │ 12:04

草野華余子 シンガーソングライター/作曲家

②すべての創作意欲の源
『機動戦士ガンダム』シリーズ

シンガーソングライターとして音楽活動を行うかたわら、LiSA「紅蓮華」をはじめ数多くのアニメ主題歌も手がける草野華余子が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の2回目は、シリーズを丸ごと愛し、創作意欲の源となっていると言い切る『機動戦士ガンダム』シリーズ。

取材・文/岡本大介

私もビームサーベルでお風呂を作って入りたい

――『ガンダム』は膨大な作品がありますが、特定の作品ではなくシリーズ全体ということでいいですか?
草野 基本的にすべての『ガンダム』作品が好きなので、箱推しでお願いします(笑)。すべてを語り始めると何日あっても足りないので、まずは私と『ガンダム』の出会いをざっくりとお話ししますと、初めて触れたのは『新機動戦記ガンダムW』でした。ただ、当時は『スレイヤーズ』に夢中だったこともあり、チェックはしつつも案外サラッと受け止めていたんです。その後、中高生になって『∀ガンダム』を見た際も「なんだか不思議なガンダムだな」って思うくらいで。ところが、大学時代に軽音部の先輩からススメられて見た『機動戦士ガンダムSEED(以下、SEED)』にはなぜか爆ハマりしたんですよね。大学生で時間だけはあったことも大きかったと思いますが、とにかくガンプラを作ったりカガリのコスプレをしたりと、どっぷりとオタク活動に勤しみました。『SEED』って、ファーストのリブート感が強い作品じゃないですか。ファースト直撃世代ではない私たち世代のオタクに向けて、これまでの『ガンダム』の良いところを現代的な作画でもう一度見せてくれたのがありがたかったんですよ。『SEED』をきっかけにして大学時代にファーストから順を追って見直したことで、今に至るまでずっとガンダムオタクを続けています。ここ数年でもう一度シリーズを最初から見直したんですけど、大学生のときにはよくわからなかったセリフがようやく実感をともなって理解できるようになったりもして、その深さを再確認しました。シャアの男性としての弱さだったり、ララァを失ったことでの葛藤だったり、もう堪らんです、っていうか話が止まらないです(笑)。

――さすがです。ここまでひと息でしゃべりましたね(笑)。ちなみに見る際はシャア目線で?
草野 そうなんです。私、ずっとシャアを追い続けているんですよ。つい最近も『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』を再度視聴したんですけど、自分で自分にかけた呪いのようなものに苦しみ、最後までそれから解放されることなく宇宙に散ったシャアの最期を思うと、もうめちゃめちゃ泣けました。

――ガンダム沼にハマるきっかけの『SEED』の好きなエピソードは?
草野 ひとつだけ選べと言われたら、PHASE-24「二人だけの戦争」ですね。これはカガリとアスランが出会う話なんですが、ふたりで遭難してしまったため、敵対勢力同士ではあるんですけど、お互いの身の上を話したりして、一瞬だけど心を通わせるんですよ。その後はまたそれぞれの陣営へ戻ることになるのですが、それがすごくもどかしくて切ないんです。この「二人だけの戦争」というタイトルには元ネタがあって、それが『機動戦士ガンダム 第08MS小隊(以下、08小隊)』(の第1話)なんですよね。それで気になって『08小隊』を見たらそっちもものすごく面白くて、シリーズでもっとも好きな作品になりました。

『08小隊』は

人間模様がしっかり

描かれていて大好きなんです

――そうなんですね。『08小隊』はニュータイプ同士が派手に戦う作品ではなく、一年戦争の裏側で戦っていた一般兵士たちのリアルな戦場を描いた作品です。
草野 そうそう。等身大というか、普通の人間ドラマなんですよね、08小隊は。私たちファンは、アムロとシャアの戦いを通じて社会や時代が大きく変わっていく物語を長年にわたって楽しませてもらってきましたが、その裏側ではこういう小さな物語もあったんだなと思わせてくれるんです。ごく普通の軍人や頼りない人がたくさん登場しますし、MS(モビルスーツ)のカラーリングが地味なのも好みで(笑)。小隊に焦点を当てた作品なので、スケールはこぢんまりとしていますが、そのぶん人間模様がしっかりと描かれていて。そんなミニマムな構成も大好きなんです。

――『08小隊』は、シロー・アマダとアイナ・サハリンの恋愛ストーリーでもありますよね。
草野 私、『ガンダム』シリーズでいちばん好きなヒロインがアイナ・サハリンなんです。しなやかで美しく、それでいてシローを支える芯の強さがあって。あのふたりって本当に理想的なカップルですよね。なかでも印象的なのが第7話「再会」で、命が危険に晒された極限状況でシローが「アイナー! 好きだー!」って告白すると、アイナが一瞬びっくりした顔をしたあとにうれしそうな表情を浮かべるんですよ。あの一連のシーンは本当に好きです。そのあとふたりは雪山でサバイバルするんですけど、MS(モビルスーツ)のビームサーベルで雪山を溶かして、露天風呂みたいにしてふたりで入ったりして。私はあれにめっちゃ憧れて、当時付き合っていた彼氏に「私もビームサーベルでお風呂を作って入りたい!」ってねだっていました(笑)。このシーンは100回くらいは見たと思います。

――シローとアイナのふたりは、『ガンダム』作品では珍しくハッピーエンドを迎えたカップルですよね。
草野 そうなんですよ。私はカガリとアスランも大好きなので『機動戦士ガンダムSEED DESTINY』の展開はあまりに辛く、もう震えながら見ていましたから(笑)。それくらい『ガンダム』では普通の幸福を得ることが難しいですし、それが戦争のリアルとして描かれているんですよね。そういう意味では、シリーズでも屈指のリアリティをもって描かれた『08小隊』なのに、その恋愛はファンタジーに映るというのはすごく不思議で、本来はこれが普通の人間だし、普通の幸せなんだなってしみじみ感じます。

――あらためて、草野さんにとって『ガンダム』シリーズとはどんな存在ですか?
草野 ひと言にまとめてしまうと「すべての創作意欲の源」ですね。『ガンダム』ってテーマやモチーフ、視点を変えつつも、一貫して「戦争」と「人間」を描いているじゃないですか。そのエネルギーたるや凄まじいものがあって、作品に触れるたびに私も刺激されて、自然と創作意欲が湧いてくる存在なんです。もちろん、死ぬまで追い続けますよ。endmark

KATARIBE Profile

草野華余子

草野華余子

シンガーソングライター/作曲家

くさのかよこ
「ただのオタクですが、勇気を出してロックやってます」
1984年生まれ。大阪府出身。3歳から音楽を始め、5歳から作曲を行う。大学卒業後は「カヨコ」名義でシンガーソングライターとして大阪のライブシーンを中心に活動。上京後は、LiSAをはじめとする数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲提供も行っている。