Febri TALK 2022.04.08 │ 12:00

草野華余子 シンガーソングライター/作曲家

③初めて主題歌を提供した
『SHIROBAKO』

シンガーソングライターとして音楽活動を行うかたわら、LiSA「紅蓮華」をはじめ数多くのアニメ主題歌も手がける草野華余子が選ぶアニメ3選。インタビュー連載の最終回は、作曲家として初めてアニメ主題歌を提供し、自身の転機にもなった『SHIROBAKO』。

取材・文/岡本大介

ずかちゃんの闇落ちシーンに心がキューっとなります

――『SHIROBAKO』は草野さんが初めてアニメ主題歌の作曲を手がけた作品ですね。
草野 そうです。『SHIROBAKO』では前期・後期ともにOPテーマの作曲を担当させていただきました。もともとP.A.WORKSさんの作品は大好きでしたし、なかでも『花咲くいろは』はドタバタなコメディ要素もあればグッと胸を締めつけるシーンもあって、とっても素晴らしい作品でした。『SHIROBAKO』はその「働く女の子シリーズ」の第2弾ということで、すごくうれしかったですし、同時に気合いも入りました。

――前期OPテーマの「COLORFUL BOX」は流行や時代に流されない、キャッチーで力強いアニソンですよね。
草野 そう言っていただけるのがいちばんうれしいです。私としても、子供のときから親しんできた「古き良きアニソンにしたい」という気持ちがすごくあったんです。現代の音楽は音の数ももっと多いですし、ハモりも何層にもなっていたりするんですけど、そういう方向性ではなく、少ない音符とメロティで「何」を「どこまで」伝えられるかということをいちばんに考えました。彼女たち5人が大好きなことへ向かっていく胸の高鳴りはもちろん、壁を乗り越えようと涙するところのどちらも表現したいと思い、サビの前半はメジャーコード、後半はマイナーコードで進行するという展開にしたんです。

――そうだったんですね。『SHIROBAKO』はアニメーション制作の舞台裏を描いた作品ですが、ひとりの視聴者として見た感想はいかがですか?
草野 アニメを作るためにはこれだけの人が関わっていて、あちこちで衝突やトラブルもあって、それでもいいアニメを作るために突き進んでいるんだっていう気持ちに尽きますね。アニメオタクとしてもアニソン作家としても、いろいろと学び直しがありました。もちろん、アニメ制作だけでなくどんな仕事にも締め切りはありますし、それは守らないといけないものなんですけど、それでも間に合わないことって、やっぱりあるんですよね。

――「万策尽きた!」って叫びたくなることもありますよね。
草野 ホントそれ! 私なんて万策尽きてばっかりですから(笑)。でも、きっと万策尽きたその先で何ができるかっていうのが勝負なんですよね。あと『SHIROBAKO』で私が胸を締めつけられるのが、新人声優のずかちゃん(坂木しずか)の存在なんです。宮森あおいをはじめ、ずかちゃん以外の4人って、苦労はあるけどそれなりに前に進んでいるじゃないですか。でも、ずかちゃんはなかなかオーディションに受からず、足踏みをしていて。物語も終盤の第22話「ノアは下着です。」でも、暗い部屋でひとり缶ビールを握りしめながらテレビを見ていて、そこに映っている年下の人気声優の忙しいアピールに「じゃあ、代わってあげようか?」って毒づいて。「なんでだよ」って呟いて酔いつぶれるシーンとか、もう胸がキューってなります。

OP曲「COLORFUL BOX」は

子供のときから親しんできた

古き良きアニソンにしたかった

――草野さんにも似たような体験があるんですか?
草野 私も大阪から上京してきた当時は順風満帆ではなかったんです。両親や妹、親友と離れて、いざ音楽とひとりきりで向き合ったときに、これまでいかにまわりの人たちに支えられてきたのかを痛感しました。大阪時代には毎週のようにライヴハウスで音楽仲間と飲んでいたので余計に孤独感を感じてしまい、曲が思う通りに書けなくなった時期もあって。でも、あきらめずに夢に向かって進もうとするずかちゃんの姿を見て、私も頑張ろうって勇気をもらえて。あの時期は本当に『SHIROBAKO』に救われました。

――P.A.WORKS作品でいえば、2021年にも『白い砂のアクアトープ』で2曲のOP主題歌を提供していますね。
草野 これは本当にうれしい出来事でした。『SHIROBAKO』の時期に感じていた作曲の苦しみが今や楽しみや喜びに変わっていて、ようやく「私はちゃんと手に職をつけられたんだ」って実感することができました。タイミング的にもLiSAさんの「紅蓮華」が大ヒットしたあとだったので、あらためて初心に帰ることができました。

――「紅蓮華」以降、楽曲提供のオファーもかなり増えたと思いますが、そのぶんソロ活動の機会が減ってしまうという葛藤はありませんでしたか?
草野 葛藤がまったくないと言ったら嘘になるかもしれませんが、でも人から求められることって大切じゃないですか。それこそムサニ(武蔵野アニメーション)の杉江(茂)さんも、作画監督を引き受けるかどうかで悩む(安原)絵麻ちゃんに「才能っていうのは、まずチャンスをつかむ握力と失敗から学べる冷静さだと思う」って背中を押しますよね。美術の大倉(正弘)さんだって「自分の進む先が最初から見えていたわけじゃないんだ。気がつくと、今ここにいる、それだけ」って言っていますし(笑)。

――今は求められることをやろうというスタンスなんですね。
草野 そうです。せっかくまわりから求められているときに、自分の変なこだわりやプライドを優先するのって、自分で自分の可能性を狭めているだけのような気がするんです。大人になって丸くなったとか夢を見なくなったということではなく、私にとっては今過ごしているこの毎日が夢のようなもので、すごく不思議な感覚なんです。たしかに忙しい毎日ですけど、めちゃめちゃ苦労して曲を提出したあとに飲むビールが何よりも美味しいですし(笑)。だからこそ人間は働くんだろうって感じています。なので、今はこの道を行ける限り歩き続けてみたいなと思っています。endmark

KATARIBE Profile

草野華余子

草野華余子

シンガーソングライター/作曲家

くさのかよこ
「ただのオタクですが、勇気を出してロックやってます」
1984年生まれ。大阪府出身。3歳から音楽を始め、5歳から作曲を行う。大学卒業後は「カヨコ」名義でシンガーソングライターとして大阪のライブシーンを中心に活動。上京後は、LiSAをはじめとする数多くのアーティストやアニメ作品への楽曲提供も行っている。