Febri TALK 2022.01.26 │ 12:00

待田堂子 脚本家

②「余白」の演出力を楽しむ
『ベルヴィル・ランデブー』

『らき☆すた』『THE IDOLM@STER』『Wake Up, Girls!』『プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~』など、数々の人気TVアニメでメインライターを務める脚本家・待田堂子の人生を左右したアニメ作品を聞く連載インタビュー。第2回は『ベルヴィル・ランデブー』。ほとんどセリフがない長編アニメーション映画を、脚本家の目でどうとらえたのか。

取材・文/日詰明嘉

アニメーションとしての表現力の凄さを見せつけられた

――2本目に挙がったのは、フランスのアニメーション映画『ベルヴィル・ランデブー』です。2010年に公開された『イリュージョニスト』で広く知られるシルヴァン・ショメ監督による初の長編作品ですね。
待田 映画館の予告で偶然知った作品で、そのとき(日本公開は2004年)、私はプロとして活動していました。セリフがほとんどない映画で、まだ自分がこういった作品を作ることができていないからこそ魅力的に映り、アニメーションがますます好きになりました。DVDも買って、今でも折りに触れて見ています。

――どんなところが魅力的でしたか?
待田 実写だとどうしてもセリフが欲しくなるのですが、アニメーションであれば全編ほぼセリフなしでも構築することができるんだなと、長尺アニメーションの表現力の凄さを見せつけられた気がしました。クレジットでは監督が脚本も担当されているので、ト書きの脚本があるのか、あるいは宮崎駿さんのように絵コンテから描き始めているのかもしれませんが、芝居でいうところの無言劇のような映画で、ゆくゆくは自分もそういった作品を書いてみたいなと見た当時に思いましたし、今でも思っています。

――ひとつひとつのシーンに対するアイデアが豊富だなと思います。
待田 駄犬だと思われていた飼い犬が大活躍したり、伏線の張り方も秀逸なんですよね。監督自身のさまざまな経験や周辺にいる人たちの姿をアイデアとして生かしているのだと思います。私も日々の出来事や人間観察からアイデアとして使えそうなものはないかと、アンテナをいつも張っています。たとえば、最近は女子中高生がメインキャラクターの作品を書くことが多いのですが、今の若い子たちのリアリティを知るために、ハンバーガー屋で会話を盗み聞きしたりしています(笑)。もう、会話のテンポや展開の予測がつかないんですよ。話の途中なのにいきなり帰ってしまったり。「ちょっと、そのあとの話はどうなるのよ!?」と心の中で突っ込んだりしています。自分の頭の中だけで考えているとそれだけで完結してしまうので、他にもNHKの『目撃!にっぽん』や『事件の涙』など、自分以外の人生が垣間見える番組を見ることで幅を広げるようにしています。

――視聴者として作品に触れる際に、つい脚本家視点で見てしまうことはありますか?
待田 あまりないですね。一度見たものを見直すときは「私だったらこうするかな」と考えたりするのですが、最初は純粋にいち観客として見ています。とくに映画はお金を払って見るものですから、素直に楽しみたいですね。

完結しているようで

していなくて

そんな「余白」のある

終わり方がすごく好きでした

――『ベルヴィル・ランデブー』のキャラクターについてはどう思いましたか?
待田 キャラクターはみんな濃いのですが、その個性がとてもうまく描かれていると思いました。とくに主人公のおばあちゃんと孫の関係性が濃密に描かれていて、決して過保護ではなく、それでいて愛情があることが見てとれます。ひとりぼっちの孫をなんとか元気づけようと三輪車を買ってあげて、それに乗ったときにだけ孫が笑顔になる。この一瞬でふたりの関係性を描き出す演出力が素晴らしいですよね。ロードレーサーになった孫からのリアクションはあまりないですが、おそらくそこは「余白」としてあえて描かなかったのではないかと思っています。おばあちゃんの気持ちは孫にきっと伝わっていて、いずれ恩返しが……と、とても温かい気持ちになりました。

――終盤、変装したおばあちゃんがスクリーンに向かって自転車を漕ぐ孫を見守るシーンがありましたが、あの眼差しがとてもよかったです。
待田 そうですよね。レースは途中でダメになってしまったから、スクリーンでイメージトレーニングしている孫を見守っている。あれだけ愛情を注いでいたから、最後におばあちゃんが孫を助けたあとに「いつかこれが逆になることもあるんだろうな……」と想像できるんです。完結しているようでしていなくて、そんな「余白」のある終わり方がすごく好きでした。見終わったあとに自分でその先を思い描いたり、一緒に見に行った相手と感想を語り合える作品で、それがまた素晴らしいと思います。

――作品の「余白」を作るうえで脚本のコツなどはあるのでしょうか?
待田 「余白」はエンドマークの先を予感させるものですから、そこまでを思いきり充実させることができれば、視聴者が「もっとこのキャラクターたちを見ていたいな」と思うようになります。私が『ベルヴィル・ランデブー』を好きなのもそれが理由で「この人たちをもっと見たいな」と思えるんです。

――待田さんはそうした作品作りをしたことはありますか?
待田 私はうまい「余白」作りをまだ実現できてはいないですね。つい、エンドマークまでにすべてを描ききりたくなってしまうんです。「余白」は下手に作ってしまうと「え、ここで終わり?」と視聴者に思われてしまう危険もありますから、意図的に作り出すのは容易ではありません。終わったあとに視聴者が「こうなったらいいな」と思いをめぐらせたり、「こうなっていてほしいな」と語り合ったりできるのがいい作品だと思いますし、私自身もそうした作品作りを目指しています。endmark

KATARIBE Profile

待田堂子

待田堂子

脚本家

まちだとうこ 愛知県出身。シナリオ・センター在学中の1999年、橋田寿賀子シナリオ新人賞を受賞し、『週刊ストーリーランド』をきっかけに脚本家となる。主な参加作品に『らき☆すた』『THE IDOLM@STER』『Wake Up, Girls!』『SHOW BY ROCK!!』『プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~』など。

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