Febri TALK 2022.01.28 │ 12:00

待田堂子 脚本家

③アニメファンの存在を意識した
『らき☆すた』

『THE IDOLM@STER』『Wake Up, Girls!』『プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~』など、数々の人気TVアニメでメインライターを務める脚本家・待田堂子の人生を左右したアニメ作品を聞く連載インタビュー。第3回は京都アニメーションの代表作のひとつで、その後の脚本家人生に大きな影響を与えた『らき☆すた』について。

取材・文/日詰明嘉

自分が思うよりもずっと多くの人に見られている、と実感した

――3本目は京都アニメーション(以下、京アニ)の大ヒット作『らき☆すた』です。まず、このタイトルは待田さんにとってどんな作品と言えますか?
待田 「視聴者に向けて作る」ことを考える最初のきっかけになった作品です。1本目に挙げた『週刊ストーリーランド』に京アニさんも参加されていたので、そのご縁からお仕事をいただきました。いわゆる「アニメ好きの方」に向けたアニメに参加するのは初めてだったのですが、KADOKAWAの伊藤(敦)プロデューサーは「売れる作品」を作ることを非常に意識されていて、それまでそういった観点をあまり持っていなかった私にとってはとても勉強になりましたし、お客さん=視聴者の方々と真摯に向き合うターニングポイントになった作品だと思います。

――主人公がオタクの女子高生で、想定視聴者が共感するようなキャラクターでしたが、そういう嗜好を持っていなかった待田さんはどのように作り上げていったのでしょうか?
待田 「オタクならではの視点」はすごく面白かったですし、知らないことがたくさんあったので、逆にそれを楽しんでいました。周りにアイデアマンもたくさんいたので、そこまでの苦労はなかったですね。この作品の構成会議は独特で、みんなで合宿して、原作のどの話をどのように組み込むかといったことまで細かく決め込んでいくんです。そこで出来上がった構成に沿って脚本を書き、さらにスタッフと話し合いながら膨らませていきました。

――具体的にそれが生かされたシーンはどのあたりでしょう?
待田 たとえば、第1話のAパートはひたすら女の子たちの他愛もない会話の連続で構成されています。そこに原作の要素を散りばめる際に、いろいろなネタがあったほうがいいだろうということで、みんながアイデアを出してくれました。会議の中で原作を一度バラバラにして再構築するということを伊藤プロデューサーと京アニのスタッフさんが行っていくのを見て、非常に感心しました。自分も原作を読み込んでいたつもりだったのですが、もう一度そのような視点で原作を読み直すことで、少しずつ理解を深めていきました。

――オタクカルチャーの小ネタを会話の中に採り入れるときには、固有名詞がどんな意味を持つのかを知っている必要があるので大変ですよね。
待田 そうですね。本来ならすべて紐解いてマンガを読んだりゲームをプレイしたりするべきだとは思うのですが、そこまでは時間の問題で追いつかなかったので、みんながその作品のどこをどう面白がっているのか、スタッフの皆さんに教えてもらいながら調べていきました。

それまで知らなかった

「オタクならではの視点」を

楽しみながら書いていました

――「京アニの新作」ということで放送前から注目を集めていましたが、そのあたりは意識していましたか?
待田 『涼宮ハルヒの憂鬱』の大ヒットからの流れでたくさんの人の目に触れて、高く評価していただけたのはうれしかったですし、アニメ作品の影響力を実感したことでその後の作品との向き合い方が大きく変わりました。純粋に「自分がたずさわっているものが、自分で思っているよりもずっと多くの方に見られているんだ」と思いましたね。それまでは地道に営業をしてお仕事をいただく状態だったのが、『らき☆すた』のあとは面識のない方からも声がかかるようになりました。そういった意味でも、私の脚本家人生におけるかけがえのない作品になりましたし、今の自分があるのは『らき☆すた』があるからだと思っています。

――『らき☆すた』の経験で、後の他の作品に生かされたものとしてはどんなものがありますか?
待田 女の子たちの会話劇という部分では『THE IDOLM@STER』につながりましたし、今度はそこで音楽をどう扱うかを学びました。脚本を書きながら「この場面でこんな感じに音楽が入って……」と思い描いていて、それが必ずしも演出家の考えと一致するわけではないのですが、そこで得た経験がさらにその後の『SHOW BY ROCK!!』で発揮できたのかなと思っています。いろいろな仕事で学んだことが、少しずつ次につながっているような気がしますね。

――『週刊ストーリーランド』での下積み修行から続くつながりの結果、現在の待田さんがあるわけですね。
待田 経験したことを着実に次の現場で生かすことができたという意味では、本当に運がよかったのだと思います。……と言うと、なんだか順調にきたように思われてしまいますが、私の脚本家人生を拳法にたとえると、みんながヘバって正拳突きも出せなくなってしまったなか、ひとりだけ突き続けてどうにか認められて、でも他流試合に行ったらボコボコにされて、「もう一回行ってこい」と言われて続けているうちに徐々に段位を上げた、みたいな感じです(笑)。褒められるよりもダメなところをビシッと指摘されたほうが、負けず嫌い精神に火がついて頑張れるんです。

――この先、脚本家として挑んでみたいジャンルやテーマはありますか?
待田 私はシェイクスピアが大好きなのですが、シェイクスピアの史劇を原作とした『ホロウ・クラウン/嘆きの王冠』というBBC(イギリス放送協会)で放送されたドラマがあって、これの日本王朝版をやりたいんです。何世代にもわたるお話なので時代を経るごとに役者も変わるのですが、アニメならスムーズに出していけます。もうひとつ、『Wake Up,Girls!』の取材で気仙沼に行ったときに「漁師カレンダー」というものを目にしたんです。そこに写っている漁師の方々がすごくカッコよくて。それからあちこちで「漁師のお話ってどうですか?」と言っています(笑)。いつかこのふたつが実現できたらいいなと思っています。endmark

KATARIBE Profile

待田堂子

待田堂子

脚本家

まちだとうこ 愛知県出身。シナリオ・センター在学中の1999年、橋田寿賀子シナリオ新人賞を受賞し、『週刊ストーリーランド』をきっかけに脚本家となる。主な参加作品に『らき☆すた』『THE IDOLM@STER』『Wake Up, Girls!』『SHOW BY ROCK!!』『プラオレ!~PRIDE OF ORANGE~』など。

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