Febri TALK 2021.05.28 │ 12:02

横槍メンゴ マンガ家

③「哀」の感情が刺激される
『屍者の帝国』

『クズの本懐』『【推しの子】』のマンガ家・横槍メンゴが、強い影響を受けたアニメを深堀りしていくインタビュー連載。最終回では、プロデビュー後に影響を受けたタイトルとして、夭折のSF作家・伊藤計劃の遺作をアニメ化した「Project Itoh」三部作の一本を語る。キーワードは「哀」、そして……。

取材・文/前田 久

ふたりだけで完結した関係に、すごい憧れがあるんです

――最後は『屍者の帝国』です。2015年と、比較的近年の作品ですね。
横槍 これまでお話してきたのは人格形成の時期に影響を受けた作品ですけど、作家になったあとに強く影響を受けたタイトルを選ぶなら『屍者の帝国』かな、と。伊藤計劃が好きな友達に誘われて見に行ったんですね。その子はフラットにアニメを見る子なんで、見終わったあとに「エンタメ超大作だったね」と言っていたんです。実際、ちゃんとした感想はそうだと思います。冒険活劇だし、きれいな女の子も出てくるし。でも、私、見終えたとき、なぜだかまったくそんなことが考えられないくらい悲しくなってしまって、その感覚がずっと残っていたんですよね。

――ご友人の感想もわかりますし、横槍先生のお気持ちもわかります。派手なアクションがあって大団円的に終わりますが、手放しのハッピーエンドではないですからね。
横槍 マンガ家って、喜怒哀楽のどの感情で描くかで分類できるという話を聞いたことがあるんです。私の好きな作家さんたちは「怒」の感情で創作するタイプが多いんですけど、私自身は怒るのが下手なんですよ。怒りの感情も強くないし、発散も下手で、表現として苦手。喜怒哀楽の中で得意なのは「哀」で、興味もある。その「哀」の感情をすごく刺激してくれる映画でした。主人公のワトソンに、永遠に親友のフライデーを失った悲しみのなかにいてほしいと思ってしまう。なんかそういう、ちょっと良くない楽しみ方をしているんです。

――いやいや、そんなことは。
横槍 自分が持っている「ずーっと、なんだか悲しい」みたいな気持ちに寄り添ってくれるところがあって、どこか奇妙な映画なんですよね。「この企画がよく通ったな」なんてことを少し思ってしまう。……あ、そうか。話していて気づきましたよ。今回選んだ作品には、どれもそういうところがありますね。アニメを作るのにはけっこうなお金がかかるし、たくさんの人を動かさないといけないしで、普遍性のある、みんなが好きなテーマのほうが企画は絶対通りやすい。そんななか、いろいろな条件をクリアして、よく通ったなあ、この企画……みたいな作品が好きみたいです。マンガって個人的なコンテンツだから、かなり変わったことでも、本人が発信したいという強い気持ちだけでわりと世に出せる。予算もそんなに……まあ、アニメに比べたら小規模で済みます。アニメになるということは、それだけでけっこうな人数の人が、その作品を認めているということなんですよね。「これは私だけが感じているものかもしれない」という奇妙な気持ちを、形にしたいと考える人が何人もいること、奇妙なアニメが存在することそれ自体が、私にとっての救いみたいな一面があるんでしょうね。

自分が持っている

ずーっと、なんだか悲しい

みたいな気持ちに

寄り添ってくれる映画

――面白いですね。
横槍 あと、『屍者の帝国』って主人公が死んだ親友に固執して、その死体と一緒に旅をする内容ですよね。主人公はその過程でいろいろな人間と出会って世界が広がったのに、最後はやっぱり、ふたりきりの関係に戻る。その状態になってからの主人公のモノローグも、EGOISTの主題歌も、全部好みなんです。完全に解釈一致!みたいな感じ。……エンドロールのあとにある2分くらいの映像はちょっとわからないですけど(笑)。

――ホームズが出てくるあれは、まあ……ファンサービスというか……(笑)。
横槍 ともあれ、『天気の子』もそうですけど、私、「セカイ系」っていうのかな……ふたりだけで完結した関係に、すごい憧れがあるんですよ。なりたいけど、なれない。世の中にはけっこういるじゃないですか。人間関係はもう、パートナーひとりでいい……みたいな人。いません?

――いますね。結婚するとプライベートな部分が家庭のみで完結する人。もちろん、それが必ずしも悪いわけではないのですが。
横槍 私は親しい人間が50人ぐらいいないと無理なんですよ(笑)。絶対に、ふたりだけの関係に閉じられない。私が描くキャラクターは、ふたりだけの関係に閉じたがる人が多いので、よく誤解されるんですけどね。なれないから、憧れて、興味を持って、そういう人たちを描いているだけなんですよ。

――創作をするには、そうしたどこかしら俯瞰の目線がないと厳しいのでは?
横槍 どうですかね? それこそ作家になるような人って生きづらそうな人も多いから、余計に「この人だ!」と気を許せる人を見つけたら、人間関係を一本化する人が多いイメージがあります。あんまり私みたいなタイプは見ない。

――うーむ、なるほど……。
横槍 私は『チェンソーマン』風に表現するなら、「人間の悪魔」なんです。これ、最近、似たタイプの友達と笑いながら話していたんですけど。他人にしか興味がないんです。赤坂アカは「メンヘラじゃなくて、メンヘラに興味を持ってよく見ている人。つまり、メンヘラのオタク」なんて表現してくれます。さすが、よく私を理解してくれているなと思いますね(笑)。

――『屍者の帝国』は、そんな横槍先生の気持ちにズバッとハマる作品だった。
横槍 そう。見ていると、ワトソンとフライデーの関係がうらやましくて仕方ないです。endmark

KATARIBE Profile

横槍メンゴ

横槍メンゴ

マンガ家

1988年生まれ。三重県出身。主な作品に『君は淫らな僕の女王』(原作/岡本倫)『クズの本懐』『レトルトパウチ!』など。現在「週刊ヤングジャンプ」で『【推しの子】』(原作/赤坂アカ)連載中。【Twitter】@Yorimen

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