Febri TALK 2022.04.04 │ 12:00

草野華余子 シンガーソングライター/作曲家

①アニメオタクへの目覚め
『スレイヤーズ』シリーズ

シンガーソングライターとして音楽活動を行うかたわら、LiSA「紅蓮華」をはじめ数多くのアニメ主題歌も手がける草野華余子が選ぶアニメ3選。連載インタビューの1回目は、アニメオタクに目覚め、今もなお影響を受け続けていると語る『スレイヤーズ』。

取材・文/岡本大介

昔からリナの生きざまに憧れ続けているんです

――1本目は『スレイヤーズ』です。放送当時、草野さんはまだ小学生ですよね?
草野 10歳か11歳だったと思います。最初は「Get along」や「Give a reason」といったOP主題歌に惹きつけられたのがきっかけでした。林原めぐみさんや奥井雅美さんの声に子供ながらにものすごいパワーを感じて、そのままアニメ本編を見たらめちゃくちゃハマったんです。父にアニメイトに連れていってもらって原作小説を買ってもらい、それも読み込むようになりました。

――小学生で原作小説にまでさかのぼって読むのは珍しいですね。
草野 もともと本はよく読むほうなので、私としては自然な流れでした。でも、当時の私が読んでいたのは推理小説やSFが多かったので、リナが自分の胸が小さいことを気にしていたり、ちょっとした下ネタが当たり前のように出てくるのに触れて「あれ? いつも読んでいる本とは雰囲気が違うぞ?」と不思議に思いましたね(笑)。今思うと、これが初めてのライトノベル体験でした。

――オタクに目覚めるきっかけとなった作品なんですね。
草野 まさにそうです。それからはアニメイトで売っている同人作品にも手を伸ばすようになりましたし、やがてはコスプレをしたり自分で同人誌を描くなど、一人前の立派なオタクへと成長していきました(笑)。

――『スレイヤーズ』のどんなところにハマりましたか?
草野 リナ=インバースのキャラクターが強烈で、最初はそこですね。強くて男勝りなんだけど、女性らしいコケティッシュさも持ち合わせていて、私もこういう風に生きたいなと思ったんです。図らずも今の私には「強い」イメージがあるらしく、「女の子扱いされたい!」と思うリナの気持ちがよりわかるようになりました(笑)。

――印象深いセリフやエピソードはありますか?
草野 リナって名言が多いんですよ。破天荒な性格ながらも、意外と筋の通っていることを言うんです。私が好きなのは「負けるつもりで戦えば、勝てる確率もゼロになる。たとえ勝利の確率が低くても、必ず勝つつもりで戦う」で、これは音楽業界で仕事をする私の信条にもなっています。

――有名な「悪人に人権はない」に感化されなくて良かったです。
草野 私は「悪人にも人権はある」派ですよ(笑)。子供の頃はリナのパワフルな言動にただただ憧れを抱いていたんですけど、同時にそうした本質をついたセリフも胸に刺さるようになりました。アニメのリナは力強いセリフを大声で叫んだあと、急にボソッと真面目なトーンで話すことが多いんですが、その瞬間に「あ、この言葉はきっと大切なんだ」と感じていて。社会に出てからも「そういえば、あのときリナも言っていたな」って何度も思い出しました。こうした大切な言葉が子供の私にも自然と伝わっていたのは、リナを演じていらっしゃる林原めぐみさんの卓越した演技力が成せるワザだと思いますね。

――なるほど。リナ以外で好きなキャラクターはいますか?
草野 ゼルガディスです。クールなキャラクターなのになぜかいじられ役で、アメリアとの夫婦漫才みたいなくだりも大好きでした。あとゼルガディスを筆頭にみんな我が強いので、旅を続けているとどうしても喧嘩になってパーティーから離脱しそうになるんですが、リナってそういうときにも最後まであきらめずに対話をし続ける姿勢を持っていて、それも私がリナを好きなところなんです。なので、パーティーで喧嘩をしたエピソードは何回も見直した記憶がありますね。やっぱり昔からリナの生きざまに憧れ続けているんです。

リナの言葉が子供の私にも

自然と伝わったのは

林原めぐみさんの卓越した

演技力が成せる技だと思います

――最初は主題歌に惹かれたとのことでしたが、自身の音楽活動に影響を与えている部分はありますか?
草野 大いにあります。DNAに刻み込まれているレベルです。『スレイヤーズ』や90年代のサンライズ作品には、80年代後半の歌謡曲のテイストを受け継いでいる主題歌が多いと思うんですけど、サビには必ずパンチワードが入っていて、一度聞いただけですぐに歌える曲ばかりなんですよね。そういう力強さっていうのは自分の作品にも絶対的に求めています。『スレイヤーズ』シリーズのOP主題歌はすべて佐藤英敏さんが作曲されているのですが、他にも気になった作品の主題歌を調べたら佐藤さんが書かれていることが多くて、もう大好きです。

――佐藤英敏さんの代表曲としては、有名どころでは「残酷な天使のテーゼ」がありますね。
草野 そうそう。『ロストユニバース』の「〜infinity〜∞」も好きですし、本格的にアニソンに目覚めたきっかけでもあります。コード進行や転調のさせ方など、私の作る作品にも同じニュアンスやフレーバーが出ていることが多くて、無意識に相当影響を受けているなと感じます。

――草野さんはいろいろなアーティストに楽曲を提供していますが、林原めぐみさんと会ったことはあるんですか?
草野 ないんですよ。もし、死ぬまでに林原さんの楽曲を一度でも手がけることができたら、そのCDは必ずお墓に入れてもらいます。私、それできっと成仏できると思うので(笑)。

――いつかかなうといいですね。
草野 そうですね。ありがたいことに最近は憧れのレジェンド声優さんからオファーをいただく機会も増えたんです。それこそ緒方恵美さんなど、これまで何十年も聞きたかったことを「楽曲制作のためのヒアリング」という体(てい)で直接伺うことができたりして。アニメオタクとして、音楽をやっていて良かったと心から思いました(笑)。endmark

KATARIBE Profile

草野華余子

草野華余子

シンガーソングライター/作曲家

くさのかよこ
「ただのオタクですが、勇気を出してロックやってます」
1984年生まれ。大阪府出身。3歳から音楽を始め、5歳から作曲を行う。大学卒業後は「カヨコ」名義でシンガーソングライターとして大阪のライブシーンを中心に活動。上京後は、LiSAをはじめとする数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲提供も行っている。