Febri TALK 2021.05.24 │ 12:02

横槍メンゴ マンガ家

①自分の欲しいものが全部入っていた
『十兵衛ちゃん』

『【推しの子】』(原作/赤坂アカ)が好評連載中のマンガ家・横槍メンゴ。惚れ込んだマンガをSNSで猛プッシュすることでも有名だが、じつはアニメ愛も相当なもの。今回はその愛を、全3回のインタビューで語り尽くしていただいた。初回のテーマは「タイムスリップしてきたサムライフェチ」!?

取材・文/前田 久

サムライのいる時代は怖いから、ほっこりした現代に連れてきてあげたい

――週刊連載でとてもお忙しいなか、取材のご相談をしたら熱い即レスをいただいて。そのときの様子から、アニメがものすごく好きなのが伝わってきました。
横槍 そうなんですか? 知らない人よりは知っていると思いますけど、私、マンガに比べたらアニメの知識は浅いし、まわりにもっと好きな人がいるから、そんなにアニメ好きだとは意識していなくて。……これって「本当のオタクほど、自分のことをオタクと思っていない」みたいなアレですかね?(笑)

――かもしれません(笑)。そんな横槍先生が1本目に挙げたのは『十兵衛ちゃん』です。『十兵衛ちゃん -ラブリー眼帯の秘密-』『十兵衛ちゃん2 -シベリア柳生の逆襲-』というTVシリーズが2作作られた大地丙太郎監督のオリジナルアニメですね。
横槍 『1』は世代的にリアタイ視聴できなかったんですよ。高校生のときに『十兵衛ちゃん2』がリアタイで、それが私にとって最初に触れた「自分の欲しいものが全部入っているアニメ」です。いちばん幸せなTVアニメ体験として記憶に残っています。

――おお。
横槍 たぶん、世間的にはちょっとニッチなアニメですよね?

――このアニメを挙げたのは、横槍先生が初めてです。
横槍 私、千年後にも残ってほしい神アニメだと本当に思っているんです。変なアニメではあるんですけど(笑)。当時もそう思っていましたし、今見てもやっぱり変。大地監督のエッセンスがギュッと詰まっている感じですよね。原液みたいな(笑)。

――どんなところが好きなんでしょう?
横槍 まず、単純にクオリティーがすごく高い。めちゃくちゃよく動く。そしてシリアスなところはシリアス全振りなのに、そこから休む間もなく、はちゃめちゃなギャグも挟まる。むっちりむうにい先生原案のキャラクターデザインは子供向けでも通用する雰囲気があるのに、その絵で深夜アニメっぽいこともちゃんとやる。そんな、ごった煮感が好きだったんです。……でも、いちばん大きいのは鯉之介かな。置鮎龍太郎さんが声をあてている、この作品のメインキャラ。私、このキャラのせいで「タイムスリップしてきたサムライフェチ」になっちゃって。

鯉之介のせいで

タイムスリップしてきた

サムライフェチになった

――ど、どういうことですか?
横槍 現代社会の暮らしを知らない人が、日本に来て、ファーストフードにびっくりする……みたいなシチュエーションに対する萌えが、鯉之介で自分の中に根付いた。異性の好みが完全に固定されたんですよ。

――それはサムライに限らず、「カルチャーギャップにとまどう姿萌え」みたいなことですか?
横槍 ……サムライがいいんです!

――(爆笑)。
横槍 タイムスリップしてきた、現代を知らない人がいいんですよね……語尾は「ござる」で。本格的な時代劇は、殺伐としていて怖いんですよ。サムライのパーソナリティーには萌えているんだけど、サムライのいる時代は怖いから、ほっこりした現代に連れてきてあげたい。『十兵衛ちゃん』はまさにそういう話で。剣だけで生きてきた人を、「剣だけで生きなくていい」って解放してあげる話なんですよね。あと、もうひとつポイントがあって、タイムスリップサムライとは、物語の最後に永久の別れが訪れないといけない。これは『十兵衛ちゃん』の前に『天空のエスカフローネ』のバァンで知った萌えなんですけど、鯉之介はその点もバッチリで、そこがすごく好きなんです。

――うっすら自覚していた萌えが、鯉之介で確信に変わった。
横槍 そういうことですよね。鯉之介を知ってから、そのタイプを探し求めるようになっちゃいましたし。アニメじゃないんですけど、ゲームの『beatmania IIDX』に出てくる士朗も、タイムスリップはしていないですけど、現代でサムライを目指している感じが好きでした。

――『フルメタル・パニック!』の相良宗介はダメですか?
横槍 宗介、大好きです!! ああいう、話の通じなさそうな人が大好きなんですよ。「サムライっぽい」って、言い換えたら「融通がきかない、頑固」って感じなんだと思います。なんか、そういう人が萌えなんでしょうね。じつは二次元だけじゃなく、現実でもそうです。ただ……もし、同じようなタイプに萌えを感じる人がいたら、この場を借りて言っておきたい。この萌え、ちょっと間違えると、思想的にヤバい人を引きがちなので気をつけてください。男根主義な人、古臭いマッチョ思想の持ち主が、現実のサムライタイプには混ざっている。そういう人はダメですよ。私が好きなのは、そんなイヤなところがないサムライ……こういうタイプをパッと表せる言葉がほしいなあ。仲のいい友達には「ああ、メンゴが好きなヤツね」で通じているんだけど(笑)。最近だと『チェンソーマン』の早川アキも、そのエッセンスをちょっと継いでいる感じですね。あ、そうそう、もうひとつポイントがあって、タイムスリップしてきたサムライを養いたいんですよ、私。サムライは無職がいい。

――……業が深い!!
横槍 強いけど、現代では職なしで生きていけない。そういうギャップもいいんでしょうね。歪んでますかね?(笑) ともあれ、ほかにも最終回でめちゃくちゃ感動したとか、好きなところがいっぱいある作品です。どうしても鯉之介の存在がデカいので、今日はそこをいっぱい話しちゃいましたけど。

――先生の作品のファンは楽しめそうですね。
横槍 たぶん、好きになると思いますよ。自作で言うと『クズの本懐』より『レトルトパウチ!』寄りかな? 私の作品のコミカルな部分にシンパシーをおぼえてくれた人は、見てもらえるといいのかもしれないですね。endmark

KATARIBE Profile

横槍メンゴ

横槍メンゴ

マンガ家

1988年生まれ。三重県出身。主な作品に『君は淫らな僕の女王』(原作/岡本倫)『クズの本懐』『レトルトパウチ!』など。現在「週刊ヤングジャンプ」で『【推しの子】』(原作/赤坂アカ)連載中。【Twitter】@Yorimen

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